【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。38 ~圧倒的『包容力の高さ』~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「……そう、だね。リョウさんいなかったら、何回か死んでたよね。ありがとう」

「あの時は、女のために戻るのか、とからかわれたが、実際、シロには戦士が残っていたから、帰ってよかった。あとで、俺をからかったやつらが謝ってきた。

 まぁ、サル・シュだけでも大丈夫だっただろうとは思うがな」

 たしかに、サル・シュくんとル・マちゃんだけで、あそこは大丈夫そうだった。

「でも、リョウさんがいなかったら、マキメイさんとかは殺されてたんじゃないかな」

 サル・シュくんがトップだったら、そのまま殺してた。リョウさんの判断を仰ぐ一瞬のスキがあったから、皆殺しせずにすんだんだと思う。

「マキメイさん達いなかったら、今、キラ・シは凄く大変だと思うよ」

「いない中で生きてきたから、いなければいないで、なんともなかっただろうな」

 そっかー……、そうだね。

 マキメイさんが最初からいなければ、マキメイさんが居たときの楽さを知らないもんね。

 そこで『殺さなくてよかった』ってならないのがキラ・シだよね。基本的に『後悔』しないんだ、キラ・シって。

『後悔』って『振り返る』から『今とその時』との『差』がわかるんであって、前だけ見てれば、なんとも思わないんだよね。

「だが、女を殺さずに済んだのはハルの手柄だ。それをガリも、他の男達もみんな褒めてた。ハルが言わなければ、キシンもハマルも、シロの中は皆殺しだったからな」

 助かった、って頭ポンポンされたけど……ことがことすぎて震えが来る。話変えたいっ!

「大規模出陣って、新月なの?」

「夜動けば見つかりにくいから、月の無い時に移動することは多いな」

 納得!

 そっか、太平洋戦争中は、天気も軍事情報だから新聞に掲載されなくなったとか、聞いたことがあった。

 お月さんの満ち欠けも軍事情報なんだ?

 自然とともに生きてるって、こういうことなんだな……

 凄いな。

 現代だと、お月さんがいつ満月か新月かなんて、私、知らなかったわ。いつも街灯が照らしてるから。

 そっか……新月の時は、戦ってる可能性があるんだ? 今度から新月の日は出陣うまくいきますように、って祈っておこう。

 山でも、川向こうに行った時でも、夜は誰も火を持たないから、お月さん以外光がなかった。私はほぼ何も見えなかったな。

 マキメイさんは、人影は見えてたらしい。

 やっぱり私の目が、現代性脆弱性なんだ。いつも明るい中で過ごしてたから、暗いところに全然対応できない。

「『村の制圧』はキラ・シの戦士一人でできるから、全体で一日に5カ所ぐらいずつ制圧できているらしい。村の方は『制圧されてる』と思ってはおらんだろう」

 また凄いこと言ってる。

「変なのが来て、困ってた獣を狩ってくれて、それがたまに来る、という感じだ。

 だからそこに、そいつが他のやつらを連れて行っても歓迎される」

 いい人の友達はいい人、ってことね。まぁ、キラ・シはどうみても『狩人です』って格好してるから、分かりやすいよね。くさいのも、山にいるから、って理由になるし。

 実は、レイ・カさんが、お城に居てくれないからお風呂に入れれてないんだよね…………たまに帰って来たときを狙ってるんだけど、ホント帰って来ない、あの人。

『レイ・カさんの部隊全部』だから、どうにかしたい……たまに来る伝令がくさいから、レイ・カさんの隊だ、ってすぐ分かる。つまりは、レイ・カさんの隊だけが、まだ山から着てきた毛皮着てるんだよね。もう寒くなったから丁度いいんだろうけど、早く着替えてくれないかな。山の虫をこっちにばらまかないでほしい。あの……お風呂に沈めたら虫が出てきたの、本当にまいった……

「馬は、水と食い物がないと動けないから、村を拠点にできるのは楽だな。

 この城とは違って、村はたくさんあるし、実入りが少ないから、そうそうヤトウにもやられんらしい。

 この城ぐらい、ずっと村を全部守るのなら人数が足りないと思ったが、そうでなくて助かった」

 あー……そっか! お城だから狙われる、ってことがあるんだ。そっか……小さな村なんて、宝物無いもんね。

 シロクロ映画の『七人の侍』で、あんな小さな村を、あんな大勢の山賊が襲うんだ? と思ったけど、あれって珍しいことだったんだろうか? しかも、こっちの人40人ぐらいじゃ、キラ・シ一人でどうにでもなるよね。あの、『このお城を空けた』とき、一人のキラ・シをおいて行ったら、死なない人がたくさんいたんだよね。言ってももう、仕方ないことだけど。

 キラ・シだって、降りてきた最初で、ここらへんのこと分かってなかったし、必死だったし。

 必死だったし!

 というか、一人で100人相手に軽々戦えるってチートすぎる。

 すぎるけど、そのために『捨ててきた』色々なものがあるんだよね……

「『ケモノデ コマッテタラ カッテ キテヤル』、『コマッテナイカ?』という言葉を全員が覚えたな。オオカミ、シカ、クマ、ウサギ、ネズミ。動物の名前も覚えたぞ」

 ふふん、と自慢そうなリョウさん。かわいい。

 だよね。他国語だもんね。エライエライ!

