【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。50 ~【ハルナ】使者~

 

 

【ハルナ】

 

  

 

「ハルナ様っ! 玄関へお出座しいただけますかっ!」

 書庫をほぼ読み尽くしたとき、マキメイさんが転げそうな勢いで飛び込んできた。

「車李(しゃき)のかたがお越しです!」

 廊下に出たら、キラ・シの指笛が同時多発であちこちで鳴り響いてた。

「戦争? こっちに攻めてきたの?」

 ショウ・キさんだけで大丈夫かな? 他、子供が殆どだよ。

「いえっ、使者のかたです」

「使者? なんの使者?」

「同盟の使者だと言っているようです」

 同盟? キラ・シと?

 ガリさんもリョウさんもいないのにっ! 私が受け答えしても仕方ないじゃない!

 だから、どっちかは城にいろとっ!

 大体、車李まで何日かかるんだろう?

 ああ、使者に聞けばいいのか。

 やった! これで近隣の距離がわかるっ!

 玄関に降りたら、キラ・シが大扉に群がってた。

「おう、ハル。なんだありゃ」

「ショウ・キさんっ、ガリさんとリョウさん呼んでくれた?」

「もう呼んだ」

「ありがとうっ! どんな感じ?」

「邪魔」

 ショウ・キさんの腕にちょっとふれようとしたら、一メートル向こうまで飛んで逃げられた。私が邪魔?

「リョウ・カに殺されたくないっつってんだろっ! 触ろうとすんなよ! ハルはそうじゃなくてもいいにおいしててやばいんだぞっ!」

 壁に手をつくぐらいの感覚しかなかったから、びっくりしたっ!

「…ご……ごごめんなさい……つい、リョウさんとの癖で…………私にも見せてくれる?」

 子供の後ろから覗こうとしたら全員が左右にのいたので、私だけが玄関前に立ってることになって、玄関のすぐ前にいた使者の人から拝礼されて口上を述べられた。

「待って! 私、責任者じゃないからっ。通詞だから!」

「そうであられましたか。皇太后陛下もかくやといわんばかりの御威光にございましたので、ご挨拶差し上げました失礼、お許しください」

 そうだよね。これは皇太后陛下の服ですよ。まさに『慇懃無礼』ってやつ? 庶民がナ二着てるんだっ! って言われたんじゃない? 考えすぎ? 暖かいんだもん、この服。

「私は車李の観夏史(ミゲシ)と申します。偉大なる雅音帑(がねど)王陛下より、外交大臣として任じていただいております。寸罹朿(キラ・シ)国の国王に、是非、お話がしたく、まかりこしましてございまする。お目通りの許可を、宜しくお願い申し上げます」

 大臣が土下座してるーっ! 勘弁してっ!

 これはまぁ…………キラ・シ、圧勝だったんだな……

 多分、お城を『山ざらい』で崩したとかも本当なんだ。

 ビビって、慌てて使者をよこしたんだ?

 だけど、この人が本当に大臣かどうか、調べようが、こっちにはないんだよね。

 ここに来るためだけに、殺されてもいい下っぱを任官した可能性もあるわけで……

「ちょっとショウ・キさん、キラ・シだとこういうときどうするの?」

「えー、族長が帰るまで待つしかないだろ」

「いつ帰って来るの?」

「さぁ……」

 肩をすくめられるって、こういうとき肚立つーっ! キィッ! 向こう脛蹴りそうになって、慌てて押さえた。

「どうしたハル……」

「ル・マちゃん、大丈夫? 脂汗凄いよ」

「『外』と話をするなら、今は俺が一番上位だ」

 ああそっか。そうだね。

「ハルのほうが四位で上だが、やるか?」

「お願いします」

「できるだけ低い声で通辞しろ」

「……うん…………がんばる」

 ル・マちゃんが、私の頭をざりっと撫ぜて、刀を抜いた。玄関へと歩く。

「我が父上がお前のシロを滅ぼしに出陣した。お前は、父上がお前のシロを崩したあとに出たのか。前に出たのか」

 私がル・マちゃんの後ろで通訳する。国王って言われてるから、国王で返した方がいいよね?『お前』って訳していいのかな? いいよね。こんな、威厳のある声出せたらいいのに、ごめんね、ル・マちゃん。

「あ……あとでございますっ!」

 あとなんだっ? というか、本当に崩したんだ?

 後ろでショウ・キさんがガッツポーズしてる。うるさいよ。

 ル・マちゃんに椅子を出そうとしたけど、ショウ・キさんに止められた。

「刀を持って立ってる事が大事だ」

 そうなんだ?

 ル・マちゃんの背中が、汗でどんどん張りついていくよ。あれだけ暴れるル・マちゃんが、ベッドで転がってるしかできないほどつらいのに……立たせておかなきゃいけないのか……

 上の人は座ってていいと思うんだけど、それがキラ・シの倣いなんだね。そして、ル・マちゃんも、それをするんだ?

