「マキメイさんっ! 画板用意して! あと六枚ぐらい! それと、短冊状の布が欲しいの。いっぱいっ! リョウさんっリョウさんっ! 時間あったら来てくれる?」
玄関に作ってもらった一枚目の白紙の画板の前にリョウさんとたたずむ。
「この、全体地図のこの部分だけをこっちに大きく書きたいの。村の名前がわかるぐらいに。見てきたなら地形わかるんだよね? まず、どの部分の拡大図が欲しい? 細かい地形も書き込んでいけるよ」
「カクダイズ?」
「どこかの部分を大きく書き写した地図。
それでね、村の所に裏から釘を打ってね、女の人の数だけ白い短冊をつけるの。タンザクって、この、白い細長い布ね。
これに、子作りをした戦士の名前を書くの。その女性が子供を産んだら、また白い布を入れるの。そうしたら、確実に、孕んでない女性の所を新しい戦士がいけるから、ダブらなくていいよね? ……えっと…………二度手間にならなくていいよね」
リョウさんが、一瞬眉を寄せたけど、しばらくして頷いた。
「字が読めるなら、村の名前だけ一覧にしてコンパクトにまとめた方がいいけど、キラ・シなら、地図に直接タンザク吊るすのが分かりやすくていいと思うの」
「……村の把握をしなければならんのは、とりあえず、川向こうだな。こちらはみんな覚えた」
覚えたんだ?
「じゃあ、砂漠の下……というか、南。羅季(らき)から車李(しゃき)王城への街道の南側から描こうか?」
どのみち、羅季王城の位置は必要だから、羅季王城からサイコウまでを一枚目、サイコウの向こう側を二枚目、その向こうから車李王城までを三枚目とした。
羅季王城と車李王城と、サイコウを書いたら、リョウさんが指さすからそこに×印入れていく。
そして、その村の所に裏から釘を刺した。
「この村、女の人何人居た?」
「22人だな」
「じゃあ22枚。で、子作り誰がした?」
聞いた名前を日本語のカタカナで一枚に一人書いて、釘に指す。
「これで、このタンザクが白い枚数、女性が余ってるから、あと15人行っても大丈夫」
全部キラ・シが取る気かよっ! って私の頭の中で誰かが言ったけど、もういいよ。
「ああ……そういうことか!」
リョウさんが、ポカンと口を開けて、そののち、うむうむって頷いた。
「まず子供が欲しいなら、まだ孕んでない女の人が居るところに行けばいいよね。とにかく、数が欲しいんでしょ? 数が無いから車李が下せないんでしょ? 15年後に、一気に数万人、キラ・シの戦士が増えるように、効率的に回ろうっ! ダブってる場合じゃないんだよ」
「たしかに……今までは一人一人が覚えている分しかなかったからな……これで、一目で分かれば、無駄は無いな。他の戦士の女を取ることも減るし……」
やっぱり、ダブってた。
女の子の方も、倫理観がなかったら、次から次からやるもんね。誰かが当たればいい、って感じで。
「リョウさん、どう? このまま全村やる?」
「する」
「よしっ! じゃあ、ガンガン描いていこう! 丘とか山とか川とか泉とか、全部描き込んでいくよ。ここになにかあるけど何も書いてないってところを言ってね」
まず、村を、もう一度全部指さしてもらって、バッテン入れて、女性の数が分かるところは、タンザクを吊るしていく。
全大陸地図の中で、拡大した部分を四角で囲って、現代英語のアルファベットでAとかBとか書いて、カクダイズの方の左上にも該当するアルファベットを書く。元々字がないんだから、英語とかカタカナ覚えてもらえばいいんだよ! これで、私とキラ・シにだけわかる暗号にもなる!
羅季字みたいな漢文、書いてられるかっつーのっ!
鉛筆も作れるといいなぁ。作り方は分かってるけど、設計図書いて誰か、木工職人さんに頼んでみるか……というか、墨が先かな……
ようやく、拡大図三枚ができたところにレイ・カさんの部隊が帰って来た! もちろん、地図作製に参加。もう、大広間、地図でいっぱいっ! でも、ここが一番広い所だから仕方ない。
レイ・カさんが既に留枝(るし)の向こうまで行ってて、凄い数の拡大図が必要になった。
これを効率よく閲覧できて収納するにはどうすればいいか……ホワイトボードみたいにコマがついて動いてくれれば…………
台座をつけてコマをつけりゃいいんじゃないっ! 釘を出してるから、どのみち、釘の幅はいるんだから、それと同じぐらいの木枠をつけて、重ねて大広間の端っこに置いておけばいいんだ。丈夫にもなるし。一番こっちがわに全体図。そして、拡大図のアルファベットを、枠に書いておけば、引き出せる。
縦型引き出し式、滑車付き大型地図収納っ! ワオッ!
