【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。41 ~馬を自分の名前で呼ぶ~

 

 

 

 

  

 

 今日もさっぱり快晴!

 お城を出たら、リョウさんの馬が脇で寝てた。馬が寝てるの、ここに来て初めて見た。多分、山でも寝てたんだろうけど、私が見てなかった。

 何度も乗せて貰ったよねー。ありがとうね。

 この馬だけ見分けがつくんだ。右のツノが少し欠けてるの。私が馬の練習をしたのもこの馬だったし、というか、リョウさん監督の元でしか乗らなかったから、リョウさんの馬に乗らざるを得なかったと言うか。

 私が馬に乗れなかったのはこの馬が大きすぎるからじゃないかと思うんだけどな。あのリョウさんを乗せて平気なぐらい、他の馬より大きいんだよね。その分、少し足が遅いみたいだけど。

 サル・シュくんが以前『リョウ叔父ー、リョウ・カ貸してー』って頼みに来てた。馬を自分の名前で呼ぶのはリョウさんも一緒みたい。

『ここらへん回りたい。俺の足傷めてて長く走れないから、貸して』って。馬は、サル・シュくんが乗るのをすごく嫌がったけど、リョウさんが撫でたら不承不承……って感じで走り出した。

 体が大きい分、食べる時はものすごく食べるけど、休憩が少なくていいらしい。サル・シュくんの馬は、本人に似て、速いけど細いって。崖とか軽々なんだけど、平地を延々走るとかは向いてないって言ってた。

 馬も色々あるんだなぁ……

 リョウさんの馬が、ちらりと私を見る。

 目を開けて、私を見て、また目を閉じた。イイコ。他の人には威嚇することも多いから、許されるのはいいこと。

 リョウさんがまた、玄関前で『伝令だまり』作ってる。

 リョウさんの指示を欲しい人達が、リョウさんの周りを囲んじゃうの。伝令は、大体、子供か、若戦士だから小さい。かぶと虫に群がってる蟻みたい。

 ほとんどはリョウさん、ここ、お城の玄関の前にいる。建物の中にいるの、キラ・シは大体嫌がるよね。もう随分寒いんだけど……この前、雪降ったし。私の家の近所だといつごろかな? 寒かったり暑かったりだから、10月ぐらい? 私はマキメイさんからいっぱい毛皮着せてもらって、外でもぬくぬく。でも、キラ・シは半袖というか、あの布の服でうろうろしてる。

「あれは秋服の下着なのですけれど、お寒くないのでしょうか?」ってマキメイさんが頬に手を当てて、ちょっと困ってる感じ。「サル・シュ様も鳥肌を立てることもないので、お寒くないのでしょうねぇ……お強いですね、キラ・シのかたって」って感心してた。

 女官さん達にはもう、『温石帯』が大流行してて、凄い感謝された。石を暖炉に入れておくだけだから、手間もお金も掛からないし、そりゃいいよねー。「丸い石作るの大変じゃない?」って聞いたら、川には加工しなくても丸い石があるらしい。そうか、私、いつも上流の方に住んでたからとがった石しか見たことなかった。

 まぁ、キラ・シはだから、刀振り回して『熱を発生させてる』んだろう。いつでも鍛練してるもんな。鍛練したらそこらへんでガーガー寝てるけど、さぼってる感じの人は一人もいない。

『鍛練してない』ことも『変』なことだから、『捨てられる』一因なんだって。だから、みんな、『捨てられないため』でもあるから必死に鍛練するんだよね。

 そりゃ、命かけてだらける人なんているわけない。だからどんどん強くなる。でもリョウさんとか上の人も鍛練はずっとしてるから、なかなか差は逆転しない。

 本当に、化け物並みの体力だよね。

 前に、懸垂何回できる? って聞いて、ケンスイ? って聞かれたからやり方教えたら、延々やってて、千回越える人がたくさんいた。化け物! リョウさんも、この、明らかに重たい体で1300回して、夜になったからやめたとか、凄すぎる。

 鍛練も、みんなここでやってる。お城の前庭広いから、100人ぐらいいても全然大丈夫。

 リョウさんがあの大きな刀振り回してるのをみんな、目をキラキラさせて見てた。

 リョウさんのまわりには子供が何人か、常にいる。たまにマキメイさんもいる。マキメイさんにも、小さな女官さんがいつも一緒にいるね。彼女の指示であちこち走っていくの。お城にも女官さんの子供なのかな? いるから、マキメイさんいつも引き連れて動いてる。伝令代わりに使ってる。ミアちゃんも、たまにヨチヨチ出てくるけど、鍛練してるときに出てくると危ないから、って、お城の入り口にキラ・シが柵作った。

