ガリさんたちが出陣した後、お城のキラ・シが凄く減った。
制圧した村を定期点検しないといけないってことらしい。そりゃ、あとから来て所有権主張したら、いざこざは起きるよね……と思ってた。
でも、この前、川を越えてあっち行った時、『キラ・シの制圧した村』にお世話になったんだけど、なんかみんな、笑顔で対応してくれたのびっくり。
「まぁ、こんなお姫さまが!」とか言われた。
汚れてて不細工だったけど、そりゃ、村の人よりは良い服だ、って誰にでも分かる格好だったから私。皇太后様の服着てたんだもんな……
「制圧した村の人って、キラ・シのこと、嫌うんだと思ってた」
「嫌われてどうする」
リョウさんが軽く言ってくれた。
いやいやいやいや、なんで嫌われずにいられるの?
「役に立てば、常時見張りをしなくも逃げ出さないし、変なことがあれば知らせてくれる。ここらへんの村は大体がサクモツを荒らす獣に困っていたから、食料代わりに狩っただけだ。ヤクニンに頼んでもしてくれないから、助かる、と喜ばれた。
なぜ狩人がいなくて、生きていけているのかがわからん」
「その作物を食べるんだよ」
「サクモツを食う?」
「キラ・シも栗を食べるでしょ? あの栗がいっっっっっぱいあったら、おなか一杯になるよね」
「腹は膨れるが、肉は?」
「お肉って食べなくても生きていけるよ」
凄いいやな顔された。そりゃ、キラ・シはほぼ肉食だから。リョウさんとか、ほぼほぼ、お肉しか食べてないよね。栄養失調にならないのかな?
「そうか……だから、村のやつらは肉を食わないのか! その獣を切り分けて、干して、次に行ったときに渡してくれるから、みな驚いていた。水も馬のエサも用意してくれる。ありがたいな」
そんなことになってるんだ? なんで?
「ラキ語喋れるのリョウさんとガリさんだけなんだから、村の人とは会話できてないんだよね? なんでそれで、そんなうまく回ってるの?」
「どこの村も、獣がサクモツを荒らすのに困っている。ちょうど、キラ・シが行ったときに獣を追い払ってたから、狩ってやったら、拝まれた。
……と、けっこう多くの奴が言ってた。それが戦士の間で広まって、先に獣を狩って持って行ったら、普通に村に入れてくれて、食事や水をくれる。
次に行っても、笑顔で迎えてくれる。
ほぼ全員が、その時に干し肉を持たせてもらっていた。水も、袋にいれて、馬に乗せやすいように蔓をつけて用意してくれるとか。みんな凄いイイヤツ! と、感激していたな。それを、走り回ってるキラ・シ同士で受け渡ししているから、制圧組の食料は問題ない」
ナニそれ! あの時、ラキで『食料がありません』って青ざめてたマキメイさんの心労なんて、本当にどうでも良かったんだ?
リョウさんがあっさりと『キラ・シの飯はいらん』って言ったのも驚いたけど、こういうことか!
戦ってる戦士の人が狩りをするの大変じゃない? と思ってたけど、狩って村に渡したら、携帯食料にしてくれるんだ?
