「……そう、だね。リョウさんいなかったら、何回か死んでたよね。ありがとう」
「あの時は、女のために戻るのか、とからかわれたが、実際、シロには戦士が残っていたから、帰ってよかった。あとで、俺をからかったやつらが謝ってきた。
まぁ、サル・シュだけでも大丈夫だっただろうとは思うがな」
たしかに、サル・シュくんとル・マちゃんだけで、あそこは大丈夫そうだった。
「でも、リョウさんがいなかったら、マキメイさんとかは殺されてたんじゃないかな」
サル・シュくんがトップだったら、そのまま殺してた。リョウさんの判断を仰ぐ一瞬のスキがあったから、皆殺しせずにすんだんだと思う。
「マキメイさん達いなかったら、今、キラ・シは凄く大変だと思うよ」
「いない中で生きてきたから、いなければいないで、なんともなかっただろうな」
そっかー……、そうだね。
マキメイさんが最初からいなければ、マキメイさんが居たときの楽さを知らないもんね。
そこで『殺さなくてよかった』ってならないのがキラ・シだよね。基本的に『後悔』しないんだ、キラ・シって。
『後悔』って『振り返る』から『今とその時』との『差』がわかるんであって、前だけ見てれば、なんとも思わないんだよね。
「だが、女を殺さずに済んだのはハルの手柄だ。それをガリも、他の男達もみんな褒めてた。ハルが言わなければ、キシンもハマルも、シロの中は皆殺しだったからな」
助かった、って頭ポンポンされたけど……ことがことすぎて震えが来る。話変えたいっ!
「大規模出陣って、新月なの?」
「夜動けば見つかりにくいから、月の無い時に移動することは多いな」
納得!
そっか、太平洋戦争中は、天気も軍事情報だから新聞に掲載されなくなったとか、聞いたことがあった。
お月さんの満ち欠けも軍事情報なんだ?
自然とともに生きてるって、こういうことなんだな……
凄いな。
現代だと、お月さんがいつ満月か新月かなんて、私、知らなかったわ。いつも街灯が照らしてるから。
そっか……新月の時は、戦ってる可能性があるんだ? 今度から新月の日は出陣うまくいきますように、って祈っておこう。
山でも、川向こうに行った時でも、夜は誰も火を持たないから、お月さん以外光がなかった。私はほぼ何も見えなかったな。
マキメイさんは、人影は見えてたらしい。
やっぱり私の目が、現代性脆弱性なんだ。いつも明るい中で過ごしてたから、暗いところに全然対応できない。
「『村の制圧』はキラ・シの戦士一人でできるから、全体で一日に5カ所ぐらいずつ制圧できているらしい。村の方は『制圧されてる』と思ってはおらんだろう」
また凄いこと言ってる。
「変なのが来て、困ってた獣を狩ってくれて、それがたまに来る、という感じだ。
だからそこに、そいつが他のやつらを連れて行っても歓迎される」
いい人の友達はいい人、ってことね。まぁ、キラ・シはどうみても『狩人です』って格好してるから、分かりやすいよね。くさいのも、山にいるから、って理由になるし。
実は、レイ・カさんが、お城に居てくれないからお風呂に入れれてないんだよね…………たまに帰って来たときを狙ってるんだけど、ホント帰って来ない、あの人。
『レイ・カさんの部隊全部』だから、どうにかしたい……たまに来る伝令がくさいから、レイ・カさんの隊だ、ってすぐ分かる。つまりは、レイ・カさんの隊だけが、まだ山から着てきた毛皮着てるんだよね。もう寒くなったから丁度いいんだろうけど、早く着替えてくれないかな。山の虫をこっちにばらまかないでほしい。あの……お風呂に沈めたら虫が出てきたの、本当にまいった……
「馬は、水と食い物がないと動けないから、村を拠点にできるのは楽だな。
この城とは違って、村はたくさんあるし、実入りが少ないから、そうそうヤトウにもやられんらしい。
この城ぐらい、ずっと村を全部守るのなら人数が足りないと思ったが、そうでなくて助かった」
あー……そっか! お城だから狙われる、ってことがあるんだ。そっか……小さな村なんて、宝物無いもんね。
シロクロ映画の『七人の侍』で、あんな小さな村を、あんな大勢の山賊が襲うんだ? と思ったけど、あれって珍しいことだったんだろうか? しかも、こっちの人40人ぐらいじゃ、キラ・シ一人でどうにでもなるよね。あの、『このお城を空けた』とき、一人のキラ・シをおいて行ったら、死なない人がたくさんいたんだよね。言ってももう、仕方ないことだけど。
キラ・シだって、降りてきた最初で、ここらへんのこと分かってなかったし、必死だったし。
必死だったし!
というか、一人で100人相手に軽々戦えるってチートすぎる。
すぎるけど、そのために『捨ててきた』色々なものがあるんだよね……
「『ケモノデ コマッテタラ カッテ キテヤル』、『コマッテナイカ?』という言葉を全員が覚えたな。オオカミ、シカ、クマ、ウサギ、ネズミ。動物の名前も覚えたぞ」
ふふん、と自慢そうなリョウさん。かわいい。
だよね。他国語だもんね。エライエライ!
