【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。56 ~戦車か兵車の時代~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「『まっすぐに出す』ことはまったく考えていなかった。

『山ざらい』を水平に、だな。鍛練しておこう。敵の並びに合わせるのだな。そうか…………そうか……………っ! 水平に振れば、どこまで届くか、……っ!」

 抱きしめられた。

 ガリさんに。

「やはりお前は、いい女だ、ハル」

 ガリさんの左肘に座るみたいに抱き上げられて、階段へと歩かれてしまった。リョウさんっ!

 そのまま行け、って感じでリョウさんが掌を上げて振る。

 その向こうにル・マちゃん。ベッドに起き上がってた。まるで豹が伸びをしたみたい。うにゅーっ、てあくびしてから、コッチ見る。

「父上っ!」

 抱きついてきたル・マちゃんが、ガリさんの右腕に座った。

 ガリさん、凄い上機嫌で階段降りてく。後ろをリョウさんがついてくる。いやちょっとまって…………なんでガリさんが私だっこしてんの???

 玄関ホールに行ったらみんないた。寿司詰め。

 サル・シュくんが折ってしまった地図の板を、羅季(らき)の男の人達が、添え木を当ててまっすぐ壁に立てかけてくれていた。これをしてくれると思って折ったんじゃないよね? サル・シュくん。

 本当に、行き当たりばったりで動くけど、誰かが帳尻合わせてくれるっていう、いい役回りだわ。しかも既に、羅季と車李(しゃき)と河とか、サル・シュくんが説明して、オオーって言われて、ドヤ顔してる。超嬉しそう。あそこで全部話してたら、サル・シュくんが全部やってくれそうだったのに……

 とりあえず私が、そこにいたキラ・シ全員を前に、大陸の講義開始。

 男の人達が、自分が行った村を指さすから、そこにバッテンで書き込んでいく。名前言われるから、カタカナで書いてった。やっぱり、自分が制圧した村は自分の名前をつけるんだね。でも、二つ三つ名前のある村も出た。多分、ここに、それぞれ自分の女の人がいるってことなんだろうな……こんな数、よく覚えてるね。

 大きな村なのか、十人以上名前書かなきゃいけなくなったから、これは書き込んでられないので、付箋方式にしないと間に合わないから、いったん、書き込んでもらうのやめた。村の位置と、最初に行った人の名前だけ、書き込んでいく。

「ねぇリョウさん、これ、みんな自分の名前を村につけたがってるみたいに見えるけど、つけたほうがいい?」

「そう……だな。自分の女がいる村を優先的に見回るが、その分、戦士がまだ手をつけていないところに行きたい奴もいるだろうし、名前がつくと分かりやすいな」

 やっぱり付箋か…………

 でも、一つの村に対してのスペースは五センチ角もないんだよね……

 この世界で付箋ってどうしたらいいだろう? しかもこのスペースに……

「ちょっと考えておくから、自分で書き込まないでね」

「カコマナイデって、何していいかもわかんねーよ、こんなの」

 サル・シュくんが笑ってる。

 けど、サル・シュくんは私のを見て筆の使い方を覚えたらしく、私が見てる間に、みんなが言う場所にバッテンを書き込んでいく。握り箸みたいな持ち方してるけど、用は足してた。

「とりあえず、いいの? こんな大雑把に書き込んじゃって?」

「正しい位置だぞ」

「なんでわかるの?」

「行ったらわかる」

「なんで?」

 なんか地図を前に凄い騒いでいるみんなを置いて、リョウさんが私を部屋に連れ帰ってくれた。

「ナニが疑問だ?」

「どうして、村の位置が、地図に書き込めるの?」

「車李に行った者たちは、車李の位置と、羅季の位置を知ってる。そこから村の位置はわかる」

「ん? なんでわかるの?」

「…………何がわからん?」

「だって、計測してないよね?」

「ケイソク?」

「走った距離を覚えてるの?」

「だから、車李と羅季があればわかる」

「羅季だけ知ってる人はわからないってこと?」

「ラキとキシンとハマルが分かっていれば、河のコッチの位置もわかる」

「……え? それは、2カ所の地点が分かっていれば、3カ所目の場所がわかるってこと?」

「そうだ」

 これって三角測量? 数字を求めてるわけじゃないから違うか? なんか、なんか凄くない?

「山では、山の上から、三つ向こうの山を指さして、アソコ、と言う。その時の場所を三つ向こうの山で行く」

 ナニしれっと凄いこと言ってるの、この人っ!

「……キラ・シの全員ができる?」

「できないと死んでる」

 そっか…………位置把握できないと死ぬのか……

 キラ・シのチートさって、この『死ぬ』『滅びる』が裏にあるからこそなんだろうな。なんか本当に、命かけて自分の五感と体を鍛えてるよね。

 そう言えばさっき、あの地図を遠くから眺めてたガリさんが印象的だったな。

「……もしかして、あの地図見ただけで、みんな、全部覚えちゃった?」

「覚えた」

 断言! 凄いなぁ……あ、指笛してる。

「速いウチに全員に見せたいから呼び集めてるな」

「どうやって場所がわかるの?」

「月や日を見て、方角を決めて、そちらに走る」

「太陽もお月さまも、時間ごとに、季節ごとに位置違うじゃない?」

「……だが、わかる」

 すいませんでした。

『わかる』っ言われたら、もうどうしようもない。

 キラ・シの頭の中には3Dコンピューターでもあるの?

「ハルのように、ああなったらこうなるで動いているわけではないから、説明ができん。すまんな」

「謝ってもらうことじゃないよ! ただ、凄いなー……って、本当に驚いただけ。私の周りにそんな人いなかったから」

「そんなことをせずとも生きていけたのならば、良い部族だ」

「この大陸の人も、殆どできないと思うよ?」

「そうなのか? それは不便だろう」

「みんなキラ・シみたいに国を超えて走るわけじゃないから、……ああ、そうか。キラ・シって、常にあちこち走り回ってたから、方向感覚ないと、山に戻れないんだ?」

「そうだな。大陸の人間は馬に乗らないようだし、行ける距離が明らかに違うな……そうだ、ハル。車李の戦士が変なものに乗っていた。馬に丸いナニかをひかせて、それに戦士が乗っていた」

「戦車か兵車かな? こんなの?」

 車李が砂漠でエジプトっぽいから、エジプト戦車をノートに描いてみた。たしか、最初の覇魔流(はまる)と羅季(らき)の戦いでも、一つだけ戦車があったと思うんだけど、見てなかった? ああ、私も今思い出しただけで、すっかり忘れてたわ。

「これだ! 見たのか?」

「ここに来る前にね」

 テレビでだけど。

「なぜあんなことをする?」

「ここの人達は、馬に直接乗れないんだよ」

 そっか……戦車か兵車の時代か……そして、銅剣か…………馬に乗れて鉄剣持ってるキラ・シの圧勝じゃない。なにそれ。ただでさえ、人間的にキラ・シってチートなのに、装備とスキルもチートなの? これ、絶対私の夢の中のゲームだわ。

 リョウさんの目がまんまる。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 

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