【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。52 ~チート部族~

 

 

3000人……

 こんな文化的な人の口から『3000人』って出たら、信じるしかない。

 そっか……戦っててばらけてるんじゃなく、布陣してたから、ガリさんの剣風が届く中にそれだけいたんだ?

 この羅季(らき)城の前での戦闘は、ここが高台だから向こうに向かって下がってるし、木が一杯だから、人口密度はそんなじゃなかったんだよね。しかも、この絵で見ても、車李(しゃき)王城の門は外側に向かって下り坂になってる。お城が丘の上にあるんだ。布陣して上にいられるようになってるんだろう。それが、裏目に出たんだね。

 私の学校がマンモス校で、30人学級で一学年8クラス。三学年で24クラス。それで600人ちょっと。全校朝礼で、アレぐらいだった。三千人ってあれの5倍っ! 校庭は完全に埋まるな……

 その校庭全部に、剣風が届いたってこと?

 コワッ!

 チートもチートすぎるっ!

 普通なら、上に切り上げるから、後ろの方ほどかするだけになるのに、後ろが高台だから、全部に剣風が届いたあとで、まだ先にあった彫像まで陥としたんだ?

 つまり、水平に振り切ることができたら、延々とあっちまで届くんじゃない?

 車李王城がこうなってるってことは『坂の上が兵法上、有利』とどこも考えてるかもしれない。なら、一番下からガリさんが切り上げたら、一番効率がいいじゃないっ! しかも、高台に誘導すれば、敵は嬉しがって高いところに布陣してくれる。

 多分、橋にいた5000も、そんなふうに一気にやられて逃げたんだろうな。そういえば、あの橋も、橋が一番低くて向こうが高かった。だから、一気に全部死体が見えてげんなりしたんだもん……

 次の一万と二万も、一振りで三千人殺されたら、三回で一万消えるし、二万だってすぐだもんね。そりゃ逃げるわ。しかも、他のキラ・シの人達もそれぞれに強いんだよね? なんだこのチート部族。

 ガリさんのチート、ゲームとか漫画でも見たことないわ。

 そんなチートあったら、つまんないじゃんレベルだよね。連発できないとかないのかな? 発動に弱点ないと卑怯だよね。

『キラ・シの族長に求められる『力』は、『敵を殺す』力だ。一人でも多く、早く、敵を殺す力だ』

 間違いなく、ガリさんが族長だ。

 そりゃ、多少口下手だろうが、横暴だろうが、説明が足りなかろうが、文句言えないわ。

「うちの国王、凄いでしょ?」

 大臣ににっこり笑ってあげたら、泣きながら頷いて、うずくまってしまった。ゴメン、脅すつもりで言った。

 ハムスターが丸まってるみたいで超かわいいっ! この大臣さん自体は、細面というか、キツネ顔というか、アフリカオオコノハズクが敵をみて、シュッと細くなった感じの顔なんだよね。でも服が、ふわっとして丸いシルエットで金色で、同じ色の丸い帽子かぶってるから、土下座されるとゴールデンハムスターに見える。

 ついでにその絵から見える車李(しゃき)のお城のこと色々聞いた。

 このたくさんある尖塔が車李の自慢らしい。だよね。こんな高い塔、この時代だとオーパーツすれすれだよね。やっぱり、岩を切り出したらしい。

「雅音帑(がねど)王はいつもこの、一番高い塔のてっぺんで過ごしてらっしゃいます……詐為河(さいこう)までは見えませぬが、ナガシュの城さえ見える高さでございますよ」

 それは言っちゃいけないんじゃない?

 ガリさんがお城の外からそこを『山ざらい』したら死ぬよ?

 書庫で読んでて疑問のことも、全部答えてくれた!

 本当に大臣かもしれない。というか、書記以上の人ではあるよね。100人殺されても大丈夫ってレベルの格下の人ではないと思う。

 というか……同盟、本気だよね……これは。

 部屋に戻るとル・マちゃんが、温石を抱えてベッドを転がってた。

「ハルっ! どこ行ってた!」

 ちょっと元気になったのかな。痛いのが収まると、退屈が出てくるんだよね。

「それより先に、ル・マちゃん、同盟ってナニカ知ってたの?」

 彼女は、ぱちくりと瞬きをして、左右に小首を傾げた。

「知らない」

 凄い。わからないことがあっても脅せるの凄い。

「友達になりましょう、ってことだよ」

「……そんな気は、した…………山でも、隣の部族があんな風に来たから」

 ああそっか!