「それを、あの、降りてきた初日に気付いたわけじゃないよね?」
「最初の村がそうだったらしい。ここから一番近くの山間の村にイノシシがいたから退治したら感謝された、と。だから、みんな、村のそばの獣を狩りだした」
「その村だけが困ってたかもしれないのに」
「獣を狩るのなど、馬を走らせながらできる。簡単なことだ。獣を差し出して水と馬を指させば、『馬の水をくれ』というのは通じる。だから、獣が狩れた者から、村を見つけたら制圧に行ったらしい。行くたびに一頭狩るだけなら、獣が減るほどでもない。ずっと困るから、ずっと感謝されるだろう」
ここらへんの人からしたら、狩人って貴重なんだろうな……多分、農耕民族なんだ、みんな。現代日本だって、町中にイノシシが出たら、そりゃ、狩ってくれる人拝むよ。
「村からしたら神様みたいなんじゃないの?」
「……神かどうかは別にして、獣を狩るのなど簡単なことだ。だが、大量に狩ると、肉を干すのとかが面倒だから、その時に食える部分だけ食うしかなくてもったいないものだが、村に持っていけば、余すところなく切り分けて干してくれる。油を煮詰めて用意してくれるし。毛皮は、今、キラ・シに不要だから、村が売りに出してゲンキンシュウニュウになっているらしい。誰かは毛皮でフクを作ってもらったらしいぞ」
どれだけ神様なんだキラ・シ。
キラ・シは『フク』をほぼ知らないんだから『作らせる』ことはできないよね? つまりは、率先して作ってくれたってことだよね? 多分、みんな半袖着てるから、寒いだろうって思われたんだ。材料はキラ・シが持ってくるから、懐は痛まないし。
でも本当に『制圧』じゃないよね、それ。
ああっ! そうか、女の人達を恋人にしていってるから、彼女たちが作ってくれてるんだ?
強姦して回ってるのかと思ってた。
『恋人』にしてるんだ?
なんだそれ。キラ・シ、怖い。
そうだよね、村の女の子、行くたび強姦してたら、そんなことしてくれるわけないよね? ちゃんと紳士なんだ? ナンパなだけで。
あれだ。この世界では狩人がヒーローなんだ。
現代で言うと、スポーツできるコが、あまりイケメンじゃなくても人気でる感じなんだろう。農民より狩人のほうが確実に『強い』証明でもあるから、『強い男が好き』な女の子は入れ食いなんだ?
そっかー。昔になればなるほど『腕力』って男の人の最大のモテ要素だもんな。リアルマッチョが敬遠されるのって現代でも日本ぐらいらしい。日本は平和惚けしてるから『腕力があると怖い』ってなっちゃう。
この時代は、農耕だろうが、狩人だろうが、兵士だろうが、『腕力一番!』だもんね。
キラ・シは全員がマッチョだし、最高の狩人だから、ものすごいもてるんだ。
はーっ。そっかー。夜盗が来たって一発だし。そりゃもてるよね。納得した。
ガリさんの『女は全部俺たちのものだ!』宣言で、強姦して回るのかと思ってたから、ずっと胸が痛んでた。
本当に、安心、した。
無理やりはしてないってル・マちゃんからも聞いてたけど、してないわけないよね、ってどこかで思ってた。
入れ食いなんだ? 超モテてるんだ?
そっかー…………はー……
「シャキの方の村も、端から村をそうやって制圧して行ったから、みな、ヤクニンに黙っていてくれたらしく、グンタイを全部不意打ちできたから圧勝できたということだ。
変なのが来ていないか? と、シャキの見回りは何度も来てたそうだ」
『明らかに変な人であるキラ・シ』を黙っててくれたんだ? 凄いな。
そりゃ、村人からしたら、困った獣を狩ってくれる狩人のほうが大事だよね。『国』がそんなことしてくれないんだし、『国』が負けてどうなるのかなんて、考えてもいないだろうし。狩人がいなくなったら、すぐに、畑を荒らす獣にまた困るんだし。
キラ・シは敏感だから、シャキの役人を避けて歩きさえすれば、見つからないんだ? 基本的に忍び走るの得意みたいだし。山の中とか崖を走れるから人目につかないよね。
「今、大きな町をよけて村を少しずつ東へ制圧している」
「こっちの村も見回ってるんだよね?」
「こちらはもう、みんな笑顔だ。一人の戦士が『コマッテナイカ?』と言って回れば収まっている。たまに、抱いた女のところを回っているだけだな。
レイ・カももう、ずっと川向こうだ。新しい女がいるから、止めても聞かん。止める必要もないから勝手にさせている」
「……それって、来年、レイ・カさんの子供が凄く増える?」
「そういうことだな。ガリより多いんじゃないか? あいつは顔もいいからな、女受けがいいらしい」
私の想像する『戦争』と凄く違う。
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