3000人……
こんな文化的な人の口から『3000人』って出たら、信じるしかない。
そっか……戦っててばらけてるんじゃなく、布陣してたから、ガリさんの剣風が届く中にそれだけいたんだ?
この羅季(らき)城の前での戦闘は、ここが高台だから向こうに向かって下がってるし、木が一杯だから、人口密度はそんなじゃなかったんだよね。しかも、この絵で見ても、車李(しゃき)王城の門は外側に向かって下り坂になってる。お城が丘の上にあるんだ。布陣して上にいられるようになってるんだろう。それが、裏目に出たんだね。
私の学校がマンモス校で、30人学級で一学年8クラス。三学年で24クラス。それで600人ちょっと。全校朝礼で、アレぐらいだった。三千人ってあれの5倍っ! 校庭は完全に埋まるな……
その校庭全部に、剣風が届いたってこと?
コワッ!
チートもチートすぎるっ!
普通なら、上に切り上げるから、後ろの方ほどかするだけになるのに、後ろが高台だから、全部に剣風が届いたあとで、まだ先にあった彫像まで陥としたんだ?
つまり、水平に振り切ることができたら、延々とあっちまで届くんじゃない?
車李王城がこうなってるってことは『坂の上が兵法上、有利』とどこも考えてるかもしれない。なら、一番下からガリさんが切り上げたら、一番効率がいいじゃないっ! しかも、高台に誘導すれば、敵は嬉しがって高いところに布陣してくれる。
多分、橋にいた5000も、そんなふうに一気にやられて逃げたんだろうな。そういえば、あの橋も、橋が一番低くて向こうが高かった。だから、一気に全部死体が見えてげんなりしたんだもん……
次の一万と二万も、一振りで三千人殺されたら、三回で一万消えるし、二万だってすぐだもんね。そりゃ逃げるわ。しかも、他のキラ・シの人達もそれぞれに強いんだよね? なんだこのチート部族。
ガリさんのチート、ゲームとか漫画でも見たことないわ。
そんなチートあったら、つまんないじゃんレベルだよね。連発できないとかないのかな? 発動に弱点ないと卑怯だよね。
『キラ・シの族長に求められる『力』は、『敵を殺す』力だ。一人でも多く、早く、敵を殺す力だ』
間違いなく、ガリさんが族長だ。
そりゃ、多少口下手だろうが、横暴だろうが、説明が足りなかろうが、文句言えないわ。
「うちの国王、凄いでしょ?」
大臣ににっこり笑ってあげたら、泣きながら頷いて、うずくまってしまった。ゴメン、脅すつもりで言った。
ハムスターが丸まってるみたいで超かわいいっ! この大臣さん自体は、細面というか、キツネ顔というか、アフリカオオコノハズクが敵をみて、シュッと細くなった感じの顔なんだよね。でも服が、ふわっとして丸いシルエットで金色で、同じ色の丸い帽子かぶってるから、土下座されるとゴールデンハムスターに見える。
ついでにその絵から見える車李(しゃき)のお城のこと色々聞いた。
このたくさんある尖塔が車李の自慢らしい。だよね。こんな高い塔、この時代だとオーパーツすれすれだよね。やっぱり、岩を切り出したらしい。
「雅音帑(がねど)王はいつもこの、一番高い塔のてっぺんで過ごしてらっしゃいます……詐為河(さいこう)までは見えませぬが、ナガシュの城さえ見える高さでございますよ」
それは言っちゃいけないんじゃない?
ガリさんがお城の外からそこを『山ざらい』したら死ぬよ?
書庫で読んでて疑問のことも、全部答えてくれた!
本当に大臣かもしれない。というか、書記以上の人ではあるよね。100人殺されても大丈夫ってレベルの格下の人ではないと思う。
というか……同盟、本気だよね……これは。
部屋に戻るとル・マちゃんが、温石を抱えてベッドを転がってた。
「ハルっ! どこ行ってた!」
ちょっと元気になったのかな。痛いのが収まると、退屈が出てくるんだよね。
「それより先に、ル・マちゃん、同盟ってナニカ知ってたの?」
彼女は、ぱちくりと瞬きをして、左右に小首を傾げた。
「知らない」
凄い。わからないことがあっても脅せるの凄い。
「友達になりましょう、ってことだよ」
「……そんな気は、した…………山でも、隣の部族があんな風に来たから」
ああそっか!
