一応、このお城には、リョウさんのような『副族長』を配置はするけど、他は放置なんだ?
そうか『放置主義』なんだ、キラ・シは。
『君臨しても統治せず』だよね、これ、古代ローマと同じ方法…………違うか? 村の人達は『君臨してる』とも思ってないと思うけど。キラ・シ側は『制圧してる』んだから、それで、いい、よね?
「でもそれじゃあ、お城を制圧するときはさすがに困るでしょ? ハマルとキシンのお城はどうしてるの?」
「若戦士が交代で一人、住んでる」
「一人だけ?」
「戦士は全部刈ってしまったからな」
ああそうか。そこは全軍上げて行ったんだ?
「ヤトウやサンゾクなら、一人で十分だ。
一人だから、食料もそんなに変わらないし、そいつが獣を狩って来るから増えてるらしい。若戦士も、昼は狩りで、夜は女がいるから嫌がらない。馬を休ませたい奴がシロにいけば交代だ」
戦で役に立たない若戦士の有効理由ってことね。本当に、効率第一だよね、キラ・シって。人数少ないと、自然とそうなるのかな?
「大臣とかは生かしてる……ん、だよね?」
「ダイジン?」
「刀を持って向かって来なかった男の人」
「それは、ああ。この城で、ハルが、半分は女だと言っていたから、伝令を走らせた。ただ、キシンの方は、間に合わなかったから、かなり殺したようだ。ハマルは、向かってこなかった奴は殺さなかったから、全部生きてる。キシンでも、女は、みんな奥に居たから、殺してないようだ」
キシンの人達には申し訳ないけど、良かった……
あれ?
「お城は全員殺す気だったのに、村はなんで殺さなかったの?」
「前に来たときに、囲いのない家に住んでる奴は刀を吊ってなかった。刀を向けても、ただおびえるだけで、向かってこなかった。だから、囲ってないところは戦士がいないから、殺す気で行くな、とは教えていた」
「お城は囲ってるから、全員殺す気だったんだ?」
「あれだけ武器を持った者が出入りしていれば、戦士の家だと思う。戦士はさらえないとキラ・シが滅びる」
「塀があるかないかが目安なんだ? キラ・シの村は塀があるってことなんだね?」
「丸太でぐるっと囲んである」
豪快。
「キラ・ガンなどは、枝を組み合わせて、獣避けしかしていなかったな」
「キラ・シはなんで丸太なの?」
「中を見られないためだ」
「キラ・ガンはなんでそうしないの?」
「面倒臭いからだろう」
「キラ・シは、その面倒クサイは、したんだ?」
「そうしないと攻め滅ぼされる」
ああ……うん、そうか…………本当に、『滅びる』を普通に使うよね。
「穴をずらっと掘って、丸太を半分以上埋めて戻す。熊がぶつかっても倒れない」
「高さはどれぐらい?」
「見上げるほどだ」
「見上げるほどの木の、半分以上を埋めたの?」
「そうしないと倒れる」
確か、電信柱もそんな感じで、地中に長く埋まってるんだよね。
「高さはどれぐらい?」
「ガリの倍ぐらいか」
4メートルぐらいってこと? 高いっ!
「あまり高くしても、周りの木に登れば中は覗けるから、意味がないしな」
「高いよっ! その高さはめっちゃくちゃ高いよっ!」
「これより低くすると、キラ・シの馬なら飛び越える」
「四メートルを飛ぶの? 馬が?」
「そうしないと崖を昇り降りできん。馬で入ってこられるのが一番面倒だからな。人間が入ってきても、どうということはない。キラ・ガンはあんな薄い塀で大丈夫なのだから、キラ・シの壁も薄くて良かったのだろうが、昔からああだから、修復するときもそうしているだけだ。昔は敵が近くまで来たのだろうな」
「人間は入れるんだ?」
「そうしないと面倒臭い。いちいち村の門まで行ってられない」
変なところで合理的だよね、キラ・シって。
「それって、他の部族の人も入って来ない?」
「他の奴らは入ってくる前にわかるから、入られたことはない」
「でも、入られたこともわかってないだけってことは、ないの?」
「キラ・シの山は本山の周りに五つある。
その五つに、キラ・シ以外が入ってくればわかる。本山に入ってくることもまずできんから、村に入ってくるわけがない」
「なんでわかるの? 鳴子でも吊るしてる?」
「ナルコ?」
「ヒモに音の出るものをつけて、ぐるっと囲むの」
「そんな面倒なことはしてないな。わかるだけだ」
「わかるってなにが?」
リョウさんが、黙って私を見つめた。
「わかるんだ」
そうですか。
ガリさんと喋ってる気分になった。
そっか、リョウさんは、『理屈を説明してくれる』から話しやすいんだ。ガリさんとはあまりしゃべったことないけど、サル・シュくんとかル・マちゃんって感情論で来るから、『だから、どうなってるの?』ってのが、わからないんだよね。
その『わかる』ってのが、なんで分かるのかを聞きたいんだけど、どうしたらいいかな?
