【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。44 ~深い穴から水~

 

 

 

 

 後日、あの、レンガを積み上げていた穴に、木のやぐらを作って釣瓶をつけた。

 初めて水をくみ上げたら、キラ・シがものすっっっごい歓声を上げる上げる。拍手する習慣がないからって、そこらへんの木を殴らないで!!

「水だっ! こんな深い穴から水を汲んだぞっ!」

 リョウさんまで大はしゃぎ。

「落ちる落ちるっ!

 リョウさんが頭から落ちたら、きっと中で動けないから、そのまま窒息死だよっ!」

「ああ……これが、村にあるから、川が無いのに水があるのかっ!」

「そうそう」

「凄いなっ! 下の奴らはなんて凄いものを作るんだっ! 信じられんっ!」

 実は、何回か、レイ・カさんとか、ガリさんとかも見に来てたんだ。戦以外に楽しみがないから、誰かが集まってると寄って来るキラ・シ。小学生男子並み。

 その時にレイ・カさんは、リョウさんに担がれてお風呂に投げ込まれてた。レイ・カさんが綺麗になったもんだから、レイ・カさん自身が自分の部隊のくささに我慢できなくて、全員お風呂に入れてくれた。

 とりあえず、山からの汚れは、みんななくなった! これから汚れるだろうけど、それはもう仕方ない。ただ、レイ・カさんはどうやら女の子に、においがなくなったと褒められたらしく、お風呂に入るために帰って来るようになった。服の着脱も簡単だから、あちこちで水を浴びてるらしい。雪降ってるのに! まだまだモテたいのね。一番隊で入れ食いのくせに……それと、お風呂気持ちいいって気付いたらしい。ラキのお風呂は格別だよね。

 まぁ、何日も駆け回ってる人はそのうちまたくさくなるけど何十年分のくささよりは、よっっっっぽどましっ!

 あ……ガリさんまで来た。

「見ろっガリ! こんなので水が汲み出せるっ!」

「あの穴がこうなるのか」

 ガリさんも、目がまんまる。落ちるってばっ! 学べっ、キラ・シ!

「川も村もなければ、これを作ればいいんじゃないのか? 別に、レンガはなくていい。穴を掘るだけで水が出るなら、草木一本無い所に拠点を作れる! ただ掘ればいいんだっ!」

 なんか……キラ・シが凄いこと覚えてしまったんじゃないかこれは。

「いやいや、リョウさん、どこ掘っても水が湧くわけじゃないからっ! 水がないところの土は、カチンカチンだから、手では掘れないよ!」

 キラ・シ、手で掘ったもんな。10メートルも!

「そうなのか?」

「せめて草が生えてないと無理。草木一本無いなら、その下に水は無いから! 井戸で水が出るなら、多分そこに村があるから」

「……そうなのか…………残念だな。東に、村も川もないところがあるのだ」

「東に砂漠があるって言ってたから、それじゃない?」

「サバク?」

「砂ばっかりのところ」

「スナ?」

 ソコカラカッ!

「えっと………………土が乾いて、粒々になって舞い上がるような感じ。おヒゲに入るとジャリッとなるんじゃないかな」

「それだ。みんな凄くヒゲがかゆくて嫌がっていた。土が羽毛のように舞い上がる『その世』があると、戦士たちが騒いでいた」

 サバクの砂をそんなふうに表現するかキラ・シ。というか『砂』って言葉が、無い? 地面は全部『土』扱いかな、これは。そういや、どこにも水が湧いてるような山の土ってしけってるから、舞い上がるような砂って、……ないと言われればナイ? まぁ、あったとしてもキラ・シが砂と土に別の言葉を当ててないだけだろうけど。

 英語も、一つの単語でいろんな意味があるから、日本人には大変なんだよね。

 英語からキラ・シ語を見たら、そんなヘンナ言葉ではないのかも。英語でも、土と砂は違う単語だけど。湿度の高い山だと、やっぱり『砂』って感覚は無いのかな? というか、砂でも土でもどうでもいいから、見分けてないだけなんだろうな。

『文化』って『戦わない人』が作るんだよね。もっと単純に言うと、『お金持ち相手の商売をする人』が作るんだよ。だって、お金が余ってなかったら、生活必需品以外は買えないから。

 キラ・シは全員が戦士だから、『文化』が育たないどころか、どんどん廃れていくんだ。しかも『私有財産がない』から、『個人の持ち物を上等にする』っていう『観念』がそもそもない。着脱を頻繁にしないのなら、毛皮を巻き付けるだけでも『用は足す』から、縫製技術もない。