 たしかに、背中に弓を背負って『コマッテナイカ』って言われたら、家を建ててください、畑を手伝ってください、とは言わないよね。獣の話するよね。

 そう言えばそんなの、マキメイさんに教えてもらってたね、リョウさん。ラキでそれを言われても意味がわからなかったけど、そっか……キラ・シの全員がそれを村に言って回ってるんだ? そりゃ感謝されるわ。

 最初から『困ってること解決してやる』ってスタンスって、ありがたいよね。しかもキラ・シって自分でご飯とれるし、『金銭』を知らないから、村の食べ物とかお金奪わないし、キラ・シになびく女の人なら、元から村の男の人振ってる可能性も高いし、そんな波風は立ってないのかな?

 物語では、女の人のことで王位簒奪とか、よくあるけど、大丈夫かな? 村長さんの奥さん寝取ったりしてないかな?

「旅人に女を差し出すだろう、普通」

「えっ?」

「強い男のタネが欲しいから。キラ・シの戦士がいけば、必ず女を差し出される」

 いやいや……いやいやいやいやいや…………

「山では、だよね?」

 キラ・シって有名部族だから。有名人の子供が欲しいのは理解できるよ、そりゃ。

「こっちでもそうらしいぞ? 家に呼ばれて女が勝手に服を脱ぐと言ってた」

 えーっ! なにその、キラ・シに都合の良いシチュエーション!

「……もしかしなくても、キラ・シって入れ食いなの?」

「イレグイ?」

「……女の人を口説かなくても、抱けてるの?」

「そういうものだろう」

 違うよっ! ってメッチャ言いたいけど、キラ・シはずっとそうなんだから、そうなんだろう……

 そっかー……それじゃあ、そりゃあ、村がキラ・シを歓迎するよね!

 そうか、農耕やってると、とにかく人手が欲しいから、子供をたくさん産む、っていうのもあったんだ。それが『強い男の子供』ならさらに大歓迎なんだ? そこに『狩人(この時代のヒーロー)』ってブランドがついたら、もっと凄いんだ?

 それにしても、最初に覚えた異国語が、『コウフクシロ』じゃなく『コマッテナイカ』って……キラ・シ…………愛すべき民族…………最初はどれだけ鬼畜なのかと思ったよね。

 挨拶しただけで殺してるしさ……ずっとこのあとこうなんだろうな、と思ってたら『コマッテナイカ』って。

 微笑ましすぎる。

 山でもこうだったんだろうな……凄いな。

「それって『制圧』なの?」

「『他の村をこちらのいうことを聞くようにする』が『制圧』だ」

「『懐柔』だよそれ」

「カイジュウ?」

 キラ・シ語にないんだ?

 他の言葉もきっと、これぐらい違うんだろうな。

 キラ・シの単語は、私の耳には全部『殺伐系』の単語に置き換えられてるっぽい。最初から『制圧』じゃなく『懐柔』って聞いてたら違ってた。

 なんていうのかな『強ければ正義』が第一だから、『その他のこと』ってどんどん抜け落ちていくんだろうな。

 刀鍛冶がいるのに、服は毛皮を巻き付けただけ、とか。馬をいつも使ってるのに、馬放置とか。よく帰ってくるよね、馬。

 春は馬が盛ってるから、帰って来ないことがたまにある、とは言ってたな。だから、山では春に戦争ってあんまり無いらしい。どこの部族も馬が帰って来ないから。そんな平和ありなんだなー、って驚いた。

 でも、普通に力ずくでの『制圧』も『制圧』だよね。

 このお城みたいに、兵士を全部殺して居すわってるとかは『制圧』だもんね。ただ、女官さん達に乱暴してないから、マキメイさん達もけっこう親身になってくれてる。

 どこでもこういうことをしてるのなら、そりゃ、好かれるわ。逆に、真摯すぎるわ。『コマッテナイカ』は……本当に、もう、尊敬するわ。

「こっちの言葉で『制圧』っていうと『無理やり押さえつけて言うことを聞かせる』って意味なんだよ」

「無理やりはしないな。常に反乱される心配を抱えるのは面倒臭い」

『危険』じゃなく、『面倒臭い』って理由?

 そう言えば強姦もしないって言ってたな、ル・マちゃんが。無理やりしても楽しくないからって。全体的にそんな感じあるな、キラ・シって。中にはそりゃ変な人はいるだろうけど、『無理やりする』ってあきらかに『面倒臭い』もんね。

『ああ、この女。やっぱり死んだか』

 ラキのお城に戻った時に、サル・シュくんが言ってた。

『三人目にこいつ選んだらものすごい嫌がったから、他の奴抱いた』

 他の人は嫌がらなかったってのがまた不思議。

 というか、普通、キラ・シ相手に嫌がれないよね。抵抗しないから無理やりではない、ってのも、ちょっと違うよねと思ってたけど、『狩人はヒーロー』ってのは、見落としてたな。

 このお城の女の人からすると、『狩人』というより『征服者』なんだから、逆らう気もないみたいだし。

 サル・シュくんだって、リョウさんと比べれば細いけど、ラキの兵隊さんよりはよほど大きいもん。

『逃げるのは守らねぇよ』

 だよね。

『無理やり守る』ことも、しないんだよね。

「『制圧』したら反乱される心配はついてまわるものなんだよ……」

「こちらの奴は面倒なことをするのだな」

「……そうだね……」

 この、たまに感じるキラ・シの、圧倒的『包容力の高さ』って凄いわ。

  

 

  

 

 

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