お城には、専属の木工職人さんがいるから、滑車と台座と作ってもらった。
英語教えるの面倒だから、拡大図に書くのもカタカナにしよう。『ア』『イ』『ウ』でいい。
あー……システム整っていくの気持ちいーっ!
まぁ、すぐ、拡大図は出しっぱなしになったけど、汎用性が高いのだけ出してりゃいいから、それはいい。しまうときはしまえるから。
ナニがイヤ、って、これを精査されたら、キラ・シの全体人数がわかる、ってことなんだよね。そのために、最初にこのお城を出たときに、残った人を殺して行ったんだから。それが一番の諜報なんだ。
この玄関には必ず誰かいるから、キラ・シ以外がこの地図を見ようとしたらやめさせて、って行っておけばいい。
地図に描き込みたいから、レイ・カさんもショウ・キさんも、よく帰って来てくれるようになった。もちろん、ガリさんも。
ガリさんったら、いきなり、一つの村のタンザクに自分の名前五つぐらい書く。本当に凄い数になるよ。そのうち、全部の人数数えてみよう。
他の人は、したからって産まれるわけじゃないみたいだけど、ガリさんはそこ自信持ってるみたいだから。
多分、孕み日の人を端から抱いてるはず。逆に言うと、ガリさんと一緒に行った他の戦士の子供は生まれないってことでもある。
どのみち、子供が生まれたら外していくから、その時に数えればいいよね。
その分進軍は少し遅れることになるけど……って言ったらリョウさんが『全体把握できることが先だから、それはいい』って言ってくれた。
「子供の管理はどうするの?」
「コドモのカンリ?」
「生まれた子、凄い数になるよ? 誰がどこにいるとか、どの村の子がどの戦士の子だとか、名前とか、年齢とか、どうするの?」
リョウさんが黙った。
そうだよね、考えてたわけないよね。
「そう……か…………そういうのが必要になるのか。今までは頭の中だけでしていたからな……」
「三人ならできるけどね」
「…………」
「子供のことって、どっちでまとめる? 村の名前? 戦士の名前? お母さんの情報も必要だよね?」
戦士か村で一つ帳面を作って書き込んでいくしかない。パソコンがあったら、エクセルにソートで一発だから、一列に全部書き込んでいけばいいけど、アナログだと、最初の『項目』の決め方で今後の便利さが変わっちゃう。こういうのがアナログのめんどいところだよね。
といっても、リョウさんにだって、どっちが重要かなんてわからないよね。初めてのことなんだし。
「取り急ぎ、八カ月後に、川のこっちで大量にキラ・シの赤ちゃん生まれるでしょ? 育てるのはお母さんたちに任せるよね?」
「……集めたらこのシロがあふれる」
「なら、村とお母さんの名前で管理する?」
試作帳面を幾つかリョウさんに見せた。
帛(はく 白い絹)をメモ代わりにするのもったいないと思ったけど、一冊しか無いノートをこんなことで使えない。でも、やっぱり帛はもったいない。でも竹簡みたいな細いものに書いてたらイライラする。なので、ノートぐらいの大きさの薄い木の板をたくさん作ってもらってる。どうせ、木工職人さん固定給で雇ってるんだから、お仕事たくさんしてもらおう。この時代、木は凄く安いみたい。私も、筆で書くの、巧くなったよ!
「ずっと子供を村に預けてるなら、村の名前が必要だよね。だから、国名、村の名前、女の人の名前、戦士の名前、コドモの名前の順で書いていくことになる。
万が一、子供を一カ所に集めるなら、戦士の名前、子供の名前、村の名前、女の人の名前、かな?
管理しないってのが、一番簡単だけど……」
別に、キラ・シは気にしないだろうから、『書き留める』ことがまず不要かもしれない。けど、いつまでたっても『全体像が把握』できなかったら、困るのはキラ・シなんだよね。 というか、私が気になる。
「戦士として育てなければならんから……早いウチに一カ所に集める」
「ああ……一番大変なときだけお母さんに任せるのね。そのあと、お母さんはどうするの? 村に残して二人目産んでもらうの? 戦士として育てるってどうやって?」
「……一緒に動けないか?」
「キラ・シの進軍に合わせて? つまりは、この羅季(らき)城も出ていくってこと?」
「あのチズからすれば、向こう側に行ってしまうと、ここまで戻ってくるのが大変だ」
「でも、どんどん子供生まれるよ? そのたび、村には戻るんだよね? 制圧した村を見回りもするんでしょ? なら、帰ってくるんだよね?」
またリョウさんが黙った。
最初の計画だと、川のこっちに降りてきてとどまるつもりだったって言ってたから、そりゃ、考えてないよね。でも、もう川向こうに行っちゃったからね。
「皇帝陛下押さえてるから、放置なんてしてくれないよ。車李(しゃき)が傭兵集めたら攻めてくるかもしれないし」
「あの金色の赤子か? あれがそんなに大事なのか?」
「うん。ガリさんが渡さないって言っちゃったから、キラ・シで育てるしかない」
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