【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。40 ~体育界系インテリ~

 

 

 

 

  

 

 結果論だけど……

 確かに、『説明』してほしい、と、思う。

 でも、あの速さで『進軍する』ためには、振り返っていられないのも、わかる。

『俺は、前にしか走れん。後ろを頼むぞ、リョウ』

 ガリさん自身も、わかってるんだ。

 リョウさんも、わかってるんだ。

 だから、サポートし続けてるんだ。

「喋ってくれないと、言葉の行き違いがわからないよね」

 リョウさんが、ハァッ、て口を開けた。ナニ?

「それだっ!

 今まで心配だったのはそれだっ!

 そうか、行き違いか、そうか…………今度はそれで喋るように言えるかもしれん」

 なんか、すっっっごく、納得してくれてる!

「ハルはさすがだな。話をしてると、疑問が次々晴れていく。気持ちいい」

「お役に立てて幸いです」

 こっちが照れるわっ!

「人に喋ることがいいんだよ」

「そうなのか?」

「一人で悶々してると、何も進まないでしょ? でも人に喋ると、『いや、お前、それ違うぞ』ってこと、あるでしょ? それが大事なんだよ」

「たしかに……だが、誰も、こんな長々と聞いてはくれん」

 ふっとい腕を組んで、プン、とくちびるを尖らせるクマさん。

「……そうだね……」

 笑っちゃった。

 リョウさん、こんな熊さんで男らしいけど、喋ることが好きなんだ?

「私が色々聞いて悪いな、と思ってたけど、迷惑ではなかった?」

「全然!

 ハルに理解してもらえるのは嬉しいな。そこから、ハルの気づきを聞けるのもいい。キラ・シでは考えもしなかったことを言われると、もっと考えられる」

 本当に、体育界系インテリだ、リョウさん。

 振り回してる刀がビュンビュン勢い出た! ちょっと怖いよ。

 キラ・シはほぼ全員が脳筋だから、喋ってはくれないよね。

 サル・シュくんとガリさんは、脳筋度合いがまだマシな気がする。あれでも。

 他の人達は脊髄反射で動いてる。リョウさんがいないときに誰かにナニカ聞いても『リョウ・カーっ!』って、叫ばれるだけ。答えてはくれない。

『凄い腕太いね、強いよね!』とかなら、すっごい嬉しそうに、武勇伝話してくれるから、話ができないわけじゃないし、私が嫌われてるわけでもないんだよね。『説明ができない』んだなぁ、って、何度も思った。

 武勇伝聞いてるとよく、『レイ・カがああいうから』『リョウ・カががこうしろっていうから』って聞くんだよね。ショウ・キさんも中隊率いてるはずなのに、あんまり聞かない。失敗談は聞くけど。

 レイ・カさんの部隊はあんまり帰って来ないから、相対的にレイ・カさんの部隊に話を聞くことのほうが少ないはずなのに。

 人望なんだろうな。

 みんな、レイ・カさんも、リョウさんも大好きなんだ。それでいうと、ガリさんの話を一番聞かないけど……

『ガリさんの武勇伝は?』って聞いたら、いっっっくらでも喋ってくれるけど、日常会話に出てこないんだよね。

 族長がそれでいいのか、と思ったけど、族長だからいいんだろうな。

 レイ・カさんとかリョウさんは『人間として好かれてる』けど、ガリさんは『戦士として、族長として、尊敬されてる』んだ。

『族長は半分神だ』って言ってた人もいたな。『女指一本だけ人なんじゃないか』とか。『なんで女指?』って聞いたら『女に手が早いーっ!』ってみんなが笑ってた。

 薬指が『女指』なんだって。

 というか、ガリさん…………どこまでナンパなの。

『族長だ、って言ってない、というか言えないだろ、言葉違うから、なのに女が一斉に族長に群がるんだよ。一番強いのわかる女、凄いよな!』

 ああ、そういう意味で?

