「他の部族が滅びようが栄えようが、キラ・シが関わらなければ、キラ・シの人数に変わりは無いからな。
大体、戦争になって死ぬのは弱い奴だけじゃない。ガリやサル・シュのように、強いからこそ先頭を走る戦士が死にやすい。
今、ガリが死んだら、キラ・シはすぐに全滅する」
「だから、車李(しゃき)とも戦わないの?」
「それもある。大体、あの大きなシロを落としてもどうしようもない。あれは手に負えん。200人なんかで入ったら、剣を持っていない村人でも、迫ってこられたらくびり殺される人数がいる。忍んで入って、中で女を孕ませる方がいい」
「忍んでは入るんだ?」
「もう、随分入ってる。あの黒い布をかぶればばれないからな」
「キラ・シって肌の色とか違うけど、騒ぎにならないの?」
「元々が既にあそこは白と黒が混じってるから、いろんな肌色のやつがいる。顔に文様を描いてるのもキラ・シだけではないしな。キラ・シが一人で入れば、全然目立たんな」
「それ……子供産ませて、どうするの? みんな、覚えてる? 抱いた女の人がいる場所」
「それを覚えられなければ、キラ・シは滅びてる」
出た、『できなければ滅ぶ』法則。
「みんな、あの地図に必死に描き込んでるから、覚えてられないのかと思ってた」
「自分の女は覚えていても、他人の女は知らんからな。ショウ・キの女をとったら刎ねられると思えば、その村は行きたくないだろう」
「そっちの心配? そっか……」
「女の方も、『当たる』かどうかわからないから、来たキラ・シ全員に抱かれたがるのもいるようだ。もう、誰の女かもわからんのが村に何人もいるらしい」
そういう女の人、そりゃ何割かは居るよね。
「それに『まだ抱いてない女の数』も誰にもわからんからな。あれはハルにみんな感謝してるぞ」
「それは良かったけど……何才になったら一カ所に集めるの?」
「三歳ぐらいだな」
「三年後じゃない! どこに集めるの? 全部集めるとしたら、最低でも一万人は集まるんじゃないの? 教育がかりにも人数が必要だよ?」
「キョウイクガカリ?」
「子供を育てる人」
「親がする」
「キラ・シの戦士が付きっ切りで? 戦いはどうするの? 新しい制圧はどうするの? 一万人集めるってなったら、どこか一カ所になるんでしょ? そこから各地に制圧いくの、凄い時間かかるよ? それとも、今年制圧したら、来年からは子供育てるのにかかりっきりになって、制圧はあとまわしでいいの?」
「まず、来年の子が欲しい」
だよね。
「そのあとは、キラ・シ全員が守りに入ってもかまわんが……」
「守りに入ったら潰されるよね?」
「そうだな」
とにかく、キラ・シは200人しかいないからなぁ……
「最初の子供が生まれたら、もう、制圧も行ってられないよ? 三年後の話だから、まだ時間あるけど。一万人だよ? 翌年、二万人になるよ。多かったら、最初から四万人とか六万人になるんだよ? 村からその、育てる場所まで移動させるのも大変だよ」
六万人移送とか、現代でも大仕事だよ! 16両編成の列車何回往復したらいいって話になる。 マンモス小学校だって、8クラス50人としても、一学年400人、六年全部で、2400人だよ? マンモス小学校四校分が一年で産まれるんだよ? 下手したら、16校分かもしれない。
一年で16校分だよ? 二年で32校分だよ? 三年後には、50校分になる! とんでもない数!
15年後に60万人になる人間のことを、「数百人で『一部族』」の単位で考えてられないよ。
「今だと、馬車だから、乗れても、20人でしょ? 近くの村まで、戦士が一人一人馬で集めるとして、そこから育てる村まで、馬車で移動するとして、20人乗りの馬車だと、一万人だとしても、500回往復になるよ。一往復10日かかったら、それだけで5000日、十年以上かかるよ! 最悪、子供たちに自力で歩いてもらえたら、馬車往復は必要ないけど、何日かかるかわからないし、護衛の戦士も必要だし、その数の食料を持って動くのがまず大変」
リョウさんがくちびるを噛んで黙り込んだ。こういうときは喋らない方がいい。考えてるんだから。私も、ノートに書きつけて、備忘録。
「『国』がないと、無理じゃない?
あ、そういえば、生まれた子を『キラ・シの戦士』にするんじゃなきゃ、村に放置しておいてもいいんだよね?
ああそうだ、それじゃあ、キラ・シの戦士が増えないもんね。戦士を増やすために子供作ってるんだよね? 本末転倒だった……
こっちがわは、一気に制圧したんだから、同じ時期に子供が生まれる場合が多いよ? 羅季(らき)まで連れてくるのも大変だよ? 羅季ってこんな山ばっかりで、どこで数万人の子供育てる?
とりあえず、考えておこう」
「そうだな……考えておこう、早いウチに」
リョウさんの眉間にしわが寄りっぱなし。
「それで、次の族長さんの話だけど?」
「あ? …………ぁあ…………」
いったん頭切り換えた方がいいから、話戻した。こんな『数万人』の話、200人のキラ・シから解決策が簡単に出る訳無い。
「次の族長は、サル・シュかレイ・カだろうが、グア・アが黙っているかどうか」
「ガリさんの長男さん? 族長って、族長の長男が引き継ぐんじゃないの?」
「初雪が降った時の『勝ち上がり』の一位が族長になるか、族長の指名権がある。サル・シュは族長にはならんだろうから、レイ・カを指名するだろう」
「サル・シュくんはそうなんだ? やっぱり、族長になる気ないんだ? それは、聞いたの?」
「上位五位に入ったときに、それは確認する。そうでないと、戦で上が死んだときにすぐに困るからな」
「ああ……そうだね。五位が全員死ぬこともあるわけだし……」
「……そうでないことを祈るしかないな」
「ごめんなさいっ! 無頓着なこと言って!」
「本当のことだ。そういうのも考えてある。とにかく、生き残った上位が、族長を継ぐか、指名権がある」
キラ・シのありがたいところは、こういう口を滑らせたことを根に持たないことだわ。『現代』でこんなこと言ったら、末代まで後ろ指さされそう。でも、今の私の発言はうっかりすぎた。気を引き締めよう。
「グア・アさんは?」
「アレに上位は無理だ。サル・シュやレイ・カと同じ代だからな」
凄く渋い顔。
「……何が心配?」
「今でも、グア・アは『族長の長男だぞ』と他の戦士から女を取り上げてるらしい。ガリの息子でなければ、後ろから石で撃たれるだろうな」
「止めないの?」
「何回かはいさめたが……この『下』の奴らは『族長の子が族長』らしい。言葉が通じないのに、そう言うところだけは目ざとく見つけてくるんだ、アレは。ル・マも叩きのめしてるが」
ル・マちゃんが叩きのめしてるんだ? 容赦ないんだろうな。
「ん? ル・マちゃんの方がグア・アさんより上? 下?」
「一つ下だ。グア・ア、ル・マ、シル・アだからな。シル・アはル・マに逆らわないが、グア・アは殴り返す」
どこもきょうだいは一緒だな。そっか、ル・マちゃんは真ん中っ子の女の子なんだ?
「グア・アも、そんなところだけガリの血を引いたらしい」
「どこ?」
「物凄い女好きだ」
……納得、しちゃった……”
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