「シャキの戦士が城を登ってきたのは、わからなかったから、中から殺したんだよね?」
「このシロはまだキラ・シの土地ではないからな。神が教えてくれん。というより、まだキラ・シも、この土地からすればよそ者だ」
「『わかる』って、神様が教えてくれるってことなのっ?」
「キラ・シは村を移動したことが無いからな、なぜわかる、と言われれば、そういうことだろうと、今考えた」
考えてくれたんだ?
「部屋の外にガリがいるとわかるだろう?」
「わかるよそりゃっ!」
「そういう感じが、他の部族がキラ・シの山に入ってきたら、みなわかったんだ」
キラ・シが最強でも、そんなのガリさんだけだから、他の部族にガリさんみたいな人はいないはず。それでも、『わかる』なら、『本人が凄いからわかる』じゃなく、たしかに『他部族だからわかる』なんだろう。どういう理屈かわかんないけど。
「たしかに、キラ・シの村ではそれが普通で、他の村の者はわからないと言っていたから、キラ・シがそういうのに気づきやすいのかと、今まで思っていた。
だが、ハルに問われて、『このシロではわからない』のだから、そういう理由ではないのだな。ならば、やはり、キラ・シのあの村が、神に守られていたのだろう、と考えた」
「キラ・シの土地、ってことは、最初にナニカしてたの?」
「二千年前からずっといるから、その最初を知らんが、『英雄キラ』が山に降りてきたときに子供を作って、その子供が生まれるたびに、山のあちこちに連れて行った。
その最初に連れて行かれたところで、キラが『村』を作った。そこ以外に住むと、矢流や雪崩で何度でも流される。だから、『村』というナニカをしてくれたのだろう。
他の村は、戦で場所が変わるが『村の位置』自体は変わらない。村の名前が変わるだけだ。『村の土地』以外に住めば山の神の怒りで死ぬ」
民族伝承っぽい? これ以上はリョウさんもわかんないんだろうな。
「凄くよく分かった! リョウさんって、説明うまいよね」
「そうか……ハルに言われると特に嬉しいな」
熊さんが照れた! カワイイ。
「サル・シュくんとかガリさんとか、そんな説明してくれないよね」
「……もう少し詳しく説明してくれ……と、よく思うな。普段でも指笛みたいな会話するな、とは、よく言った」
思ってたんだ? だよね、あの二人、自分のやること説明してくれないよね!
指笛みたいな会話…………定型句でしか喋らない感じ、わかる……
「喋れないわけではないのに、説明をしないからな。
それを問い詰めたら『わかるだろ』と言われた。
わかるが…………わかるがな………………」
私の頭ぐらい大きな拳を震わせて、ううってなってるリョウさん。かわいすぎる。
「リョウさんの憤りは正しいよ!」
ギュッてされた。あったかーい。
『敵の村を三つ陥とした。このまま進む』っていう、あの、ガリさんの指笛!
戻ってきて説明しろっ! ってなるよね!
説明が無いから、『キラ・シが分断する』ことを嫌って、リョウさんは川向こうに行ったんだ。あそこでガリさんが戻ってきてくれれば、あんな急いだ脱出はなかった。
結果的に、今回は、戻ってきたわけだから、ガリさんの先走りだったんだ。
ガリさんが戻ってきてくれていれば、誰も死ななかった。
コメント