【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。64 ~捨てなくて、すむ~

 

 

リョウさんが、グッと拳を握った。

『捨てなくて、すむ』。

 その言葉に、力がこもってる。

 そうだよね? 捨てたくて捨てたんじゃないんだよね。キラ・シだと生きていけなかったから捨ててただけなんだよね。

 捨てたくなんて、なかったんだよね?

「……それだと、どれぐらいが戦士になると思う?」

「十分の一だろうな」

「一万人なら千人。でも、今200人だから、1200人になるよ! 五倍だね!」

 9千人が農業とかすれば、大きな村ができる! 女の人には布織ってもらえばいいし……あの、大きな機械は持って歩けないから、アラビアあたりの、携帯できそうな織り機がいいな。あるなら作ってもらえるけど、ないなら私が作らないといけない。あれなら単純だから、できる。

「中には、サル・シュのように、幼いころから強い者が出てくる。それに守らせればいい。

 ただ、それにも…………あと五年はかかる……」

 大きな、ため息を、リョウさんが、ついた。

「それまでは、生きないとな……」

「自分が死ぬ心配なのっ?」

「30を過ぎれば、どんどん死ぬぞ」

「でも、老衰みたいなものでしょう? そんな簡単に死ぬの?」

「感覚が狂うらしい」

「どの感覚?」

「前の戦では、ここでこう刀を振り回せば、あそこの敵に届いたのに、届かなくなった……とか、刀を妙に重たく感じる、とか」

「30才で?」

「刀が重たいのも問題だが、敵に刀が届かなくなれば、次の刃で殺される」

 そっか。

『感覚が違った』ら『弱くなるのを気付く』けど、その『最初の感覚が違った』のが戦場だったら、『殺し損ねる』ってことなんだから、敵に殺されるんだ?

「でも、筋力って、鍛えてればどんどん強くなるって言うよ?」

 リョウさんが、腕に力こぶを作って見せた。

「どうすれば、俺はこれ以上強くなれる?」

 既にリョウさんの腕は凄く太い。若かったシュワちゃんより太い腕。スタローンは60才でも筋肉凄かったけど、リョウさんの腕はそれより太い。たしかに、これ以上って、人間には無理な気がする。

「ハルが今から少しずつ鍛えれば、死ぬまでにどんどん強くなるだろう。だが、俺やガリは、もう、強さの頂点にいる。ここ二年、弱くなったとは思わないが、俺は、強くなった気が、しない」

 老人でマッチョな人は現代でもいるけど、でも、たしかに、普通の老人は、どんどん痩せていく。それにマッチョな老人だって、筋肉が太いだけで『強い』かどうかというとそうじゃないよね。若い人みたいには動けないよね。

『素早さ』が落ちれば、すぐに、死ぬんだ。戦場で。

『素早さ』は現代だって『若い人の特権』だと、みんな理解してる。だから、ゴルフとかのんびりするスポーツ以外は、第一線でいられなくなるんだ。

 そうか。キラ・シって『戦いのアスリート』なんだ。

 超一流のアスリートほど、活躍時期は、短い。

『40才まで生きない』ってのは、寿命が40才じゃ、ないんだ。そうだ。

 40才にはみんないなくなってるってことで、それまでに徐々に死んでいくんだ。

 リョウさんもガリさんも、今、27才。三年後から、死ぬのを考えて生きることになる。

 なんて速さだろう。『現代』だと、27なんて、まだ子供から脱しただけなのに……

  

 

  

 

  

 

 数日後、集められるだけ集まったキラ・シの全員で、リョウさんが話をする。ぎりぎりで、ガリさんが帰って来た。それを待って、玄関フロアに円陣を組む。灯台を消して、真ん中にたき火を置いた。

「子が、来年にはキラ・シの50部族分になる」

 それにみんな喜んだけど、次の言葉で目を見開いた。

「どうやって育てる?」

 リョウさんが全員を見渡したけど、みんな、目を伏せた。

「三歳までは女に任せるとしよう。そのあとどうする? 一カ所に50部族分の子が集まる。

 食い物は? 住処は? 守るのはどうする? どうやって連れてくる?