キラ・シが一番強いから、山でも土下座されてたんだ? 土下座され慣れ? 凄いなキラ・シ。本当に、山で一番強かったんだ?
「書簡、読み上げるよ?」
「ショカン?」
「……友達になりましょうっていうための挨拶と、条件」
「ぁあ……」
とりあえず読み上げて、要点をまとめて見たけど、ル・マちゃんに反応ナシ。
「父上待ちだ」
「そうだね」
ル・マちゃん寝ちゃった。相変わらず髪綺麗だな。サラサラ。
今日あったことをノートにまとめておく。
ガリさんが『山ざらい』で3000人殺した……あ、ル・マちゃんに報告忘れてた。私があまりにビクン、としたからか、すぐル・マちゃん起きた。
「そうだっ、ル・マちゃんっ! 車李の大臣とお話ししてんだけどさ。ちょっと凄いよっ! ガリさんが、『山ざらい』で3000人殺したって!」
「えっ! 凄いっ!」
パチッ、て目があいたル・マちゃん。
二人でワーイっ! ってしたあと、「さんぜんにんってどれぐらい?」って聞かれた……
そっか、キラ・シでも200人だもんな。
そうだよね。キラ・シって七クラス分なんだよね。それで『一国』って少ない! バチカン市国でももっといる! いや、バチカン市国はめっちゃ人多いから、ここで例に出すのが場違いか。
「キラ・シが今200人だよね」
「うん」
「それが10倍で2000人」
「その倍でよん……センニン?」
「そうそう。三千人はその間。キラ・シの戦士、15部族分」
「15っ! 山がほとんどからっぽになるぞっ! 200人もいる部族、そんなないんだぞっ! キラ・シは最強だから最大なんだ! 戦士の数すごいんだぞっ!」
戦士が200人で最大……私の住んでた街でもそれ以上いるよね……降りてきたキラ・シは、子供含めて300人ぐらいだし。これで全部なら。
「このね、書簡の裏が、ほら、車李のお城の絵なんだよっ!」
「エってなに?」
そこ?
「絵……って………………見たものを、こういうふうに写し取る技術」
「ギジュツ?」
「方法」
「ふーん…………」
そっか『絵』自体知らないなら、この王城がどういうものかわからないんじゃない? これ、織物でここまでできるの凄いと思うけど、『現代』から見ると抽象画にも見える。
ル・マちゃんは『大きなお城』自体がどんなのかわからないから、ここから建物を想像できないみたい。
ノートに鉛筆で、書簡の車李城を描き写したら、ル・マちゃんが突然叫んだ。
「えっ! ハルっ! これかっ? これを何ソレっ! 同じのになってるっ! なんでっ!」
もしかしてキラ・シには、筆とかが無い?
字が無いなら、全部絵でやってたのかと思ったけど、『記す』技術が無い? の?
私、創作はできないけど、説明図はうまいよ。ペーパークラフトととか自分で型紙から作るから。
というか、ここで驚かれると思ってなかったから、先に進めない……
「どうされました、ル・マ様。どこか酷く痛まれました?」
ル・マちゃんの大声に、マキメイさんが来てくれた。
「見ろっマキメイ! ハルがなんかしたらこうなったっ!」
「あら……これは…………ハルナ様、絵も描かれるのでございますかっ! 素晴らしいですね。これを写されるのでしたら、道具を御用意いたしましょうっ!」
止めるヒマもあらばこそ、だった。
マキメイさん達も、仕事は忙しいけど、娯楽が欲しいんだよね。
そういえばこの時代って『絵が描ける』って凄い高等技術だったったけ?
『現代』でもそうだけど、日本人は結構絵が描ける人が多いから凄いと思ってなかった。って言ったら母さんに「そんな簡単にパパッと描ける人はそういないわよ。ハルナ、昔からそういうの好きだったしうまかったから」って言われたな。学校にいけば漫研とか美術部とかで、もっとうまい人が山ほどいたから、母の欲目だと思ってた。
筆と絵の具と……女官さんとキラ・シがわんさと部屋に詰まった。暇人どもめ…………
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