結果論だけど……
確かに、『説明』してほしい、と、思う。
でも、あの速さで『進軍する』ためには、振り返っていられないのも、わかる。
『俺は、前にしか走れん。後ろを頼むぞ、リョウ』
ガリさん自身も、わかってるんだ。
リョウさんも、わかってるんだ。
だから、サポートし続けてるんだ。
「喋ってくれないと、言葉の行き違いがわからないよね」
リョウさんが、ハァッ、て口を開けた。ナニ?
「それだっ!
今まで心配だったのはそれだっ!
そうか、行き違いか、そうか…………今度はそれで喋るように言えるかもしれん」
なんか、すっっっごく、納得してくれてる!
「ハルはさすがだな。話をしてると、疑問が次々晴れていく。気持ちいい」
「お役に立てて幸いです」
こっちが照れるわっ!
「人に喋ることがいいんだよ」
「そうなのか?」
「一人で悶々してると、何も進まないでしょ? でも人に喋ると、『いや、お前、それ違うぞ』ってこと、あるでしょ? それが大事なんだよ」
「たしかに……だが、誰も、こんな長々と聞いてはくれん」
ふっとい腕を組んで、プン、とくちびるを尖らせるクマさん。
「……そうだね……」
笑っちゃった。
リョウさん、こんな熊さんで男らしいけど、喋ることが好きなんだ?
「私が色々聞いて悪いな、と思ってたけど、迷惑ではなかった?」
「全然!
ハルに理解してもらえるのは嬉しいな。そこから、ハルの気づきを聞けるのもいい。キラ・シでは考えもしなかったことを言われると、もっと考えられる」
本当に、体育界系インテリだ、リョウさん。
振り回してる刀がビュンビュン勢い出た! ちょっと怖いよ。
キラ・シはほぼ全員が脳筋だから、喋ってはくれないよね。
サル・シュくんとガリさんは、脳筋度合いがまだマシな気がする。あれでも。
他の人達は脊髄反射で動いてる。リョウさんがいないときに誰かにナニカ聞いても『リョウ・カーっ!』って、叫ばれるだけ。答えてはくれない。
『凄い腕太いね、強いよね!』とかなら、すっごい嬉しそうに、武勇伝話してくれるから、話ができないわけじゃないし、私が嫌われてるわけでもないんだよね。『説明ができない』んだなぁ、って、何度も思った。
武勇伝聞いてるとよく、『レイ・カがああいうから』『リョウ・カががこうしろっていうから』って聞くんだよね。ショウ・キさんも中隊率いてるはずなのに、あんまり聞かない。失敗談は聞くけど。
レイ・カさんの部隊はあんまり帰って来ないから、相対的にレイ・カさんの部隊に話を聞くことのほうが少ないはずなのに。
人望なんだろうな。
みんな、レイ・カさんも、リョウさんも大好きなんだ。それでいうと、ガリさんの話を一番聞かないけど……
『ガリさんの武勇伝は?』って聞いたら、いっっっくらでも喋ってくれるけど、日常会話に出てこないんだよね。
族長がそれでいいのか、と思ったけど、族長だからいいんだろうな。
レイ・カさんとかリョウさんは『人間として好かれてる』けど、ガリさんは『戦士として、族長として、尊敬されてる』んだ。
『族長は半分神だ』って言ってた人もいたな。『女指一本だけ人なんじゃないか』とか。『なんで女指?』って聞いたら『女に手が早いーっ!』ってみんなが笑ってた。
薬指が『女指』なんだって。
というか、ガリさん…………どこまでナンパなの。
『族長だ、って言ってない、というか言えないだろ、言葉違うから、なのに女が一斉に族長に群がるんだよ。一番強いのわかる女、凄いよな!』
ああ、そういう意味で?
