【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。45 ~スパダリ天国~

 

 

 

 

 とりあえず、ガリさんたちがサル・シュくんもつれて出陣して、お城の人数は凄く減った。

 だからか、ご飯も、どうにか間に合ってるみたい。

 夜盗の人が食べたみたいだけど、食べ尽くしてはいなかったって。

 ただ、シャキから貰える現金が無いから、『現金で買っていたもの』が、毛皮とか干し肉とかと物々交換で最初は嫌がられたって言ってた。

 前はお水も買ってたらしい。

 キラ・シが掘った井戸が大活躍!

 これがあるから、マキメイさんが井戸を作らせたんだろうな。『現代的清水』ではないけれど、向こう側の黄色い川の土が入ってないから、透明は透明。

 女官さんが、えっちらおっちら運んでたら、キラ・シの戦士がひょいっとやってくれて、女官さん達感激してた。女官さん達には重労働だけど、キラ・シの男の人達にとっては簡単なことなんだもんな。

 そう思ってただけなんだけど、「ラキの兵隊の人は、水運びを手伝ってなんてくれませんでした」って女官さん達に拳を握って訴えられた。

 それはほら、就業中だから、他のことしちゃいけなかったんだと思う。

 キラ・シは、そんな規律が無いから。

 生活全部が鍛練ではあるけど、『鍛練時間』って訳じゃなくて、ヒマ時間を全部鍛練に使ってるだけだから。特に、水運びなんて筋トレにもなるし、女官さんに喜ばれるし、特に、自分の恋人が運んでたら手伝うよね。

 車を運転する親戚のお姉さんが言ってた。

『うちの家の前の小道、大通りに接続してるから、出るの大変なの。でも、女だ、ってだけで道を譲ってくれるんだよ。そのあと二度と会わない女なのに。でも、男には譲らないから、旦那たちは裏から出るの。男の人ってかわいいよね』

 凄いしみじみしてたな。

 あの時は『どうかわいい』のかわからなかったけど、確かに、女の人に甘い男の人って、女からみると『かわいい』わ。どんな熊さんでも。

 そうだよね、この時代、何が大変って『真水を入手すること』、それを『家の中まで運び込むこと』だよね。現代の水道って、本当にありがたいんだなぁ。

 ひねったら水が出るとか。

 大戦中のロシア兵士が、それに感激して蛇口だけ持って帰ったとか、嘘でしょー、って笑ってたけど、今ならわかる。そんなの見たら、リョウさんでも蛇口持っていくと思う。

 水運びをしているキラ・シの戦士を眺めてたら、指笛が鳴り響いた後、キラ・シ全員が腕を振り上げて叫んだ。

「ナニッ!」

 外で刀振り回してたリョウさんも、大剣を振り上げて笑顔。

「どうしたのリョウさんっ!」

「ガリが帰ってくる!」

「サル・シュくんは?」

「『撤退する』だけだから、生き残っている人数はわからんが、援軍をよこせとは言っていないから、支障ない人数はいるのだろうな。サル・シュは殺しても死なん。心配するな」

 二、三日あとから確かに、ぞくぞくとみんな帰って来たけど、氷柱のしずくみたいに、ちょっとずつちょっとずつ帰って来て、ちょっとずつ出ていくから、全然『凱旋!』って雰囲気にならない。これ、現代だったら、負け戦だよ。

 今回もガリさんがなんかものすごい活躍したらしいし、誰も、まだ誰も、死んでないから、勝ち戦ではあるみたいだけど……

「なんで一気に帰って来ないの?」

「戦闘が終わった時に、手近の村にばらけて、休みながら帰ってくるからな。レイはもっと遠くの村にそのまま行ってしまったらしい」

 レイ・カさん……ガリさん以上に突っ走るな……

「サル・シュくんとガリさんは?」

「どこかの村にいるんだろう。撤退を指示したのはガリだが、そのあと、みんなばらけたから、知らんらしい」

「……え? じゃあ、なんか凄い大きな戦争だったのに、凱旋祝いとか、ないの?」

「ガイセン?」

 そう言えば、凱旋の定義ってなんだろう。

「勝って帰ること」

「ハルの部族では、戦うたびにそんなことをするのか?」

「しないんですね……」

 戦勝祝いってしないもの?

「戦った奴が、夜の酒ではしゃくぐらいだな。もうそれは、近在の村でやってしまってるだろうし、既に、制圧に回った者がいるし、レイもいないし」

 みんなから挨拶されて、リョウさんもニッコニコ。

「普通、勝つしな」

 そうですね。

「なんかけっこう、悲壮な決意で出陣してなかった?」

「戦はいつでも真剣だ」

 そうですね……

「勝てるように配置して出陣するから勝つ。勝てないなら出ない。それだけの話だ。

 だから、キラ・シは、出れば勝つぞ」

 孔明みたいなこと言ってる。

「副族長への戦果報告は?」

「ガリがするだろう」

「そのガリさんは?」

「さぁ?」

「サル・シュくんはっ!」

 リョウさんが小さくくちびるを尖らせて、近くの戦士を引き止めた。

「サル・シュはどこにいるか知ってるか?」

「さぁ?」

「生きてるか?」

「撤退の時は、見たぜっ!」

 イライラするわーっ!

