【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。63 ~ファンファーレ~

 

 

 

 

  

 

 相変わらず、直球しか投げない子。

 ゴムつけてるから大丈夫、って……言ってるのと同じだよね。なにが大丈夫なんだよ、っていうね。

「…………なんかもう……………………気持ちよすぎて、うんって言うしかなくて…………」

 サル・シュくん、テクニシャンだな……

「……俺…………サル・シュの子を、産みたい……」

 よっしゃーっ!

 私の中でファンファーレが鳴った!

 今すぐリョウさんに教えてあげたいぐらいっ、走り回りたい!

 ようやくル・マちゃんが、サル・シュくんを受け入れてくれたっ! 良かった!

「あいつの子が欲しい……」

「それが普通だよ、ル・マちゃん。好きな人の子が欲しいのが普通」

「父上も好きだけど………………サル・シュとは……違う……」

「うん、そうだよ。違うよ」

「ル・マーっ! すっごい甘いの見つけたっ!」

 サル・シュくんが、ドアを壊しそうな勢いで入ってきた。手にアンマンみたいの持ってる。

「はい、ハルの分」

「ありがとう。サル・シュくん。でも、全部ル・マちゃんに渡していいよ? 私、リョウさんからもらうから」

 あとは若い人達だけで……、と私は部屋を出た。

 上の方に部屋は空いてるから、私用の寝室をマキメイさんに整えて貰う。

「リョウ様と御一緒の部屋では駄目なのですか?」

 シーツを変えながら問われて、少しだけ胸が痛んだ。

 リョウさんには、いっぱい子供産んでもらわないといけないから。今も、ずっと部屋に女の人来てるし……

 だって、ガリさんが一日に十人も孕ませてるのに、リョウさんが私一人だけってダメじゃないっ!

「ハルー!」

 玄関からリョウさんが呼んでる。また戦士が帰って来たかな? 最近、地図の書き込みが凄い数になってて、文字が書けるの私だけだから忙しい。自分の名前を覚えてもらおうかな。でも、キラ・シの人達に筆が扱えるとは思えないのよね。リョウさんも、ずっと今、練習してるけど、タンザクの幅に描くのは今は無理。ギリギリ、枝で地面に自分の名前が書けるぐらい。日本語のカタカナ教えてるんだけどね。

 でも、たしかに、自分で書いてもらえば、私の手間は減るんだよね。

 学びたい人だけ学んでもらおう。

 サル・シュくんには『イヤ』って言われたから……

 もう、毎日毎日、地図に村がどんどん描き込まれていく。本当に凄い勢いで制圧してるな、キラ・シ。

 この制圧は『コマッテナイカ?』の制圧だから、流血は無いみたいだけど。『子供の移動』の問題は、拡大してる。

 どうする? この圧倒的大規模な地域でどんどん子供が生まれたら、どうする?

 今のうちに移動できたら、女の人の体力だけで移動できる……ん?

「リョウさんリョウさんっ!

 子供が生まれる前なら、女性が自分で移動してくれるよねっ!」

「それをして、このシロが女でいっぱいになった。今は連れてくるな、と押さえている。子供たちの狩りの鍛練にはいいが、そろそろ、動物も足りん」

「キラ・シ全員で動いたら『家』を作る心配がなくなるよ。今は羅季(らき)にいるから、家を作ろうとしてないけど、お城じゃないところに野営したら、ナニカ作るじゃない?

 その作ったものを置いて、何人かの女の人に住んでもらって、あとは女の人達に自分で家を作ってもらおう。川向こうなら暖かいというより暑いから、頑丈な家いらないし。

 いきなり一万人って考えるから、一万軒の家を考えなきゃいけなくなるんだよ。ついてくる人にその都度、家を作ってもらおう。

 最初のうちはキラ・シが援助しないといけないけど、何年かしたら、ハタケとか、ナニカで食べられるようになる。川向こうに広大な空き地があるよ。地平線が見える空き地だよ。誰も住んでないんだから、村を作っていいでしょ。あそこ車李(しゃき)の土地だから、車李に同盟の追加条件ねじ込んでしまおう。生きていけるようになったら税金払うから、って。