たしかに、背中に弓を背負って『コマッテナイカ』って言われたら、家を建ててください、畑を手伝ってください、とは言わないよね。獣の話するよね。
そう言えばそんなの、マキメイさんに教えてもらってたね、リョウさん。ラキでそれを言われても意味がわからなかったけど、そっか……キラ・シの全員がそれを村に言って回ってるんだ? そりゃ感謝されるわ。
最初から『困ってること解決してやる』ってスタンスって、ありがたいよね。しかもキラ・シって自分でご飯とれるし、『金銭』を知らないから、村の食べ物とかお金奪わないし、キラ・シになびく女の人なら、元から村の男の人振ってる可能性も高いし、そんな波風は立ってないのかな?
物語では、女の人のことで王位簒奪とか、よくあるけど、大丈夫かな? 村長さんの奥さん寝取ったりしてないかな?
「旅人に女を差し出すだろう、普通」
「えっ?」
「強い男のタネが欲しいから。キラ・シの戦士がいけば、必ず女を差し出される」
いやいや……いやいやいやいやいや…………
「山では、だよね?」
キラ・シって有名部族だから。有名人の子供が欲しいのは理解できるよ、そりゃ。
「こっちでもそうらしいぞ? 家に呼ばれて女が勝手に服を脱ぐと言ってた」
えーっ! なにその、キラ・シに都合の良いシチュエーション!
「……もしかしなくても、キラ・シって入れ食いなの?」
「イレグイ?」
「……女の人を口説かなくても、抱けてるの?」
「そういうものだろう」
違うよっ! ってメッチャ言いたいけど、キラ・シはずっとそうなんだから、そうなんだろう……
そっかー……それじゃあ、そりゃあ、村がキラ・シを歓迎するよね!
そうか、農耕やってると、とにかく人手が欲しいから、子供をたくさん産む、っていうのもあったんだ。それが『強い男の子供』ならさらに大歓迎なんだ? そこに『狩人(この時代のヒーロー)』ってブランドがついたら、もっと凄いんだ?
それにしても、最初に覚えた異国語が、『コウフクシロ』じゃなく『コマッテナイカ』って……キラ・シ…………愛すべき民族…………最初はどれだけ鬼畜なのかと思ったよね。
挨拶しただけで殺してるしさ……ずっとこのあとこうなんだろうな、と思ってたら『コマッテナイカ』って。
微笑ましすぎる。
山でもこうだったんだろうな……凄いな。
「それって『制圧』なの?」
「『他の村をこちらのいうことを聞くようにする』が『制圧』だ」
「『懐柔』だよそれ」
「カイジュウ?」
キラ・シ語にないんだ?
他の言葉もきっと、これぐらい違うんだろうな。
キラ・シの単語は、私の耳には全部『殺伐系』の単語に置き換えられてるっぽい。最初から『制圧』じゃなく『懐柔』って聞いてたら違ってた。
なんていうのかな『強ければ正義』が第一だから、『その他のこと』ってどんどん抜け落ちていくんだろうな。
刀鍛冶がいるのに、服は毛皮を巻き付けただけ、とか。馬をいつも使ってるのに、馬放置とか。よく帰ってくるよね、馬。
春は馬が盛ってるから、帰って来ないことがたまにある、とは言ってたな。だから、山では春に戦争ってあんまり無いらしい。どこの部族も馬が帰って来ないから。そんな平和ありなんだなー、って驚いた。
でも、普通に力ずくでの『制圧』も『制圧』だよね。
このお城みたいに、兵士を全部殺して居すわってるとかは『制圧』だもんね。ただ、女官さん達に乱暴してないから、マキメイさん達もけっこう親身になってくれてる。
どこでもこういうことをしてるのなら、そりゃ、好かれるわ。逆に、真摯すぎるわ。『コマッテナイカ』は……本当に、もう、尊敬するわ。
「こっちの言葉で『制圧』っていうと『無理やり押さえつけて言うことを聞かせる』って意味なんだよ」
「無理やりはしないな。常に反乱される心配を抱えるのは面倒臭い」
『危険』じゃなく、『面倒臭い』って理由?
そう言えば強姦もしないって言ってたな、ル・マちゃんが。無理やりしても楽しくないからって。全体的にそんな感じあるな、キラ・シって。中にはそりゃ変な人はいるだろうけど、『無理やりする』ってあきらかに『面倒臭い』もんね。
『ああ、この女。やっぱり死んだか』
ラキのお城に戻った時に、サル・シュくんが言ってた。
『三人目にこいつ選んだらものすごい嫌がったから、他の奴抱いた』
他の人は嫌がらなかったってのがまた不思議。
というか、普通、キラ・シ相手に嫌がれないよね。抵抗しないから無理やりではない、ってのも、ちょっと違うよねと思ってたけど、『狩人はヒーロー』ってのは、見落としてたな。
このお城の女の人からすると、『狩人』というより『征服者』なんだから、逆らう気もないみたいだし。
サル・シュくんだって、リョウさんと比べれば細いけど、ラキの兵隊さんよりはよほど大きいもん。
『逃げるのは守らねぇよ』
だよね。
『無理やり守る』ことも、しないんだよね。
「『制圧』したら反乱される心配はついてまわるものなんだよ……」
「こちらの奴は面倒なことをするのだな」
「……そうだね……」
この、たまに感じるキラ・シの、圧倒的『包容力の高さ』って凄いわ。
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