【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。42 ~職人さん巡り~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「斧、あるでしょ? 木を伐るための刃物」

「刀でやる」

「刀で木を? 伐れる? 折れない?」

「切ってる」

 そうですね。化け物キラ・シ。ほんとにもうっ!

「一日がかりなんじゃないの? みんなで大変でしょ? 」

「子の鍛練で、切り倒せ、と言うだけだ」

 子供の仕事なんだ? 凄い大変そうだけど。たしかに、人殺しではないから大人はしないんだ?

「何人かで?」

「一人一本だな」

「何日もかからない?」

「かかる」

「なんで一人でさせるの?」

「仲間ですると、誰の手柄かわからんし、工夫しなくなる」

 あー……個人の技量を計ってるんだ? そっか。

「木が必要なときは前もってわかるから、最初から用意させるし、うろを器に使うのは急ぎではない」

 そうだね。合理的だね。

 そっか、ウロを切り取ってお鍋にするのか……本当に『ケズル』ことってないんだな。なら、『岩をケズル』だって、わかるわけが無い。

「もしかして、この刀ってキラ・シが作ってるの?」

「そうだ。ここらへんの炉では、うまく打てなくて困っている。折れたら大変だ」

 そりゃ、リョウさんの刀は大変そうだよね。

「『下』でも鍛冶はしてるが、どうも、ここら辺では鉄を扱ってないらしい」

「ん? なんで鉄がないの? 刀とか鉄でしょ?」

「こっちの奴の武器は銅だな。川向こうはわからんが。

 鉄は山でも、持っていない部族がいるから、ここらへんでは取れんのだろう。鉄がないから、鉄の鍛冶ができないのだ。温度が違うからな」

「じゃあ、お城に鉄用の鍛冶作らないといけないんじゃないの?」

「それはもう進めてる。それを作ってしまうと、このシロから動けなくなることがいやだった。そう簡単にあちらこちらで炉を作れるわけではないからな。ここが『本拠地』に、今はなったから、もう捨てられない」

 ああ、そうか……私の夢の、ドラマティック部分だ、これ。

 蛮族が皇帝のお城を占拠したら、永遠に誰かが向かってくる……

「もっと向こうまで制圧すれば、炉をまた作るだろうから、ここを捨てられることはあるかもしれないが、向こうはこちらがわよりシロが大きいらしい。今は村だけを制圧している。襲われればすぐに壊滅する。そんなところで炉を作ることはできん」

「煉瓦じゃ弱いもんねぇ……やっぱり石のお城じゃないと、安心はできないよね」

「レンガとはあれか?」

 井戸を親指で指さすリョウさん。

「なぜそんなものを積み上げる?」

「レンガで壁を作ると、簡単に硬くなるから。小さいのを積んでるから、もろいけど、岩を掘ったり削ったりで作るよりは簡単だから」

「岩を掘る? なぜ岩を掘る? ケズルと掘るは一緒なのか?」

「『掘る』のはこういう、大きなあなとか、……『削る』のは大体は、小さいものとか、細かいもの」

「ああ……あのシロが、岩を削っていると言っていたな。大きなものが掘るのなら、あのシロは大きい。掘るのではないのか?」

 また前の疑問覚えてるなー。

 というか、これは、キラ・シってまっったく、土木工事してなさそう。

 竪穴式住居だから、穴は掘ってたんだよね?

「大きな穴を掘ってから、まっすぐに削ったんだよ」

 マキメイさんに、彫刻してる人を聞いて、行ってみた。岩に龍を刻むのをみて、リョウさん驚く驚く!

「なぜ銅のこんなもので岩が削れる?」

「曲げないのっ! 鑿を曲げたら、職人さん困るでしょ!」

 銅の鑿、手で曲げるとかっ!

