「俺が、お前の首を持ってシャキのシロにいけばどうなる」
ル・マちゃん……なんて質問するの…………!!
「…ど……同盟は、は……破談っにございます…………」
震えてるけど、大臣さんはすぐに答えた。
「すぐに戦いになるのだな」
「……っ……」
大臣さんがハッ、とル・マちゃんを見上げて、少し震えて、地面を見て、拳を握って、震えを止めた。
「そうでございましょう……」
首をとるならとってください、とばかりに、大臣さんは首を伸ばしてル・マちゃんを見上げた。
即答しなかったってことは、そんな暴挙をしても戦いにならない可能性があるってこと、だよね? そこまで、車李(しゃき)はキラ・シが怖かったってことだよね?
ガリさん一体、何したの?
『撤退』って言うから半分以上負けたのかと思ってたのに。
ル・マちゃんにもそれがわかったんだろう、『必死!』の雰囲気が少し薄れた。
「邪魔だ」
ル・マちゃんが玄関を下りる。足元の小石を大臣に蹴りつけた。
そのまま通訳するの……怖い…………
大臣は、青い顔でル・マちゃんを見つめたまま、動かない。
「せ……せめて、書簡をごらんく……」
「そこにいるだけで邪魔だっ!」
後ろの私でも、声圧で倒れそうになるぐらいル・マちゃんが怒鳴った。
こういうときはショウ・キさん、ちゃんと支えてくれる。ありがたい。
私が通訳しないでも、声と、振り上げられた刀で意味はわかったらしく、使者の人達全員が、エントランスの敷石の上から向こうに下がった。
大臣が、崩れた垣根の向こうで土下座したまま、こちらを覗いてる。
ハムスターが、ひまわりの種を抱えて覗いてるみたい……
笑いたい。
「ショウ・キさん、笑っちゃ駄目!」
「おう……それは難しいな……」
ル・マちゃんが、刀をしまってお城に入ったところで、ふらっと倒れた。ショウ・キさんが片手で支えて、少し大きな人に渡す。
ル・マちゃんがんばったっ! 凄かった!
「ショウ・キさん、書簡を貰ってきて」
「俺がぁ?」
「ショウ・キさんが一番強いじゃない」
「まぁな!」
キラ・シ、チョロい。
「大臣の前まで行って、『渡せ』って感じで手を出せばいいから。声は出さなくていいよ。思いっきり怖がらせてきて。他の人達も、取り合えず、ガリさんたちが帰ってくるまであの人達を監視してて」
いつ帰って来るのかな。食べ物どうするんだろう。まさか、このお城で食事できると考えてないよね?
ショウ・キさんが書簡を脅し取ってきた。
『箱』だとわからなかったのんだろう。エントランスを歩きながらそれで肩にトントンしたから、蓋が外れた。落ちてはまらなくなって、書簡まで落として、巻物だと知らないから、テキトーに持ったらべろんっと長くなって、大臣が目を剥いてたけど、そのまま三つの状態でべろんべろんと持ってきた。
「これ、いるのはこれだよな?」
ショウ・キさんがべろん、と書簡を右手にあげる。左脇に、蓋と箱を抱えてた。
「そうだけど」
受け取ろうとしたら、右手も引かれたし、左手の箱はそこらへんに投げられた。
「一応そっちも捨てないでね」
周りの子たちにお願いする。なんか、金色で、すんごい音したから……もしかして純金なんじゃないかと思う。これ自体が超高価な貢ぎ物だよ。
右手の書簡も、ショウ・キさんは私に渡さずに、近くの、サナくんに渡した。
「ハルには持てん」
サナくんも、両手で抱えて赤くなり始めてる。
大事なものは重たくするって、今の日本も同じだけど、昔もそうだよね。多分、巻物の芯に純金でも使ってるんじゃないかな。
「あいつら、なんかでっかいもの持ってた」
「あの人達の食べ物じゃないかな。これ、私が先に読んでもいいと思う?」
「聞くな」
だね。ショウ・キさんに分かる訳無いよね。
「じゃ、ル・マちゃんに聞くよ。私とル・マちゃんの部屋にあるからね」
「わかった」
サナくんが、ひぃひぃいいながら階段を駆け上がっていく。重たいのが短い方がいいからって走れるの凄い。
部屋に戻ったら、ル・マちゃんがベッドに横たえられてた。温石と離れてたので、ごろごろ転がしておなかの辺りに置くと、くるんと温石に抱きついて丸くなる。
「……ぁあ…………ハル…………」
「がんばったね、ル・マちゃん。凄かったよ……」
「……ハハ………………父上がバカにされるわけにはいかないからな……」
ああ、そういうモチベーションなんだ? そりゃ『恫喝する』よね。
車李がどれだけ文化的なのかはわからないけど、蛮族扱いされても、キラ・シは痛くもかゆくも無いだろうから、怖がってもらう方がいいよね。
サナ君が、私が腰掛けたベッドに書簡を置いて、広げてくれた。でも逆さだ。だよね、絵の方が大事なのかと思うよね。しかし綺麗な刺繍だな。金糸銀糸でこれは……
「砂漠の風景なのかな? このお城が車李城なのかな…………でっっっかいね!」
紫禁城みたいに四角い大きな壁の中に、ヨーロッパのお城みたいな尖塔がたくさん有る。全体が金色。黄色いのかな? 砂色なのかな?壁の外側は多分、空堀かな。壁の真中にあるアーチの門から跳ね橋がかかってて、そこに人が往来してるっぽい。
城門を入っているっぽい人の列が米粒みたい。
お城の左右は、延々と砂漠かな? 砂丘かな? 黄色い波みたいになってる。
人の大きさからすると、壁の高さは10メートルぐらい? 尖塔はその三倍ぐらい有る。この時代にこんな高い建物が建てられるんだ?
この羅季城も、高さだけで言うと、それぐらいはあると思うけど、岸壁の高さだから、『建てた』ものじゃないしなぁ。
ああそうか、この尖塔も、ここにあった岩山を削った可能性があるんだわ。車李は千年の都だから、削る時間はある。カッパドキアみたいに、奇岩がポツポツあったところに都を作って、尖塔を削りだしたのかもしれない。
「こないだの兵士の人、まだいるかな?」
車李の様子を聞きたかったけど、もういなかった。
どうせなので、使者の人に聞いてみた。
お城の外で、ショウ・キさんにその書簡を持ってもらって、大臣に聞いてみる。往来するキラ・シとかに追いやられたらしく、崩れた城壁の側の地べたに一列になって、ずらっといる。邪魔だなぁ。
いや、私はここらへん通らないからいいけど、なんか、見た目が……
あ、あっちの方に天幕作ってるっぽい。交代で休むみたい。それは安心。
「うちの国王が城を壊したのってどこらへんで、どれぐらい」
ガリさん、国王でいいよね。
大臣が、あきらかに正門だろう所の上の彫像を指した。指、震えてる震えてる。
そのあと、城門前に指を動かす。
「ここにこう…………六千の兵士が布陣していたところに、ツノの生えた馬が出てきて……部隊に突っ込んできて、みなが一瞬避けたところで、人が乗ってると思ったら剣を振って…………3000人ぐらいが一瞬で千切れて落ちました……そのあと、この彫像が、スパン、と斜めに切れて落ちたのです! ああ……恐ろしやっ! あなたの国王は術使いなのですかっ? なんということだったのでしょうか……っ……なぜ一振りで三千人も殺せるのですっ!」
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