「落ち着け、ハル。顔が真っ赤だぞ。どうした?」

「生理前症候群だよっ!」

 リョウさんの向こう脛を蹴って部屋に駆け戻った。

  

 

  

 

  

 

「おー……ハル………………真っ赤だな、どうした?」

 ベッドでル・マちゃんが温石を抱えて転がってる。

 ここ2カ月、ル・マちゃんと生理周期が一緒だったのに私だけずれてて、なんかイライラする。

 だからってあんなこと、リョウさんに、というより男の人に叫ぶことじゃなかった、いや、女の人に叫んでもだめだろ私。

 ……自己嫌悪……ウアーッ!

 ル・マちゃんがそっと温石を差し出してくれたので、遠慮なくル・マちゃんも一緒に抱きしめた。

「父上どうだって?」

「行方不明」

「……ハハッ……また、どこか見に行ったのか?」

「いつもなの?」

 クハッ、とル・マちゃんが笑う。

「言っただろ? 父上は元々がサル・シュみたいな奴なんだから、面白いものがあったら行くさ。じっとしてられないんだから」

 そう言えば、ガリさんってリョウさんと三年ぐらい旅に出てたんだよね。そりゃ、今さら、数日が二カ月でも平気だろうな。放浪癖のある親って、子供大変だな! 逆でも大変だけど。

 私はすぐに電話がつながる『現代』に育ってるから、『今すぐ居場所がわからない』とか、キツイ。

 多分、この時代だけで言えば、キラ・シの指笛、凄いよね?

 キラ・シって何かにつけて大声だったり、騒々しかったりなんだけど、『大きくないと聞こえない』ところで生活してるんだ?

 携帯もスマホも無いのに、二キロ先の人と会話ができるとか、凄すぎる。

 でも、連絡の入れようがあるでしょ?

「リョウさんだって、好きでお城にいるわけじゃないのにっ! ……ちょっとは替わってあげたらいいのに……」

 ル・マちゃんが、頭撫でてくれた。今はちょっとイヤ、それ。

「さっき、みんな、ガリさんが『山ざらい』でシャキのお城壊した、って言ってた」

「オオスゲーッ! 見たかったなーっ!」

 それは思う。スマホがあったら、すぐ動画で撮れるのに……

 お城なんて、本当に壊れるのかな? 砂漠のお城としたら、日干しレンガ? なら、崩せるかなぁ? どの規模で崩したんだろ。お城まで日干しレンガで作る? 何年かに一度は雨が降るんだろうに。崩れちゃうよね?

「シャキの村大きい?」

「大陸で一番大きい町らしいから、凄いんじゃないかな」

「どれぐらい?」

「少なくとも、このラキの三倍以上」

 ラキがギリギリ一軍で、シャキが三軍って言ってたから。

「ハル、起きてるか?」

 リョウさんが来た。

「起きてるよ…………どうしたの?」

「さっき、なぜ、あんなに暴れた?」

 忘れてた……

「ちょっと、具合が悪くて……ごめんなさい…………やつあたりでした……」

「それは分かっている。あんなに赤かったからな。収まったか? うさが晴れるのなら幾らでも蹴れ」

 うう……スパダリ天国…………自分の醜さが痛い……

 リョウさんがベッドに座って、大きな手で腰を撫でてくれた。

 温石よりあったかい……溶けるぅ…………気持ちいー…………

 ナニ?

 リョウさんが、壁の方を見て止まった。ル・マちゃんも。

 ナニカ、指笛が聞こえたっぽい。私にはもちろん、何も聞こえなかった。

 お城が、なんか、殺気だった。ル・マちゃんが、くちびるを噛んで、温石の毛皮に顔を埋める。

「どうしたの、リョウさん」

「ガリが呼んでる……」

 なんか、外を凄い走ってる音がする。出て行ってる?

 あ……クサイ…………

「おうっ、リョウ・カっ! 俺が居てやるから、早くいけよ」

 リョウさんと同じぐらいの横幅で、ガリさんぐらい身長のあるショウ・キさんだ。

 でかい……

 ドアを、頭を下げた上で斜めにならないと入ってこられないの凄い。なんか、こっちで作ったっぽい、綺麗目毛皮の服着てる。毛皮の服をもらったのって、ショウ・キさんだったのかな? その分……返り血が凄くて…………クサイ……

「すまん、ハル。行ってくる」

「……待ってます…」

  

 

  

 

  

 

 

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