【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。35 ~絶望的な字面~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

『ずっと…………あいつの刀が刺さったままだ……』

 砕け散ってしまいそうだった、あの時のガリさん。

 今回、サル・シュくんが死んだら、……私にも、その刀が、刺さる……

 ガリさんだけでも、ちゃんと見送れて、良かった……

 良かった……

 ガリさん、教えてくれてありがとう……っ!

 リョウさんも、ちゃんと見送りさせてくれてありがとう…………

 サル・シュくんっ……どうやってでもいいからっ、生きて帰って来て!

 ル・マちゃんが、私の涙を拭ってくれた。

「こんなときは、後ろを考えない方がいいし、二人乗りの奴がいると遅くなるから、仕方ないよな……

 なんで、俺に血の道来てる時に全力なんだよ……前の時もそうだったし………その前もだった…………いつもいつも………」

 なんか、イヤな方に思考が行き掛けたけど、ル・マちゃんが毛布を蹴り上げたから、ハッ……てなった。

 ル・マちゃんがめっちゃ拗ねてる……イタタタタ……っておなか抱えて俯いた。

 そうだね。

 もう、私が考えてどうなることでもない。考えるのよそう。

 駄目なら死んだらいいんだ。

 それだけの話。

 うん、駄目なら、死んだらいいんだ。

 絶望的な字面の筈なのに、なぜか元気が出るな、この言葉。

 駄目なら死んだらいいんだ。

 うん、そうだね。

「おれーもー、はやくしゅつじんーしたーいーっ!」

 ル・マちゃんが温石を抱き抱えてベッドの上をゴロゴロゴロゴロ。

 今回は偶然かもしれないけど、山では多分、ル・マちゃんが生理の時を狙って出陣してるんじゃないかと、思うけど、それは、考えすぎかな?

 このル・マちゃんが元気な時に、本当に『おいていかれた』ら、じっとしてないと思う。『絶対に動けない時』を狙ってガリさんたちが出陣してるから、ル・マちゃんは『駄々をこねる』程度で済んでるんじゃないのかな?

 毎回健康な時においていかれたら、ものすごく暴れたり、忍んでついていったりして、『女だから連れて行かない』って、言われてると思う。

 だって、レイ・カさんが戻ってないってことは、この一カ月も、ずっとどこかで戦闘してたってことでしょ?

 今回みたいに、ル・マちゃんが動けない時に『大きな戦』を知らせて、他は黙ってるんじゃないだろうか?

 ル・マちゃんは、たまに夜中に起きることがあるし、この前みたいに、壁を登ってきたとか、すぐ気付いて起きる。

 けど、平和な朝は、起こさなかったらずっと寝てるから、その間に出陣されてるよね。

 本当に、よく寝るよね、ル・マちゃん。

 凄く背が高くなるのかもしれない。ガリさんに似たら、リョウさんは軽く追い越すかも。

「山でもル・マちゃん。朝起きたらみんなが戦から帰って来た、ってこと、なかった?」

「いつもそうだぜっ! なんで起こさないんだっ! て言うけど、起きなかったって言われたら…………たしかに俺、起きないみたいだし……」

 うー、と唸ってる。やっぱり。

 これはあれだよね。

 ガリさんがリョウさんに望んでた「賢い子」って、アレだ。自分の娘がかなりオバカだと分かってるんだ、ガリさん。

『キラ・シの偉大なる長老となれ。ハル。

 俺の血を引く、凶つ者を作れ』

 ガリさんの『戦闘能力』と、私の『思考力』。両方持ってる『化け物』って……こと、だよね。

 私、自分で賢いとは一度も思ったことないから、凄い、プレッシャー。偏差値51だし、得意科目もないし計算遅いし……でも、読書だけはしてた。半分漫画だけど、結果的にそれが、今は、生きたんだ。