『「下の女」凄いよな。あんなほっそいのに、よく動いて……』って私を見て『ハルの細さでも動けるんだよな……』って納得された。
いや……現代では、私はそんな、細くないよ。中肉中背。私より細いコいっっっっぱいいたもん。たしかに現代にいたよりは痩せたけど。適度に太ってたから、この強行軍をまだ耐えられたんだと思う。
リョウさんに覗き込まれた。
「あ、私黙ってた? ごめんなさい」
「考えるときは誰でも黙る。ハルは考えるのが働きだからな、たくさん考えろ」
頭ポンポンされた。反対の手で、刀ビュンビュン振り回してる。そこでその重たい刀を動かして、反動が私の頭に伝わらないのが凄い。
「そんなにキラ・シはあちこち走ってて、馬は大丈夫なの?」
「馬が、どうした?」
「馬も夜は寝てるよね? 走れる距離って、私が考えてたより凄く短かったから、それであちこち回ってるって大変なんじゃない?」
「そうだな。
馬は人より速く走れるが、人間よりたくさん食うし飲む。キラ・シの戦士は、三日ぐらい飲まず食わずでも戦えるが、馬は頻繁に休ませないと走ってはくれないからな」
「つまりは……それぐらいの距離にたくさん村がある、ってこと?」
「そっちか?」
「どっち?」
「村の距離が聞きたかったのか」
「ああ……うん、そうかな」
「隣村が見える場合もあるし、離れている場合もある。ハタケを作ることができない場所に村は無いな。だから、山の中には殆どないし、草の生えないところも無い。
山はキラ・シが進めるが、草の生えないところは進めない。
だから、村を制圧していなければ、川沿いにしか動けない」
だから戻ってきたわけだし……って、リョウさんがため息をついてる。
「今は『チカクニ ムラハ ナイカ?』と聞けば教えてくれるから、その方向を信じて進める。それがなければ、前みたいに、見えなければ進めない」
そうか、その言葉も、『帰って来てから』覚えたんだよね。困らないと、必要なことってわからないもんね。
あの時は、川沿いに走ってるのに村がなかったんだよね。川が塩で干上がってて、畑が作れないから、人が居なかったんだ。
「川が無いのに水があることにみな驚いていた。
イドという穴で水を汲むと言っていたが、意味がわからん」
「10メートルぐらい穴を掘ると、水が出る所があるんだよ。掘っても出ないことがあるから、場所を変えて、出るまで掘るんだって」
リョウさんが、私としゃべるために少し前かがみだったのに、背筋を伸ばして、私を見下ろした。
これだけ喋ってる間も、誰かがきて、リョウさんはずっと指示を出してはいた。全体の時間で言うと、私としゃべってる方が少ない。とにかく、いつもだれかがリョウさんにナニカ報告したり、聞いたりしてる。
今も、誰か来た。その人が行ってから、リョウさんが私を真正面から覗き込む。
「ハルは、知らないことがないのか?」
「え? 知らないことのほうが多いよ?」
私が知ってることなんて、テレビで見たことと本を読んだことだけだもん。全方位興味があるわけじゃないし。現代の最新流行とか知らないから、学校ではバカ扱いされてた。
「そうか? ハルが『わからない』と言った事を聞いたことがないぞ」
「そうだっけ?」
私いつも、わからないわからないって言ってる覚えがあるけどな……
「なぜ、イドを知ってる?」
「……私の国……部族には、普通にあるから」
私は掘ったことないけど、ナショナルジオグラフィックとか、ディスカバリーチャンネルとかアニマルプラネットとか、よく見てるから。アフリカで、大きな木の幹を組んで井戸を掘る方法とか、知っては、いる。私が指示してできるかどうかは知らないけど。その仕組みを書き起こして作業を確認した事はあるから。
「なぜ、お前の部族は、ハルを捨てた?」
なぜそんなことを今さら……?
捨てられたわけではないんだけど…………どう説明したもんかな……
「気付いたらあそこにいたから、わからない」
事実だし。
リョウさんが、抱きしめてくれた。
「ハルとの出会いを、神に感謝する」
「なんでリョウさんは、そんな、私に嬉し涙を流させるのかなー……」
本当に、大好き、リョウさん。
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