【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。37 ~私の想像する『戦争』~

 

 

 

 

  

 

  

 

 ずっとキラ・シはあちこちで戦ってるものだと思ってた。

 だって『制圧』って聞いたら、そう思うよね?

 まさか『無血懐柔』してるなんて、考えてもみなかった!

「ラキの挨拶は? 拳を握ったら殺すんでしょ? みんなして来ない?」

「最初は驚いたが、挨拶だと理解したみたいだ」

「理解したの? ほんとに?」

 リョウさんが両手を広げて振る。私も振り返す。

「キラ・シが先に手を広げて振ると、向こうが真似するだろう」

「そうだね、私も無意識に振り返すよね」

「そのあと手を握って礼をされたら、持っていないことはわかる」

「あー………………」

 魂が抜けたような声が出てしまった……

 私の苦悩はどこに…………今の今まで忘れてたけど、それが一番心配ではあったんだよ……

 そっか、ラキでのあの狭いところで、初めて出てきたときにラキ礼したからこその、ル・マちゃんのあの瞬殺だったんだ? あの時は誰も、連れ出されてくる人達にキラ・シがキラ・シ礼しなかったから……

 そっかー……村で、遠くからキラ・シがキラ・シ礼したら、普通に手を振られていると思って、振り返すよね。そのあと手を握るのは、気にしないんだ?

 やっぱりキラ・シって、なにげに応用力高いよねー。

 なんか本当に、いつも、命懸けで、全員が頭を使ってるんだろうな。

「中には、拳を握られるのをいつまでもぼやいている戦士はいるが、まぁ、ここで殺したら村が駄目になるのはわかるから、我慢したり、どうにかやめさせたりしているようだ」

「やめさせるってどうやって?」

「手を握ってる奴をじっと見つめて、自分が手を振り続けるらしい。相手がやるまでずっと」

 賢い。

「そうだね……そうしたら、振るかな、確かに」

「キラ・シはなんでも伝わるのが早いから、それで、大体の村は、キラ・シにラキ礼をしなくなった」

「伝わるのが早い、っていうのも凄いよね、キラ・シ。一人が頭よかったら、全員がその対処をすぐするから、すぐに改善されていくよね」

「だから、部族だ」

「それは、一人で生活してるわけじゃない、ってこと?」

「そうだ。一人が良いと思えば、それを全部がすれば、すぐにもっとよくなる」

「理屈はそうだけど、普通は『癖』の問題だから、そう簡単になおらないもんなんだけど、なんで、キラ・シはすぐに『変える』の?」

 リョウさんが私を見つめて黙った。

 考えてなかったことを聞かれて、考えてるときの癖だ。

「そんなに変えたのをハルは見たのか?」

 そこか!

「ラキ礼で殺さなくなった、布の服を着るようになった、お風呂に入るようになった、お風呂に入れてくれるようになった、食料を自分で獲ってくるようになった。女の人を地面に下ろすようになった、私を四位にした」

 私が指折り数えてたら、リョウさんがニコニコして見てくれてる。

「ハルこそ、よくキラ・シを見てくれているな。ありがたい」

 いや、そこじゃなくてっ! 照れるでしょ!

「そうだな……当然だから、考えたこともなかったな……なぜと言われれば、キラ・シの大多数が『する』ことを『しない』のは『変』だから、だろう」

「え? それって戦士にも? 体が悪い人とかだけじゃなく?」

「『変』なのは助けに行かないし、」

 リョウさんが弓をつがえる格好をする。

「戦の時に、後ろから石をぶつける」

「それ、弓のポーズだよね?」

「自分の矢で射ると、誰が殺したかわかる」

 ゾワッ……とした。

「弓は、石をつがえても射られる。手で投げるよりよほど強く飛ぶ。だから、戦でなければ、山なら石を使うことも多い。矢は作らねばならんからな」

「矢で、射た人がわかるの?」

「みな自分で矢を作るから、癖がでる。それに、誰が族長を射たのかとか、分かるようにしないと自分の手柄にならない」

 ああ、そうか……

「でも、なんで? 石を射るの?」

「早く死ぬように」

 ゾワッ……とした。

「足を引っ張られる、ことをキラ・シは嫌う。全員が良いと思ってやっていることをしないのは『変』なことで、『変』なことをする奴が増えれば、直接強さに響く」

「上の人が変なことを命令したら?」

「キラ・シは山で最強になっていない」

 それは、変なことは言わないってこと?