『「下の女」凄いよな。あんなほっそいのに、よく動いて……』って私を見て『ハルの細さでも動けるんだよな……』って納得された。

 いや……現代では、私はそんな、細くないよ。中肉中背。私より細いコいっっっっぱいいたもん。たしかに現代にいたよりは痩せたけど。適度に太ってたから、この強行軍をまだ耐えられたんだと思う。

 リョウさんに覗き込まれた。

「あ、私黙ってた? ごめんなさい」

「考えるときは誰でも黙る。ハルは考えるのが働きだからな、たくさん考えろ」

 頭ポンポンされた。反対の手で、刀ビュンビュン振り回してる。そこでその重たい刀を動かして、反動が私の頭に伝わらないのが凄い。

「そんなにキラ・シはあちこち走ってて、馬は大丈夫なの?」

「馬が、どうした?」

「馬も夜は寝てるよね? 走れる距離って、私が考えてたより凄く短かったから、それであちこち回ってるって大変なんじゃない?」

「そうだな。

 馬は人より速く走れるが、人間よりたくさん食うし飲む。キラ・シの戦士は、三日ぐらい飲まず食わずでも戦えるが、馬は頻繁に休ませないと走ってはくれないからな」

「つまりは……それぐらいの距離にたくさん村がある、ってこと?」

「そっちか?」

「どっち?」

「村の距離が聞きたかったのか」

「ああ……うん、そうかな」

「隣村が見える場合もあるし、離れている場合もある。ハタケを作ることができない場所に村は無いな。だから、山の中には殆どないし、草の生えないところも無い。

 山はキラ・シが進めるが、草の生えないところは進めない。

 だから、村を制圧していなければ、川沿いにしか動けない」

 だから戻ってきたわけだし……って、リョウさんがため息をついてる。

「今は『チカクニ ムラハ ナイカ?』と聞けば教えてくれるから、その方向を信じて進める。それがなければ、前みたいに、見えなければ進めない」

 そうか、その言葉も、『帰って来てから』覚えたんだよね。困らないと、必要なことってわからないもんね。

 あの時は、川沿いに走ってるのに村がなかったんだよね。川が塩で干上がってて、畑が作れないから、人が居なかったんだ。

「川が無いのに水があることにみな驚いていた。

 イドという穴で水を汲むと言っていたが、意味がわからん」

「10メートルぐらい穴を掘ると、水が出る所があるんだよ。掘っても出ないことがあるから、場所を変えて、出るまで掘るんだって」

 リョウさんが、私としゃべるために少し前かがみだったのに、背筋を伸ばして、私を見下ろした。

 これだけ喋ってる間も、誰かがきて、リョウさんはずっと指示を出してはいた。全体の時間で言うと、私としゃべってる方が少ない。とにかく、いつもだれかがリョウさんにナニカ報告したり、聞いたりしてる。

 今も、誰か来た。その人が行ってから、リョウさんが私を真正面から覗き込む。

「ハルは、知らないことがないのか?」

「え? 知らないことのほうが多いよ?」

 私が知ってることなんて、テレビで見たことと本を読んだことだけだもん。全方位興味があるわけじゃないし。現代の最新流行とか知らないから、学校ではバカ扱いされてた。

「そうか? ハルが『わからない』と言った事を聞いたことがないぞ」

「そうだっけ?」

 私いつも、わからないわからないって言ってる覚えがあるけどな……

「なぜ、イドを知ってる?」

「……私の国……部族には、普通にあるから」

 私は掘ったことないけど、ナショナルジオグラフィックとか、ディスカバリーチャンネルとかアニマルプラネットとか、よく見てるから。アフリカで、大きな木の幹を組んで井戸を掘る方法とか、知っては、いる。私が指示してできるかどうかは知らないけど。その仕組みを書き起こして作業を確認した事はあるから。

「なぜ、お前の部族は、ハルを捨てた?」

 なぜそんなことを今さら……?

 捨てられたわけではないんだけど…………どう説明したもんかな……

「気付いたらあそこにいたから、わからない」

 事実だし。

 リョウさんが、抱きしめてくれた。

「ハルとの出会いを、神に感謝する」

「なんでリョウさんは、そんな、私に嬉し涙を流させるのかなー……」

 本当に、大好き、リョウさん。

  

 

 

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