【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。39 ~『君臨しても統治せず』~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 一応、このお城には、リョウさんのような『副族長』を配置はするけど、他は放置なんだ?

 そうか『放置主義』なんだ、キラ・シは。

『君臨しても統治せず』だよね、これ、古代ローマと同じ方法…………違うか? 村の人達は『君臨してる』とも思ってないと思うけど。キラ・シ側は『制圧してる』んだから、それで、いい、よね?

「でもそれじゃあ、お城を制圧するときはさすがに困るでしょ? ハマルとキシンのお城はどうしてるの?」

「若戦士が交代で一人、住んでる」

「一人だけ?」

「戦士は全部刈ってしまったからな」

 ああそうか。そこは全軍上げて行ったんだ?

「ヤトウやサンゾクなら、一人で十分だ。

 一人だから、食料もそんなに変わらないし、そいつが獣を狩って来るから増えてるらしい。若戦士も、昼は狩りで、夜は女がいるから嫌がらない。馬を休ませたい奴がシロにいけば交代だ」

 戦で役に立たない若戦士の有効理由ってことね。本当に、効率第一だよね、キラ・シって。人数少ないと、自然とそうなるのかな?

「大臣とかは生かしてる……ん、だよね?」

「ダイジン?」

「刀を持って向かって来なかった男の人」

「それは、ああ。この城で、ハルが、半分は女だと言っていたから、伝令を走らせた。ただ、キシンの方は、間に合わなかったから、かなり殺したようだ。ハマルは、向かってこなかった奴は殺さなかったから、全部生きてる。キシンでも、女は、みんな奥に居たから、殺してないようだ」

 キシンの人達には申し訳ないけど、良かった……

 あれ?

「お城は全員殺す気だったのに、村はなんで殺さなかったの?」

「前に来たときに、囲いのない家に住んでる奴は刀を吊ってなかった。刀を向けても、ただおびえるだけで、向かってこなかった。だから、囲ってないところは戦士がいないから、殺す気で行くな、とは教えていた」

「お城は囲ってるから、全員殺す気だったんだ?」

「あれだけ武器を持った者が出入りしていれば、戦士の家だと思う。戦士はさらえないとキラ・シが滅びる」

「塀があるかないかが目安なんだ? キラ・シの村は塀があるってことなんだね?」

「丸太でぐるっと囲んである」

 豪快。

「キラ・ガンなどは、枝を組み合わせて、獣避けしかしていなかったな」

「キラ・シはなんで丸太なの?」

「中を見られないためだ」

「キラ・ガンはなんでそうしないの?」

「面倒臭いからだろう」

「キラ・シは、その面倒クサイは、したんだ?」

「そうしないと攻め滅ぼされる」

 ああ……うん、そうか…………本当に、『滅びる』を普通に使うよね。

「穴をずらっと掘って、丸太を半分以上埋めて戻す。熊がぶつかっても倒れない」

「高さはどれぐらい?」

「見上げるほどだ」

「見上げるほどの木の、半分以上を埋めたの?」

「そうしないと倒れる」

 確か、電信柱もそんな感じで、地中に長く埋まってるんだよね。

「高さはどれぐらい?」

「ガリの倍ぐらいか」

 4メートルぐらいってこと? 高いっ!

「あまり高くしても、周りの木に登れば中は覗けるから、意味がないしな」

「高いよっ! その高さはめっちゃくちゃ高いよっ!」

「これより低くすると、キラ・シの馬なら飛び越える」

「四メートルを飛ぶの? 馬が?」

「そうしないと崖を昇り降りできん。馬で入ってこられるのが一番面倒だからな。人間が入ってきても、どうということはない。キラ・ガンはあんな薄い塀で大丈夫なのだから、キラ・シの壁も薄くて良かったのだろうが、昔からああだから、修復するときもそうしているだけだ。昔は敵が近くまで来たのだろうな」