 大人がまたぐには支障ないけど、幼児が通れない枠。まさしく子供用フェンス。

 マキメイさんについて歩くコとか、キラ・シの子供は、それをよじ登ってる。設置された最初はヒイヒイ言ってたけど、今はひょいっと越えてた。あれ、自然と子供の体力上げに貢献してるよね。私とかマキメイさんとか、ドレスで越えるの結構大変なんだけど、足腰の鍛練にはなってる。だって、越えだした最初、お尻の横のほうが筋肉痛になったから。

 キラ・シといると、ナニカと筋トレさせられてる。

 外だとリョウさん、常に抜き身で刀持ってるのちょっと怖い。右手に持ったり、左手に持ったり、人が少なくなると振り回したり、肩に担いだり。指先にあのでっっかい刀を立ててバランスとってみたり……ダンベル扱いかな。そりゃ、そうじゃないと、あの筋肉保てないよね。

 なんであの大きな刀を、人指し指の先なんかに乗せられるのか!

 私では、10秒も抱えてられない刀を、よくもまぁ、あんな軽々と。目の前を虫が飛んだら即座に一刀両断。蝶みたいな的の大きいのでも驚くのに、小蠅を斬ったのは本当に、凄かった。枯れ葉とかも、落ちてきたら切る。漫画の剣豪みたい。もちろん、小鳥とかになると、両方の翼と首をシュシュッて落としてる。つまり、あの一瞬で三回振ってる。凄い。そして、それは今日の晩御飯。

 キラ・シは、『食べるものしか殺さない』って前提があるみたいで、とにかく、自分が殺したのは、人間以外はなんでも食べる。このお城だとのんびりしてるから、骨に残った肉も丁寧にそいでる。皮も脂肪をそいで鍋に入れる。刀の上でお肉を焼いたら、脂肪がそのままつくからいいとか言ってたけど本当? それはさすがにやばくない? ってリョウさんに聞いたら、駄目だ、って言ってた。肉を串焼きにするための枝を探すのが面倒だから、刀で焼く人がけっこういるらしい。

 その脂肪を毛皮になすり付けてたのは見たな、山で。今は布の服だからしてないけど、毛皮着てる人はやってる。それで撥水して濡れなくなるんだとか。毛皮ってすごいね。そっか、動物が濡れても大丈夫なのはそういう理由で、死んだ毛皮は油の補給ができないから、人間が上から塗るのか。

 だからくさいんだな……

 そういう人はお風呂によく、服ごと投げ込まれてる。

 キラ・シって、させるまでが大変だけど、いったんしたら、それを維持しようとするのか、急かさなくてもやってくれるの凄いイイ。くさいと駄目だ、とかはお風呂入ると気付くけど、まさか、習慣にしてくれるとは思ってなかった。

 リョウさんはそんな男の人達の中、伝令が切れたら素振りしてるか、私と話してるか。

 会話してる間中、刀を持った手は動いてる。他の人が鍛練してるのに、私と喋ってると鍛練できなくて申し訳ないと思ったけど、その重たい刀、持ってるだけで筋トレだよね。

 また、飛んできた小鳥の首を落とした。服で刀拭う。これだけは、やめさせられないから、マキメイさんも諦めたのか、腰帯に長い布を垂らさせるようになった。現代で言うと、ベルトにタオルぶら下げてる感じ。それだけ交換すればいいから、これはこのあと、普及した。

 キラ・シは『手間なし便利』なら、やってくれるんだ。まぁ、そんなの現代でもみんな一緒だろうけど。ファッションに全く興味ないから、合理性だけでカタがつく。

 またチョウチョ! ばっさり!

「戦場では、『突然』しかないから、『突然』出てきたものを切る癖をつけているのが一番殺しやすい」

 そうですね。はい。

 さすがのキラ・シも、虫は、殺しても食べない。幼虫は食べてるの見たけど、チョウチョやガは食べないって。セミは美味しいらしい。

 伝令が切れたら、リョウさんが私を見て、歩いてきてくれた。ビュンビュン刀振り回してて、剣風で私の毛皮が舞い上がる。毛皮舞うとか、どんな風よ!

 馬が、リョウさんを見て起き上がって、顔を彼にこすりつけた。私はチロッと見ただけだったのに、コイツー!

「この馬、リョウさんのこと、好きだよねー」

「日がな一日乗っていたからな」

 子供が差し出してくれた果物を、リョウさんが馬にやるとしゃくしゃく食べてる。子供たちが直にこの馬に果物をやっても食べないのにね。ついでにリョウさんの顔も舐めてる。犬みたい。あんまりそうやって動かれると、ツノが怖いんで、リョウさんの後ろに退避。よくあんなツノをあたまにぶら下げて走り回れるよね。

 馬は首を立てると走れないから、馬を止めたいなら、手綱を引き絞れ。そんなことを、ネットで読んだことあるけど、リョウさん以外に、この馬の首を無理やり立てられる人なんていない!