 それがいやなら、今すぐ車李を攻め落とせばいい。お城はどうでもいいから、キラ・シ全員が黒い布をかぶって車李の城内に入って、軍人だけ殺していけばいい。

 できるかできないかは別として、そうして、車李の王様を脅すことはできるよ。ガリさんが車李王城の前に立ってるだけでも脅しになる。

 ガリさんがいるウチに、基盤を整えてしまわないと、キラ・シが滅びちゃうっ!」

 車李みたいな大国、お金使ってあっというまに傭兵を揃えてしまうかもしれない。今でもヤバイ。

「この大陸の人達は『キラ・シ』を知らないから、『キラ・シ怖い』ってなってるの、車李軍だけだよ。

 向かってこられる手間は増えるけど、『キラ・シ強い』ってねじ込んだら、傭兵がキラ・シを相手にするのは嫌がってくれるかもしれない。

 名前を轟かせるにはお城を落とすのが一番だよね。

 どうする?

 おとなしく、小さな村を制圧して静かにしてる? 子供の居る場所を作るのが大変だよ。

 こっちがわで子供たち育てる? 山は近いし、畑もたくさんあるから、育てられることは育てられる」

「川向こうでは、既に悶着が出ている村がある。狩人の多い地域があるらしい。そこを避けようとすると向こうにいけない、ということで、レイ・カが人数を集めてる」

「レイ・カさん一人でやっつけちゃわないの?」

「レイ・カ一人で全員殺せそうだが、そうなれば辺り一体が戦になる。大体、まだ『出陣』ではないから、殺さないように回ってる」

「ガリさんが殺していい、って言ってない、ってこと?」

「そうだ。最初から、シロを落とすつもりはなかったからな」

「ああ、そっか。ここらへんに降りて、地道に人数増やす気だったんだもんね」

「そうだ。最初にこのシロで戦争をしていたから、それを蹴散らして、追い駆けて、ハマルまで行ってしまっただけだ」

『だけだ』がでかすぎる。まぁ、そのついでに皇帝陛下も殺したんだもんね。

「戦争になるから、車李も援軍を送ってたから、それを迎え撃って車李まで名前がしれちゃったんだもんね」

「……もう、忍ぶ限界には来ているだろうな」

「来年、一万人子供が生まれたら、忍ぶのなんのって話じゃないよね?」

「女が村に居るのならば、女が育てているだけだから、問題にはならん」

 そうかなー……でも、たしかに、歓迎されいてる状態で、狩人の子供が産まれるだけだから、問題にはならないの? そう?

「ただ、村に子供をのこしていては戦士にできないから、三年後にはまとめて育てる。そこで移動と場所と食料が大変、ということだな」

「ああ、そっか? 三年後でいいんだ?」

「そうだな。産まれてすぐは母親がいないとどうにもならん。二才までに刀を持たせても仕方がない。

 だが、ハルが言うように、今なら女一人の移動で済むが、三年後なら、子供の足になるし、そこに女がついてきたら二倍になる、という話だ。

 今のうちに、生活できるようにしておけば、そこで産まれてもどうにかなる。

 先にするかあとにするかだ」

「今でも三年後でも、キラ・シの戦士は200人だものね」

「そうだな」

 何人か、今の子供が成人するだろうけど、一割も増えない。サル・シュくんの長男だってまだ三歳だもの。

「三年後の、『まとめて育てる』だけは、変わらないんだよね?」

「ああ。それを外すと、15年後に戦士が揃わない」

「サル・シュくんとかル・マちゃんって、いつごろから強かったの?」

「あいつらは小さいころから強かったぞ」

「何才ぐらい?」

「4才で、弱い戦士には軽々勝っていた」

「四才!」

 早すぎる!

