「初産の間はじっとしてろ」
リョウさんは、そっとドアを閉めて出て行った。
足音が消えていく。
玄関のにぎやかさが階段にしみ上がってくる。
タッタッタッて軽い足音。ドガンッてドアが開く。
「おうっ! ハル! ……なんでここにいるんだ? リョウ・カ帰って来たのに」
相変わらず元気いーねー、ル・マちゃん。もう生理終わったみたい。
「初産の間はおとなしくしてろって」
「おーっ! やっぱり孕んでたかっ! やったなっ! 血の道来てないからそうじゃないかと思ってた!」
車李(しゃき)への招待を断ってたの、リョウさんじゃなく、ガリさんだったのに。まさか、ガリさんもそんな意味で断ってくれてたの?
「そっかー…………孕んだら、血の道来ないのかー……腹、痛くない?」
「全然痛くない」
「いいなー」
「……サル・シュくんの子を産んでみる?」
「父上以外やだ」
あ、サル・シュくんが来た、けど、戸口で固まってる。
「なんだル・マ。血の道終わったのか……」
溌剌とした彼女にそれを見て取る君も凄いよ、ほんと。
「残念だったなっ! さっさと女抱いて寝てろっ!」
あ、ル・マちゃん、毛布抱き込んであっち向いて転がったけど、サル・シュくんがカッチーンってなったよ。私はベッドの端に逃げる。
ファイッ! 心の中でゴングを鳴らしてみた。
「お前な……ル・……」
ベッドに手をついて、ル・マちゃんを抱え込もうとしたサル・シュくんの首元に、刀が、押しつけられた。
「いつでも押し倒せると思ってんじゃねーぞっ!」
ル・マちゃんが、ベッドで回転した勢いで刀抜いてる。
突然の殺伐。
にらみ合う美少女と美少年。そのままキスしたらハーレクインだけど、まぁ……実際には『北斗の拳』だよね。アタタタタタッ……ってこないだリバイバル見た。
「戦から帰って来た男に言う言葉は?」
サル・シュくん、喉元に刀めり込ませながら、そんなこと言う。
「……勝ったか……」
「おう」
「………………お帰りなさい……」
「んっ!」
笑顔。天使の笑顔のサル・シュくん。かっこいい……ぎりぎり触れる、ル・マちゃんの鼻の頭にキスして起き上がった。刀を押しつけられてた喉を少しさすって、イーッてル・マちゃんに歯を見せる。
「ル・マ。ハルを守れよ」
「当たり前だっ!」
サル・シュくんが、チュッ、てエアキスしてドアを閉めた。
あー……日常。
これでホッとするって、もう、私も毒されたな。
ル・マちゃんが、刀を枕元に抜き身のまま置いて、温石と私を抱き寄せ、私の胸に顔を埋めて、寝た。
相変わらず早いな、寝るの。
スイッチ切れるみたいに寝ちゃうの、気持ちいいだろうな。
『他の女を抱くたびに、お前だったらと……気が狂いそうになるっ!』
サル・シュくんの泣き声を思い出す。
あの『百石』自体は嘘だったけど、あの告白は嘘じゃないと、思う……
愛してるだの好きだの言わなくても、あんなに心って伝わるものなんだな……
『百石』でちょっとイライラしたけど、もういいや。無事で帰って来たんだし。
まっとうにいけば、サル・シュくんの願いがかなってくれたら、ル・マちゃんだって幸せになれると思うけど、ル・マちゃんは、ガリさんの子供を産まないといけないという使命感にあふれてる。
好きなのはサル・シュくんなんだよね?
かなりきわどいところまで許してるよね?
どう見たって、二人が一番いいカップルなのに……
どうしたらこの二人がもっと幸せになれるんだろう。
朝、目を開けたら美少女が目の前にいる幸福。なんてかわいい天使ちゃん。
もう太陽が明るいけど、随分早いみたい。ル・マちゃんに抱きつかれて動けないし、俯いてるし。ノートを引き寄せて、遊んでみた。
ゲームみたいに、この世界の人達にステータス振ってみる。
ここらへんの人の兵士のステータスが
- 体力 10
- 腕力 10
- 脚力 10
- 速さ 10
- スキル 戦士
としたら、キラ・シの平均ステータスは全部倍ぐらい。
- 体力 20
- 腕力 20
- 脚力 20
- 速さ 20
- スキル 戦士、キラ・シの戦士、絶倫、狩人
サル・シュくんが
- 体力 25
- 腕力 15
- 脚力 25
- 速さ 40
- スキル 戦士、キラ・シの戦士、キラ・シの上位戦士、絶倫、弓使い、狩人
- 特殊スキル 騎射、強弓使い、パルプンテ。『刀折り(威力1)』
リョウさんが
- 体力 35
- 腕力 35
- 脚力 35
- 速さ 15
- スキル 戦士、キラ・シの戦士、キラ・シの上位戦士、キラ・シの副族長、絶倫、弓使い、狩人、怪力
- 特殊スキル 騎射、『刀叩き(威力1)』。
ガリさんが
- 体力 30
- 腕力 25
- 脚力 25
- 速さ 30
- スキル 戦士、キラ・シの戦士、キラ・シの上位戦士、キラ・シの族長、絶倫、弓使い、狩人
- 特殊スキル 騎射、『山ざらい(威力 三千~∞)』。
やっぱり、ガリさん、チートすぎて卑怯。
貴重なノートにナニ書いてんだ私。
しかも、戦場見たの、羅季(らき)城での一戦だけだしね。
ル・マちゃん忘れてた。怒られる。
- 体力 15
- 腕力 15
- 脚力 20
- 速さ 50
- スキル 戦士、キラ・シの戦士、キラ・シの上位戦士、弓使い、狩人
速い! どうだろう? ここまで速いだろうか? 私にゲームセンスがないってことだけはわかった。あの、スキルとかかっこいい名前つけるの、凄いよね。
「ナニしてんだ? ハル」
「ぎゅっ……」
背中に乗られた。後頭部におっぱい。私が男の子なら、凄い幸せなんだろうな。サル・シュくんと場所を変わってあげたい。
「キラ・シの強さをまとめてみたの。ガリさんが強すぎて凄い」
「父上は強いぜっ! 世界一強いぜ!」
「多分そうだと思う。誰も勝てないよね」
この世界のヒーローだよね。
でも、ヒーローって『世界が悪いとき』に出てくるものだけど、この大陸って『悪い』んだろうか?
今のままだとキラ・シは簒奪者でしかない。
まぁ、でも、歴史なんてそんなもんだから、それが普通か。大体は『世の中をよくしたい』じゃなく『自分の領地を増やしたい』で戦争するんだもんね。
キラ・シだと、『女が欲しい』から山を降りたわけで、世界平和のタメに戦ってる訳じゃあ、ない。
ただ、『コマッテナイカ』が、一番先に覚えた羅季(らき)語ってだけで………ここに来たときに、問答無用で羅季軍と覇魔流(はまる)軍を惨殺したし、羅季と貴信(きしん)と覇魔流を一方的に攻撃して居すわってるし。
『ヒーロー』ではないわね。
あっ! 地図の付箋! 思い付いた!
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