 キラ・シの役に立ってる。

 そこを、認めてくれたんだ。

『ココではシロを守る男が必要だ。

 15年後、お前の子が、全部のシロを守る。

 それでキラ・シの後ろは一枚岩になる』

 私の子供を、城主にする、っていう……宣言。

 恐ろしい……

 生まれる前の前から、そんな運命を背負った子供。

『でも…………駄目なんだ………………あいつの子じゃ、キラ・シは救えない……』

 そう、ル・マちゃんの子供も、そうなんだ。

 そのためだけに、ル・マちゃんは、生きてるんだ。

「……ル・マちゃんは、サル・シュくんが一番好きなんじゃ、ないの?」

 ゴロゴロ転がってた温石玉が、向こう向いて止まった。

「予知が……先見が間違ってる、ってこともあるじゃない?

 そこまでル・マちゃんが頑張らなくても、ガリさんとリョウさんがもっとどうにかしてくれるよ。ル・マちゃんが頑張らなくても、それをル・マちゃんのせいだとは、誰も思わないよ」

 けど、村を鉄砲水が襲ったり、そして、この、『東に女がいる』っていう、予知は当たったんだ。

 その、『俺と父上の子供がキラ・シを救う』というのも、多分、当たるんだろう。

 ル・マちゃんを、犠牲にして。

 逆に言うと、その子が生まれなかったら、キラ・シが滅びる、ということ、……だよね。

「俺は、サル・シュが、好きだ」

 温石玉の背中が呟く。

「でも、父上が、もっと好き」

 ル・マちゃんが、こっちにごろりと転がった。

「その父上が望む、『キラ・シの存続』が、一番、大事」

 黒い瞳。

 ガリさんと同じ瞳。

 覚悟を決めた、瞳だ。

 つらり、と……ル・マちゃんの左目から鼻へ、右頬へ、涙が流れてシーツに吸い込まれる。

「先見なんて……したくなかった……」

 温石の毛皮に顔を埋めて、震える、ル・マちゃん。

「そしたら、父上は東なんて行かず、ずっと村にいてくれた。サル・シュがキラ・ガンにさらわれることもなかった。ずっと、父上はサル・シュみたいに明るかったかもしれない。だったら、俺は、あの村で、サル・シュの子を、もう、三人目を孕んでた……」

 やっぱり、あの予知夢がなかったら、サル・シュくんを選んだんだ?

「キラ・シの村が水で流れて、みんな死んでたかもよ?」

 ル・マちゃんが、顔を上げた。

「ル・マちゃんは、村を救って、ガリさんをここに案内した。もう、二度、キラ・シを救ったんだよ。その、先見の夢で」

 まだ二カ月。

 だから、子供はまだ生まれてないけど、『女がいた』『族長が女のいるところへ連れてきてくれた』という、キラ・シの人達の感激は、ひしひしと伝わってくる。現時点で、既に、ガリさんはものすごいヒーローなんだ。

 200人も男の人がいて、3人しか女性がいなかった、キラ・シ。

 このお城だけでも、数十人の女性がいて、こっち側の三国だけで、何千人、何万人の女性がいるだろう。

 これで、キラ・シが滅ぶことなんて、ないよね。

 女の人、全員殺さなきゃならなくなる。

 でも、ル・マちゃんが予知をした、もう一つ。

『自分の子がキラ・シを救う』

 つまりは、この先、そんなに生まれるだろうキラ・シの子供が、いなくなる危険性がある、ということ。

 それを、その子が救う。

 そこまでいかないと、きっと『キラ・シの存続』は危ういんだ。どんな理由かわからないけど、そう、ル・マちゃんは夢に見てしまったんだ。

 ベッドの上で、右手をル・マちゃんの方に伸ばしたら、ル・マちゃんも、左手を重ねてくれた。

「じゃあ……やっぱり………………三度目も、救わないとな……」

 私の掌の中に、ル・マちゃんの涙がたまっていく。

 あっちに温石をおいてきちゃってるから、私の抱えてた温石に、おなかが当たるように抱き寄せた。

 サル・シュくん、ゴメン。

 ル・マちゃんは、君の子を産まない

 

 

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