「じゃあ、ここで産まれた子供たちも、四才ぐらいで『自分たちを守る』ことはできるってこと?」

「…………サル・シュほど強ければ、だから……普通は、8才ぐらいにならないと無理だ」

「こっちの戦士って弱いから、キラ・シの子供でも殺せない?」

「今の子供ならな。山で、父親から直に鍛練されていたから、できるだろうが。『下』で生まれた子は、直接鍛練できん。弱くなることは見越さないといかんだろう」

「子供が増えれば、子供だけて鍛練できるから、弱くはならないよ」

「子供だけで? どういうことだ?」

「子供は、普通に放置していれば、子供だけで遊ぶから、どんどん強くなるよ」

 特に、こんな世界だと、家の中でテレビゲームしたり、スマホ中毒になったり、本読んだりしないんだから。

「子供は外で遊ぶから、そこで『勝ち上がり』を毎日させればいいよ。魚を一番取ってきた子、獣を一番取ってきた子、10日に一度の勝ち上がりで上位に居る子。全部競争させれば勝手に強くなるよ。サル・シュくんがル・マちゃんと一緒にいたから強くなったみたいに」

「……そうか…………」

「その、一番強い子だけ、大人が鍛練して、その強い子に下を鍛練させればいい。

 とにかくそれで、鍛練自体はできるよね。あとは、住むところと食料だよ。それが一番問題。

 子供にハタケ仕事させて、一番働いた人がエライってするとみんなやるだろうけど、鍛練する時間が少なくなるから、『強い子』にはなりにくくなるし……」

「いや、全部を戦士にするのが理想だが、『下』でも戦っていない者たちがいる。逆に言うと、キラ・シの中でも、キラ・シの戦士を支える者たちを作ればいい。

 山では、弱ければ捨てられたが、それを捨てずに、『働き』をさせればいいだけだ」

「それだと、一割も戦士にならないかもしれないよ?」

 リョウさんが、一度目をつぶって、開けた。

「戦を、しよう」

 とんでもない言葉がリョウさんの口から出た。

「どこからそんな結論が出たの?」

「『敵を殺すのがエライ』というように子に見せれば、子は勝手に戦士になりたがる」

「……そんな………………ことに、なる?」

「俺は、なった」

「でも、サル・シュくんとかル・マちゃんとかは、ガリさんいなかったんだよね?」

「あれは、ハルが言うように二人でいたからだろう。普通、キラ・シの子は父親について動くから、子供同士で一緒にはいない。子供の方が親より軽い分早いのに、親の速さで動くから、子は速くならない、とも言える。サル・シュとル・マは、両方が子供だから、とにかく速さが上がったんだ」

 理論的には、そうかもしれない。

「グア・アがダメな理由もそれだな。あいつが産まれてから、キラ・シは殆ど戦をしていない。大体、ガリは村に居なかったし、今でも、グア・アとともに動いてはいるが、『制圧』では女を抱いてるだけだ。車李(しゃき)との戦と言っても三回だけ。

『父の真似をしろ』では、確かにああなる」

「ガリさんの強くないところばっかり見てると……そうなるよね」

「戦で、敵を殺すことを子に見せるのが、直接の鍛練に、なる。俺もそうやって、父に育てられた」

 そんなことは、私は考えたこともなかったけど、たしかに、効率は、いいかもしれない。

『現代』だと、そういうことは子供に見せないようにってなってるから、私は思い付かなかったし、かわいそう、とは思うけど……来年、一万人の子供が生まれることを考えると……キラ・シが滅びて、この先産まれる黄色い肌の子が全員殺されるかもしれないことを考えると、……その『残酷さ』は許容しないと立ち行かないだろうな。

「ハルが言うように、全員で競わせて、強いのだけを戦士につけて鍛練させる。それを羨ましいと思わせればいい。

 一万人全員に順位をつけると、下が大変だから、最初から小さな村に分けてしまえばいい。キラ・シやキラ・ガンのように、200人ぐらいずつわけて、村対抗にすればいいんだ。その中で強いのを『戦士村』に引き抜けばいい。他は食い物の調達をさせれば、……捨てなくて、すむ」

  

 

  

 

 

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