 多分、女の人が『生活の面倒をみてくれる』状態なら、服ぐらいは作ってくれたと思うんだ。縫製技術だって生まれただろう。

 刀なんかで木を切るのは難しいから、斧を作ろうとか、言ってくれたかもしれない。

 キラ・シはあくまでも、『木を切る』のは『雑務』でしかないから、『人殺しの道具』である刀を流用することしかしなかったんだ。鉄がない村もあるって言っていたから、『鉄は貴重』なんだろう。その貴重なもので『人殺しの道具以外』を作ることは考えられないんだろうな。

 例えば、一年に10キロしかとれない、ダイヤモンド並の硬度のオリハルコンの金属が取れるとする。それを斧や器に使わないよね。やっぱり武器に使うよね。

 だって、木が巧く切れたって、人殺しが巧くなかったら、村が滅ぼされるんだもの。そこに金属を使ってる場合じゃないんだよね。

 全部が『戦い』のために組み上げられているキラ・シの社会。

 弱ければ自分の子供でも平気で殺してしまう、『戦士の血統』。

「なぜ土が舞い上がる?」

 ああそうだ、リョウさんたちと井戸を覗いてたんだった。

「シャキは砂漠の国って言われてたから、砂漠にあるんだと思うよ」

「サバク?」

「砂だけでできた大地。地面が動くから、草木が根付けなくて生えない」

「なんだそれは、土が動く? ……サバク……か…………そんなもの、山には無いぞ。よくそんな恐ろしいところで暮らせるな下の奴らは」

「暮らしてないと思うよ。村はなかったんでしょ?」

「……そうだな。そうか、やっぱり下の奴も住めないのか……」

 キラ・シの山は豊かだったんだろうな。水の心配をしてなかったみたいだから、本当、日本の山みたいにあっちこっちから水が湧いてたんだろう。

「サイコウのこちら側はどこに行っても水があるが、あちらは1日走っても水がないことがある。だから、前に全員で川を越えたら進めなかった。馬がやられては元も子もないからな」

 そうだよね。馬ってずっと走るのかと思ってた。

 三分の一は歩かせてるし、全行程の半分ぐらいは『馬の食事』の休憩してたもんね。それでも人間が歩くよりは早く進めるし、なれたら楽だけど。なれてなかったら車よりはるかにつらい。

 当たり前だけど、『他の動物にのる』って『アスレチックし続ける』ってことだから、ホント、ツライ……

 馬って草食動物だから、消化に時間がかかるのね。だから常にちょっとずつ食べて、ずっと消化してなきゃいけないから食事が頻繁みたい。山でも、歩いてると常に首を下ろして食べてた。しかもあの時は崖ばっかりだったから、体力使うよね。ただ、あんな崖をひょいひょい登っていくのはさすがに驚いた。しかも人間を乗せて!

 キラ・シは、替え馬とか、馬用のエサを持って動くとかしないみたい。こないだサル・シュくんが替え馬って言ってたから、言葉は在るみたいだけど。緊急のときだけ替え馬使うって感じみたい。

 全部現地調達。まぁ、山だと、川も草もいっぱいあったから、それで行けたんだろう。

「こっちの軍隊だと『輜重隊(しちうょたい)』って言って、人間の食べ物と、馬の食べ物と水とかを運ぶ部隊を連れて動くんだよ」

「……あぁ………………そうすれば、どこでもいけるな。ただ、凄い量だぞ?」

「うん、凄い量だから大軍は遅いんだよ。用意するのが大変だし、輜重隊は荷馬車だから遅い」

 古代だと、戦争の移動とかで、一日10キロが平均速度、って言われてる文献もあった。牛に荷駄を引かせるとそうなるみたい。

 山でも「馬の好物があるから休憩」とかよく言ってた。水があったらかなり長い間休んでたし。馬の都合が最優先みたいだったな。

 たしかに、日本の山なんて、どこででも水が湧いてたり、湿ってるから、『水が無い逼迫感』って少ないけど、ユーラシア大陸とか、北アメリカ大陸とかって、半分が砂漠や荒野だもんね。

 中国とかロシアとか、大きいけど、人間が住める範囲は凄く狭い。ここも、川の向こうはそんな感じなんだろう。

 最初に下りたところが『皇帝の城』だったから、多分、大陸でトップクラスに技術が進んでるはず。他のお城とか暮らしがこんなだと、考えない方がいい。それでいうと、キラ・シが勝ち進んでるのは理解しやすい。

 いっぱい木があった山から、こんな平地に出てきたら、見るもの全部初めてで大変だろうに、まだ誰も死んでないって凄い。

 何千人も殺したのに……

  

 

  

 

  

 

 

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