 キラ・シが一番強いから、山でも土下座されてたんだ? 土下座され慣れ? 凄いなキラ・シ。本当に、山で一番強かったんだ?

「書簡、読み上げるよ?」

「ショカン?」

「……友達になりましょうっていうための挨拶と、条件」

「ぁあ……」

 とりあえず読み上げて、要点をまとめて見たけど、ル・マちゃんに反応ナシ。

「父上待ちだ」

「そうだね」

 ル・マちゃん寝ちゃった。相変わらず髪綺麗だな。サラサラ。

 今日あったことをノートにまとめておく。

 ガリさんが『山ざらい』で3000人殺した……あ、ル・マちゃんに報告忘れてた。私があまりにビクン、としたからか、すぐル・マちゃん起きた。

「そうだっ、ル・マちゃんっ! 車李の大臣とお話ししてんだけどさ。ちょっと凄いよっ! ガリさんが、『山ざらい』で3000人殺したって!」

「えっ! 凄いっ!」

 パチッ、て目があいたル・マちゃん。

 二人でワーイっ! ってしたあと、「さんぜんにんってどれぐらい?」って聞かれた……

 そっか、キラ・シでも200人だもんな。

 そうだよね。キラ・シって七クラス分なんだよね。それで『一国』って少ない! バチカン市国でももっといる! いや、バチカン市国はめっちゃ人多いから、ここで例に出すのが場違いか。

「キラ・シが今200人だよね」

「うん」

「それが10倍で2000人」

「その倍でよん……センニン?」

「そうそう。三千人はその間。キラ・シの戦士、15部族分」

「15っ! 山がほとんどからっぽになるぞっ! 200人もいる部族、そんなないんだぞっ! キラ・シは最強だから最大なんだ! 戦士の数すごいんだぞっ!」

 戦士が200人で最大……私の住んでた街でもそれ以上いるよね……降りてきたキラ・シは、子供含めて300人ぐらいだし。これで全部なら。

「このね、書簡の裏が、ほら、車李のお城の絵なんだよっ!」

「エってなに?」

 そこ?

「絵……って………………見たものを、こういうふうに写し取る技術」

「ギジュツ?」

「方法」

「ふーん…………」

 そっか『絵』自体知らないなら、この王城がどういうものかわからないんじゃない? これ、織物でここまでできるの凄いと思うけど、『現代』から見ると抽象画にも見える。

 ル・マちゃんは『大きなお城』自体がどんなのかわからないから、ここから建物を想像できないみたい。

 ノートに鉛筆で、書簡の車李城を描き写したら、ル・マちゃんが突然叫んだ。

「えっ! ハルっ! これかっ? これを何ソレっ! 同じのになってるっ! なんでっ!」

 もしかしてキラ・シには、筆とかが無い?

 字が無いなら、全部絵でやってたのかと思ったけど、『記す』技術が無い? の?

 私、創作はできないけど、説明図はうまいよ。ペーパークラフトととか自分で型紙から作るから。

 というか、ここで驚かれると思ってなかったから、先に進めない……

「どうされました、ル・マ様。どこか酷く痛まれました?」

 ル・マちゃんの大声に、マキメイさんが来てくれた。

「見ろっマキメイ! ハルがなんかしたらこうなったっ!」

「あら……これは…………ハルナ様、絵も描かれるのでございますかっ! 素晴らしいですね。これを写されるのでしたら、道具を御用意いたしましょうっ!」

 止めるヒマもあらばこそ、だった。

 マキメイさん達も、仕事は忙しいけど、娯楽が欲しいんだよね。

 そういえばこの時代って『絵が描ける』って凄い高等技術だったったけ?

『現代』でもそうだけど、日本人は結構絵が描ける人が多いから凄いと思ってなかった。って言ったら母さんに「そんな簡単にパパッと描ける人はそういないわよ。ハルナ、昔からそういうの好きだったしうまかったから」って言われたな。学校にいけば漫研とか美術部とかで、もっとうまい人が山ほどいたから、母の欲目だと思ってた。

 筆と絵の具と……女官さんとキラ・シがわんさと部屋に詰まった。暇人どもめ…………

 

 

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