『手綱を引き絞れ』とか簡単に書いてたけど、『馬の首の筋力に勝て』ってことだよ。無理だから、それ。馬が前に首やったら、私なんかポーンッて前に飛ばされるからっ!

「ハルナさんもハイ!」

「ありがとうっ!」

 子供が果物くれた。甘酸っぱいっ小さな苺、かな?

 すっぱくて、ちょっと甘くて、味が濃い!

 あ、サル・シュくんの子だ! 玄関の枠をよじ登って出てきたんだ。

「ミル・シュくんっ。元気だねっ! 寒くない?」

 大人と同じように布の服着てるけど、全身に鳥肌立ってる。寒いよね? やっぱり。

 サル・シュくんに似て、すっっごい白くてかわいいの、この子。三歳だよね。長男さん。

 肩をさすってあげると、青い顔が少しましになって、鳥肌も収まって、パァッ、と笑ってくれた。

「かわいーっ!」

 抱きしめたら、俺も俺もーってあたりの子供が寄ってくる。みんな抱きしめる。かわいーっ!

 リョウさんが、私の腰をつかんで抱き上げて、ちょっとあっちに歩いた。アーって子供たちが足元をついてくる。

 最近、あの山を降りてきたときみたいに、よくリョウさんに抱えられてる私。

 右手に刀、左肘に私を座らせてるリョウさん。そして、馬にもなつかれてる。馬を撫でると私の顔まで舐められた。

 伝令の人が切れたし、崖でも登りにいくのかな?

 お城にいるキラ・シの人達、あの裏山の崖を登るんだよね。馬で。馬の鍛練だって。

 リョウさん以外は、馬が動ける間ずっと登ってるみたい。そりゃ、平地を走るより鍛練になるよね。ツノを持って馬に乗るだけで、全身の筋肉つくし。帰って来たら刀の鍛練。もう本当、ずっと鍛練。そして、獲ってきた獣をこの玄関前で捌いて焼いて、食べて、夜はお城で女の人と眠る。

 なんて大自然と一体化した生活!

「そうだ、ハル。イドの話だが」

「うん? うん、ナニ?」

「掘ると言っていたが、人が掘るのか?」

「そうだよ」

「深かったぞ?『その世』に続いているのかと思った、と言っていた」

「でも、人間が掘らないと、誰も掘ってくれないよ」

 数日後、見てくれと言われたからナニカと思ったら、リョウさんが、キラ・シの子供に穴を掘らせてた。お城の敷地を川のほうに出た、雑草のど真ん中。子供にさせるのがキラ・シだよね……

「……人間の手で掘るとか……キラ・シ凄い……」

「人の手で掘る、とハルが言った!」

 リョウさん、声大きい! 何興奮してるのっ!

「……私が見たのは、人間の手で道具をくみ上げて、その勢いで掘ってたんだ……よ……」

「水がわいたっ! 穴の底から水が出たぞ!」

「ここは川のそばだから、どこ掘っても出るんじゃないの?」

 大きな穴。そりゃ、手で10メートル掘ろうと思ったら、穴の大きさも10メートル以上になるよね。

「掘っていただいたのですから、ここに井戸を作りましょう」

 って、マキメイさんが、町の人に頼んで煉瓦で壁を作って釣瓶をつけて井戸にした。リョウさんは、それをずっと、ずっと見てたんだ。『伝令だまり』はここにできてた。

「この小さいまっすぐな岩はなんだ?」

「あれは煉瓦。土をこねて型に入れて焼くんだよ」

「焼く? 土を焼いて、この固さになるのか? レンガ? 焼く?」

 リョウさんが、肩の高さから落としたら、レンガはちょっと砕けた。

「岩よりはもろいが、十分硬いな。これが土だと?」

 足元をザクザクとつま先で掘るリョウさん。この土かどうかは知らないけど……煉瓦作りを見に行ったらものすごく驚いてた。

「……キラ・シは、器をナニで作ってたの?」

「木か鉄だ」

「じゃあ、木は削るんでしょう? なら、岩を削るとか、一緒だよ?」

「ケズルは、ない」

 あ、言葉自体なさそう。そうだ、このお城に入ったときも、そこで一問着あったな、確か。

「木の器ってどうやって作ってるの?」

「ウロのある木を切るだけだ」

 あー…………そう。

「櫛はあんな細かく作ったのに、『削る』ことがないっておかしくない?」

「櫛はケズルのではなく、細かく切るんだ」

 そうですね。

「斧はあるんだ?」

「オノ」

 なんですって?

  

 

  

 

 

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