「ならば、第二軍が重ねて叩き潰すために出陣する前だな。今、お前のシロはまだあるのか」

 大臣が真っ青になった。

「じゅっ……十五日前には無事である筈ですっ、早馬で伝令が来ました!」

「どこで伝令を受けた」

 ル・マちゃん、質問してるのに語尾が下がるところとか、しゃべり方がガリさんそっくりっ!

「川向こうでございます! 伝令を迎えてから、船で川を渡る予定にございました!」

「フネをどこで用意した」

「小さな船を馬二頭で国から運び、それに二人ずつのって渡りましてございますっ! 殆どのものは、裸になって歩きました」

 歩いて渡った? そんな浅いの?

 ああそうか、黄河も土を凄く含んでるからすぐに堆積して浅くなるから氾濫するんだ。でも、歩けるほどじゃないよね? 黄河を歩いて渡ったとか聞いたことが無い。この詐為河(さいこう)は黄河ほど広くは無いのかな? 対岸は見えないけど……

 あー……船はじゃあ、やっぱりここらへんにはないんだ? あんな大きな河が浅いとは、思ってもみなかった。船が発達してないんじゃなく、浅いから大きな船を入れられないんだ?

 ……ということはつまり、歩いて幾らでも渡河できるってことじゃないよっ!

 それが一番怖いわ! ただ、荷馬車はそれをできないから橋が在るだけなんだ? そっかー!

 たしかに『ここに来た頃』、リョウさんもそれを危惧して、お城を脱出したんだよね。浅いのは知ってたのかな?

「ショウ・キさん、誰かに川向こう、見てきてもらっていいかな? あの人達が全部持ってきたかどうかわからない」

「ナニが知りたい?」

「そこまでナニで来たのか、ナニカ置いてきてるのか。まだ伝令がそこに来るのかどうか」

「わかった」

「それと、あんなおじいさんでも渡ってこられる河って、怖くない?」

「それは驚いた。子供たちをやる」

 ショウ・キさんは、河が浅いことを知らなかったんだ?

 ル・マちゃんは、まだ立ってる。ちょっとふらふらしだしたので、ショウ・キさんが後ろに立って、ベルトを支えてくれた。

 大きな人が出てきたから、大臣がゴクリって、喉、鳴らして見上げた。もっと青くなる。

 これは、ル・マちゃんが小さいから舐めてたっぽいな。

 服も、黒いけど下着だしね……蛮族丸出し。

 大臣さんも後ろの人も、金糸の入った豪華な服だもんな。

 あっ! 前庭の松に、干し肉かかってる!! 蛮族度合いが一気にわかるあの肉一枚!!

 まぁいいや。

 蛮族の方が『何するかわからなくて怖い』だろうから、それで行こう。というか、『蛮族ではない真似』なんて、元々できない。

 後ろに集まってたキラ・シや女官さんを集めてこそっとささやく。

「大きな人、外で馬に乗って、刀抜いて、あの人達囲んで。子供達は、あそこから見えないところで、大声出しながら、鍛練してて。刀の音、響かせて。キラ・シは強いぞっ! って所を見せるんだよ! 女官さんは普通にお仕事して。あんな使者、なんでもないんだ、って言うように! ちゃんとキラ・シが守るから、大丈夫!」

 コソコソ、みんなコソコソ伝達。

「俺は?」

 ショウ・キさんが自分を指さした。

「あなたはそこでル・マちゃんを守ってて。反対側の手で刀抜いて、あの大臣に向けておいて。そして、大臣を『今すぐ殺すぞっ』って感じで、睨み付けてて。今、一番強そうに見えるのはあなただからっ!」

 この体格でル・マちゃんに負けるって、間違ってる……

 嬉しそうに刀抜いたショウ・キさん。くるくるまわしたり、振り回したり。風切り音がすっっごいっ!

 大臣たち使者が、見て分かるほどおびえだした。

「お前は、ナニをしに、来た」

 ル・マちゃんが、ドスの利いた声で問いただす。

 怖い怖い。

 サル・シュくんがおとなしいのも怖かったけど、ル・マちゃんでも怖い。さすがガリさんの娘。脅し方を知ってるわ。多分、言葉を思い付かなくて黙ってるんだろうけど、その『間』が凄い怖い。

 私が通訳してるから、大臣の耳に聞こえるのは私の声だけど、ル・マちゃんの声は聞こえてるもんね。通訳の声で安心したりしないでしょ。

「ど……同盟のっ……使者でっ…………ございまするっ!」

 周りにキラ・シの戦士があふれ、鍛練の音が聞こえてきたことに大臣さんめっちゃおびえてる。他の人達も、ぴったり額を擦りつけて土下座してたのに、顔を上げて見回しだした。それ、拝礼やめてるよね。失礼だよね。ん?

 キラ・シの声は大きいから、怖いよねー。

 よかった、私だけが怖いんじゃなかった!

 お城の中から、生活音もしだした。子供たちが水汲みや、掃除をしだす。女官さんも走り回ってる。

 そういえば、『同盟』って、キラ・シにも分かる単語なのかな?

「俺が、お前の首を持ってシャキのシロにいけばどうなる」

 

 

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