「ガリもサル・シュも『変』だが、自分が変なだけで、その『変』を下には命令しない。もちろん、弱ければ幼いころに捨てられている。

 大体、サル・シュは何度も、後ろから石を射られているぞ?」

「……なんで、生きてるの?」

「避けるから」

 ソーですね!

「あいつは、昔から『変』で、ずっと命を狙われていたから、とにかく、気づきが早い。キラ・シにサル・シュを殺せるやつなどおらん。居たらあいつが生きていない」

「最強のキラ・シにいないんだから、他の部族も殺せない、ということ?」

「そうだな」

 サル・シュくん、本当にすごいところで生き残ってきた 、 本当の強さなんだな。 子供の頃から命を狙われていたら、 確かに強くないと生き残れないから、強くなるしかないよね 。

 というか、 キラ・シ自体が、 そんなふうに無理矢理強くなってるよね。 弱い人は滝に捨てちゃうんだもんな 。

 聞けば聞くだけ悲しくなるけど、そこまでしたからこそ、こんな化け物みたいに強くなったんだろう。

 キラ・シは、自分で自分たちに『戦いの血統書』をつけたんだ。

 豚を500年買ってるのを驚いていたけれど、違うよね。キラ・シがキラ・シ自身を間引きして、強いのだけを残したんだ。強い人だけが子供を継いで強く育てるからどんどん強くなる。

 日本の戦国時代でも、日本人の平均身長は150センチなかったっていうのに、180センチの大男がゴロゴロいた、って聞いたことがある。

『戦う人達』はそうやって、『血統書』を自分たちで作ってしまうんだ。キラ・シはその究極系なんだろうな。

 とにかく良かった……女の人を強姦して回ってるんじゃなくて、本当に良かった!

「新月、半月、満月の時に、ガリの所に集まる。それだけだ。ちょっと遠くに行く奴は、次の満月まで来ない、と言い置いていく」

「ああっ! そっか、お月さんで集まったり、大規模出陣してるんだ?

 半月まで走って、帰ってくればいいんだもんね。距離とか計ってなくても簡単に『同じ距離』は計れる!

 ル・マちゃんの血の道が新月だから、それでずっと重なってたんだ? わざとにル・マちゃんの血の道に出陣してたわけじゃなかったのかっ! そっか!」

「そうだな……ル・マが丁度、そうだったから、出陣させない言い訳が少なくて済んでる」

 言うなよ? って、掌を表裏してリョウさんが笑った。言わない言わない。知らない方がル・マちゃんも幸せ。

「山にいたときは、 村の働きがあったから、帰って来てしないといけなかったが、今はこのラキ城では、女たちがいるから、戦士がすることがない。

 制圧してしてきた地域をもう一度回るのは、 もう一度囲い込めるというのもあるから、 義務ではなく権利に近くなっていて、嫌がる奴がいない 。レイとガリは新しい女を見つけに先に先に行ってしまうが、普通は、もう、これだけ囲い込めば十分と考えている。後ろはそういう男達が守るし、前は、ガリとレイが制圧していく。だから、 どんどん制圧地域が広がっていくし、誰も不満を言わない」

 恐ろしい。

「普通は出陣すると、ずっと不満がたまっていくモノなんだよ?」

「ハルの知ってる戦はそうのようだな。驚かれることに驚く。山でも、できれば戦などしないに越したことは無いから、手間を省くことを先に考える」

「でも、キラ・シが最強なんでしょ?」

「最強だから誰も向かってこない。そのために強くなった」

「戦をしないで、強くなるのが邪魔くさいって人は出てこないの?」

「上位にならないと子が産ませられないからな」

「ああ…………そうよね。でも、200人いて三人だったら、諦める人いないの?」

「その時期に病が沸いて、上位50人ほどが倒れたことがある。だから、下の奴らでも勝ち上がって子を産ませられた。たまにそういうことがあるから、やはり、一つでも上に行きたくてみな鍛練をする」

 大体、鍛練しないと捨てられるんだもんね。

「俺も、出陣はしたいが、まぁ……ガリやレイたちも『戦』はしていないからな。今はそんなに焦ってはいないな。

 キシンとハマルを陥とした時は、ハルが気になって、引き返してしまった」

「私!」

「目を離したすきに死にそうだから」

 ジッ……と、見つめられて、困る。

 

 

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