「人間は入れるんだ?」

「そうしないと面倒臭い。いちいち村の門まで行ってられない」

 変なところで合理的だよね、キラ・シって。

「それって、他の部族の人も入って来ない?」

「他の奴らは入ってくる前にわかるから、入られたことはない」

「でも、入られたこともわかってないだけってことは、ないの?」

「キラ・シの山は本山の周りに五つある。

 その五つに、キラ・シ以外が入ってくればわかる。本山に入ってくることもまずできんから、村に入ってくるわけがない」

「なんでわかるの? 鳴子でも吊るしてる?」

「ナルコ?」

「ヒモに音の出るものをつけて、ぐるっと囲むの」

「そんな面倒なことはしてないな。わかるだけだ」

「わかるってなにが?」

 リョウさんが、黙って私を見つめた。

「わかるんだ」

 そうですか。

 ガリさんと喋ってる気分になった。

 そっか、リョウさんは、『理屈を説明してくれる』から話しやすいんだ。ガリさんとはあまりしゃべったことないけど、サル・シュくんとかル・マちゃんって感情論で来るから、『だから、どうなってるの?』ってのが、わからないんだよね。

 その『わかる』ってのが、なんで分かるのかを聞きたいんだけど、どうしたらいいかな?

「シャキの戦士が城を登ってきたのは、わからなかったから、中から殺したんだよね?」

「このシロはまだキラ・シの土地ではないからな。神が教えてくれん。というより、まだキラ・シも、この土地からすればよそ者だ」

「『わかる』って、神様が教えてくれるってことなのっ?」

「キラ・シは村を移動したことが無いからな、なぜわかる、と言われれば、そういうことだろうと、今考えた」

 考えてくれたんだ?

「部屋の外にガリがいるとわかるだろう?」

「わかるよそりゃっ!」

「そういう感じが、他の部族がキラ・シの山に入ってきたら、みなわかったんだ」

 キラ・シが最強でも、そんなのガリさんだけだから、他の部族にガリさんみたいな人はいないはず。それでも、『わかる』なら、『本人が凄いからわかる』じゃなく、たしかに『他部族だからわかる』なんだろう。どういう理屈かわかんないけど。

「たしかに、キラ・シの村ではそれが普通で、他の村の者はわからないと言っていたから、キラ・シがそういうのに気づきやすいのかと、今まで思っていた。

 だが、ハルに問われて、『このシロではわからない』のだから、そういう理由ではないのだな。ならば、やはり、キラ・シのあの村が、神に守られていたのだろう、と考えた」

「キラ・シの土地、ってことは、最初にナニカしてたの?」

「二千年前からずっといるから、その最初を知らんが、『英雄キラ』が山に降りてきたときに子供を作って、その子供が生まれるたびに、山のあちこちに連れて行った。

 その最初に連れて行かれたところで、キラが『村』を作った。そこ以外に住むと、矢流や雪崩で何度でも流される。だから、『村』というナニカをしてくれたのだろう。

 他の村は、戦で場所が変わるが『村の位置』自体は変わらない。村の名前が変わるだけだ。『村の土地』以外に住めば山の神の怒りで死ぬ」

 民族伝承っぽい? これ以上はリョウさんもわかんないんだろうな。

「凄くよく分かった! リョウさんって、説明うまいよね」

「そうか……ハルに言われると特に嬉しいな」

 熊さんが照れた! カワイイ。

「サル・シュくんとかガリさんとか、そんな説明してくれないよね」

「……もう少し詳しく説明してくれ……と、よく思うな。普段でも指笛みたいな会話するな、とは、よく言った」

 思ってたんだ? だよね、あの二人、自分のやること説明してくれないよね!

 指笛みたいな会話…………定型句でしか喋らない感じ、わかる……

「喋れないわけではないのに、説明をしないからな。

 それを問い詰めたら『わかるだろ』と言われた。

 わかるが…………わかるがな………………」

 私の頭ぐらい大きな拳を震わせて、ううってなってるリョウさん。かわいすぎる。

「リョウさんの憤りは正しいよ!」

 ギュッてされた。あったかーい。

『敵の村を三つ陥とした。このまま進む』っていう、あの、ガリさんの指笛!

 戻ってきて説明しろっ! ってなるよね!

 説明が無いから、『キラ・シが分断する』ことを嫌って、リョウさんは川向こうに行ったんだ。あそこでガリさんが戻ってきてくれれば、あんな急いだ脱出はなかった。

 結果的に、今回は、戻ってきたわけだから、ガリさんの先走りだったんだ。

 ガリさんが戻ってきてくれていれば、誰も死ななかった。

 

 

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