 三歳の子が50部族分だ。一人で放置はできない、歩かせるとしても長くは歩けない。大人が抱いて連れてくるしかない。

 50部族分の、子を、ハルは、連れてくるだけで十年かかると言った」

 私!

 こんな重たい会合で、突然名前出されると胃がキュウッとなるわ。

「そうなの、子供だから、一人の馬に三人のせられるとしても、村からこのシロまで何日かかる?

 このお城からは、その、集めて育てる場所まで馬車で30人を一度に移動させたとしても、何日かかる? って話なの。

 このお城に50部族分あつまったら、食料も大変だし、寝るところも大変だし、そのうち、30人ずつを馬車で移動させるとして、その、移動先が馬車で10日かかるとしたら、往復20日。30人を運ぶのに20日だから、一万人運ぶのに18年かかるのね」

「18年っ!」

「馬車が一台ならね。二台で9年。20台あれば、一年弱にはなるけど、20台の馬車を往復させたら凄く目立つよ。

 3才の子供が数千人居るところを攻められたら、200人の戦士でどれだけ守れる?

 羅季(らき)にも何千人かいて、移動先にも何千人かいて、20台の馬車も守らなきゃいけない。どこを攻められるかはわからないから、重点的に守るってことは不可能なのよ。目立たないようにすると、馬車を減らすってことになって、移動させる年数が増えるだけ」

「女がいる」

 レイ・カさんが手を上げた。

「どこでもついていく、なんでもする、といっている女がたくさんいる。あれを集めて子供の世話をさせよう」

 そうだそうだ、って何人かが頷いてる。

 そんな女の人が、たくさんいるんだ?

「他の女が産んだ子まで育てるか?」

「なんでもする、と言った言葉を信じるしかない」

 ショウ・キさんが手を上げた。

「俺の女も、ついてくるって毎回うるさいのがたくさんいる。あれに子の世話をさせよう。先に、村を作って、女たちをそれぞれ歩かせればいい。戦士が運ぶ必要がなくなる」

 私も手を上げた。

「それじゃ、途中で倒れる女の人出てくるよ!」

「強い女だけ残れば、それだけ強い子になる」

 はっ……あっ……………………そう来るかっ!

 レイ・カさんが挙手。

「最初から、一年歩く、と言えばいい。無理な女はついて来ない」

 それは、凄く、数が限られる気がする……でも、覚悟して出たなら、仕方ないとも言える……けど……

 白熱議論になった。子供のことだけじゃなく、全部が全部、ここでリョウさんが喋っていくから、戦士たちがガンガン意見出してくる。

 確かに、『言論は平等』なんだ。

 ここは古代ギリシャの元老院か、って感じ。

 でも、大体は『反論』じゃなくて『どうやったらそれができるか』ってのだから、目茶苦茶にはなってない。実際、コレに反論するとなったら『世話が面倒だから、制圧をやめよう』ってことになる。そんなことは誰も望んでないんだね。

 突然、全員が黙り込んだ。

 ナニ?

 シーン……って音がしたところにガリさんが立ち上がる。

「出陣っ!」

 なんでっ!

 ガリさんが走ってお城出て行ったのにみんなついていく。

「敵襲っ!」

 リョウさんが叫んで、様子を見に来たマキメイさんとかを奥に押し込めた。

 敵襲っ? あの議論の末で、戦をするって話じゃなく? 攻めてきたの? 誰が? 車李(しゃき)と同盟を組んでるのに!

「ハル……っ! こっちこいっ!」

 ル・マちゃんが階段から私を呼んだ。

「城は俺が守ってやるっ! リョウ・カも行け!」

 階段からうかがってる私の目の前で、ル・マちゃんが玄関の前に仁王立ち。

 なんて勇ましい……

「え?」

 ぐぷっ……って……私の口から、なんか、出た。

 熱い、のが……くちびるをあふれて喉にしたたっていく。

 背中が、熱い。

「……る……まちゃ…………」

 声が、出ない。

 ル・マちゃんそこにいるのに、外の大騒ぎで届かない。

 お城の中に、敵が……いる…………

  

 

  

 

 

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