【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。54 ~僣越~

 

 

 

 

  

 

 ああもう最低っ!

『キラ・シの先を、お前にゆだねる気はない』

 ガリさんに……あんなこと、言われてしまった…………

 もちろんだよもちろんだよっ、そんなこと、私もゆだねられる気はないよっ!

 でも、たしかに僣越だった。言いすぎた。

 あの大臣さんがイい人だったから、気を抜いてしまったんだ。

 お風呂に駆け込んで、あっっつい所にうずくまる。

 43度。我慢ぎりぎり。

 あー、こういう時にお酒でも飲んで寝てしまったら楽だろうなぁ……お酒飲んだことないけど。

 もう、自分がイヤになる!

 久々に、最大の自己嫌悪だ!

「ハル!」

 お風呂場に、リョウさんが歩いてきた。さっきの、近衛の鎧を着たまま。あついでしょ、それ。

「リョウさん……? どうしてここに?」

「通詞を頼む」

 なんで?

「私が、あそこにいていいの?」

 てくてくと、お風呂の淵をこっちがわに歩いてくるリョウさん。

「ガリのあれは、ハルを追い出す意味はなかった」

「え?」

「ハルが立て続けにまくしたてたから、言葉が見つからなかっただけだ」

「そうなの? でも、私も、凄い、失礼なこと言ってたよ?」

「失礼? ……ああ、ハルのいつもの気にしすぎだ。

 そんなもの、キラ・シでは誰も気にしない」

 …………そうですか……

「逆に、ハルは何が失礼だと思った?」

「え? ガリさんが族長なのに、あんなこと言っていい人じゃなかった、とか」

「構わん。族長は最終決定を持つだけで、戦士たちはみな同じだ。強さで順列があるだけで、言葉に順列は無い。好きなことを言え。ガリが都合の良いところだけ取り上げる」

 なぜそんな民主主義?

 ああ、違うわ。そうか、キラ・シって社会主義なんだ。

 小さな村だからこそ成立するんだけど、食料を分け合うとか、対等とか、そういうことか! どうみても『自分の財産』なんて、ないし……

 普通は、『自分がしなくてもいいか』で駄目になる社会主義だけど、キラ・シは『自分がしなければ殺される』があるから、うまい具合に働いてるんだ?

 強さで順位はつくけど、みんな平等なんだ?

 そっか!

「私も、ガリさんと対等なの?」

「ル・マも対等だぞ? ならば、ハルも対等だ」

「私、キラ・シで産まれた女じゃないよ?」

「だが、四位だぞ?」

 ん? って、お風呂の端にかがんで私に笑顔を向けてくれるリョウさん。

 キスしたい。

 と思ったけど、マキメイさんのいる側に走った。リョウさんがまた、てくてく歩いてくる。全然焦った様子は無い。

「じゃあ、早く出ないといけないよねっ! ゴメン、お風呂なんて入って!」

「えっ? ハルナ様、また外に戻られるのですかっ!」

 マキメイさんが毛皮でグルグル巻きにしてくれた。髪が濡れてるから、一杯絹で巻いて、ベールに王冠乗せられた。いやいや、王冠いらないでしょ。

「まっかだな」

 リョウさんが、ほかほかしてる私の頬を指先でちゅるっと触る。

「ごめんなさい……凄い時間とってもらっちゃって」

「ガリは待たせておけばいい。その方が、使者への脅しにもなる」

 ホントにあいつは口が足りん! と、リョウさんはぷりぷり怒ってた。私じゃなく、ガリさんに?

「ガリにな、早口でまくし立てるな」

 リョウさんがため息。

「喋るときは喋るが、俺ほど喋るわけじゃない。

 一度にたくさんのことを言われただけで、話を聞いていない。

 面倒臭いから『やめろ』という感じの言葉しか吐かなくなる。だが、面倒くさいだけで拒絶ではない」

「うるさい、って言われただけ、ってこと?」

「そうだ。

 黙れ、ではない」

 キャンキャンわめくな、ってこと? たしかにさっき、がーっとまくし立てちゃった。

「『音』が邪魔だっただけだ。ハルの言葉、には反応していない。案の定、呼び戻せ、と言ってきた」

 ぷりぷり怒ってるリョウさんがかわいい。

 そっか。キラ・シって全員が男の人だから、みんな声低いし、声の高い子供とかル・マちゃんはガリさんに立て続けになんか言ったりしないよね。たしかに、私みたいな声の高さで、ギャンギャン言われることにはなれてないんだ。そっか……

 ゆっくり喋ろう。

「気をつけます」

 肩を抱かれて、頭をぽんぽんされた。

「覚えているだろう? ガリが、ハルの子を欲しい、と言ったのを」

 ホカホカが消えた……

「ガリは、サル・シュに似ていると言うが、まったく違うところがある。

 誰を嫌う、ということがない。

 ガリを罵って引き止めた長老すら、いまだ敬っている。

 外見も、気迫もだだもれで勘違いされるが、ガリはただ、まっすぐに進むしかできないお人好しだ。悪意で言葉を発することはない。

 キラ・シに害悪を成さぬモノに牙は剥かない。

 ハルがキラ・シのためにナニカ言っていることはわかっているが、頭がおいつかんのだ。

 ガリが、ハルを嫌うことは、無い」

 本当に? 信じちゃうよ?

「……ゆっくりしゃべるように、してみる」

 私、けっこうとろいんだけどな……こっちに来て、性格が荒っぽくなった……って、言ったら多分、父さんが、お前は昔からガサツだったよ、って…………

 ああ……久しぶりに思い出した……

 熊さんに抱きついて、その胸で涙を拭く。

「リョウさんが、謝って回ってる姿が、目に浮かぶわ……」

「……まぁ、それも同じ日に生まれた役目だな。ガリは、俺の半身だ」

 しょうがないな、というように俯いて笑う。エントランスの向こうにいるだろうガリさんを見るリョウさん。

 いい副族長さんだ。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 私が玄関から出たら、マキメイさん達が、私に風が吹きつけないように衝立で覆ってくれる。どこのお姫様よ私!

 けっこうもう、熱いんですけど……43度に浸かってたから……

 リョウさんの馬に乗ってエントランスを出て、ガリさんの馬に並んで、ガリさんの馬の後ろに私を乗せた。

 なぜにっ!

 リョウさんが少し下がって、横座りした私の膝をそっと押さえてくれる。

「使者に聞こえないよう、ガリにだけ通詞しろ」

 ああ、そう、そういう意味?

 ガリさんの左にリョウさん、右に……サル・シュくんが……向こうから走ってきて、ちょっと後ろでUターンして、並んだ。

 うっわ……こんなん、真正面から見たら怖いだろうな……

 既に震え上がってる大臣さんたちが寒風の中で、またというか、もっと穴を掘りそうなほど土下座した。

  

 

  

 

 

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