 どうにかまっすぐに戻してたけど、一度曲げたものがまっすぐになるわけない。

 すぐにリョウさんが、馬の背に積めるだけの干し肉を持って行って謝ってた。それは過分だと思うけど、心は伝わったみたい。

 あれから、職人さん巡りしてるんだよね。

 毎回凄く驚くから、連れまわし甲斐がある。

 町の人も、既に半数以上、女の人がキラ・シの恋人だし、リョウさんがこんなだから、怖がることはなくなったみたい。良かった。これがガリさんだったら、ずっと怖いんだろうな。

「リョウさん、きっと、人殺しより、職人のほうが向いてるんじゃないのかな? キラ・シに生まれたから『人殺ししか習わなかった』んだよね?」

「それは、他の奴には言うな、ハル」

「……ごめんなさい」

 気軽に言っていいことではなかった!

「いや、二人だけならなんでも言ってくれた方がいい。

 ただ、キラ・シでは、こういうのが好きなのは『変なこと』だから、疎まれる」

「井戸を作るのとかも職人さんがしてくれてるんだよ? それでも『変なこと』なの?」

 リョウさんが、何度もくちびるをかみしめて、顔を手でさすって、でも、私を見て、言った。

「敵を殺すワザか、味方を守る方法以外を、見る必要は、無い」

 そうじゃない、ってリョウさんはもう分かってるけど、キラ・シだから、そう言わないといけない。その痛切さで声が震えてる。

「ショクニンがしていることをキラ・シに教えて興味を引けば、殺しのワザが甘くなる。ここでみなが弱くなったら、キラ・シはすぐに全滅する」

 ……そうだね。

 まだ、みんな、命懸けなんだね。

「リョウさんは、違うって、分かってるんだよね?」

 家から見れば、どこからでも見えるあのお城の高い塔を見上げる。

「あのシロは、キラ・シには作れん。マキメイたちが出してくれるリョウリも、作れん。あのすぐ割れる皿も、作れん。500年も、ブタや鶏をカイツヅケルことは、キラ・シには、できん」

 この服も、と、リョウさんが自分の服を指でつまんだ。

「こんな薄い皮を、キラ・シは見つけたことが無い」

「これは動物の皮じゃなくて、糸を折ってるんだよ。布なんだ」

 機織り職人さんのところにも行った。

「あんな……爪の薄さより短い距離しか進まないのかっ? このフクを作るのに、どれだけかかる?」

「三カ月ぐらいだって」

 リョウさん絶句してる。

「布は、一応、高級品なんだって、こっちでも。だから、一度作ったら一生着るみたい」

「三カ月って……数があわんだろう? キラ・シにも既に何百枚もこれを貰ったぞ?」

「その数だけの人が、ずっっっっと、織ってるの。ああして」

 ここは機織り職人さんが一杯いる。それでも、30人ぐらい。

 今までに最高の『呆然』だね。職人さんが龍を岩から削りだしてるのも驚いてたけど。龍の石飾りなんて、そこら辺に無いから、時間が掛かっても大丈夫、と思ったみたい。

 服はね、みんな着てるものだから、一着に三カ月かかるってなると驚くよね? 私も今聞いて驚いた。

 布だけは、現代でも、機械化が進んだだけで、『織る』技術自体は変わってないんだよね。

『爪の厚さより細かい進み具合』で進めてるんだ。

「ここらへんだと、女の人がみんな家で機織りしてるみたい。家にいる女の人の仕事なんだよ」

「ああ……そうか…………キラ・シでも、女はいたが、洞窟で寝ていただけだったから……。あれに働きをさせるということか…………考えてもみなかったな……」

「キラ・シの女の人も外に出たがったでしょ?」

「……さぁ…………」

「なんでサァ、なの?」

「喋る口がなかった」

「口はあるでしょ? ご飯食べてたでしょ?」

「いや……会話は、できなかった」

「言葉が違ったってこと? 他の村からさらってきたから?」

「そうではない…………、多分、ハルが、一番嫌いな、理由だ」

「ナニソレ……」

 …………寒いんですけど……

 

 

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