【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。66 ~ガリさんが文系~

 

 

この『来年』って本当、どうなるんだろう……

 リョウさんの子供すら、産む前に死んだからなぁ……前は。

 今回、あのあとまで生き残れるのかな?

 そう言えば、私、誰に殺されたんだろう?

 あの状況で、後ろから殺されたってことは、城内に敵が居たんだよね。前にはル・マちゃんがいた。まさか、車李(しゃき)とか、他の戦士が入ってきたのをル・マちゃんが気付かなかった?

 そうだ。羅季(らき)城には、スパイがいたんだ。車李に『キラ・シ』の名前を教えた人が、あの時もまだいた? なら、車李のスパイ? なんであのタイミングで私を殺したの? 外の敵と呼応してた?

 私が、殺されたの? それとも、キラ・シなら誰でも良かった? あそこにいたのがル・マちゃんだったらル・マちゃんが殺されてた?

 でも、今は早く、ご飯食べたい。

 とりあえず、前回もこのご飯に毒は入ってなかった。肉弾戦で殺しに来たんだから、毒はないんだろう。『あの時』までは殺されないんだろう、と思っておかないと、生きていけない。

 その前に、皇帝の赤ちゃんのことでまた大騒ぎ。

 二回目だから、私もなんか、あんまり対応する気がなかったけど、通訳はしないといけないから、リョウさんとマキメイさんと、クロス翻訳する。もう慣れたもんだ!

 崖下りとかは、精神的にはわかってても、体がついていかないから慣れようがないけど、頭だけでできることは、もう、次が分かってるから、楽だよね。

 そしてやっぱり、お城の最上階に連れて行かれてしまう私。今回は、頑張って、リョウさんの顔だけ見てた。

「……なんで…………ガリさんはこの人達を殺したの?」

 これは、知ってるけど、聞いておかないと話がつながらない。

「こいつらはガリに嘘をついた」

「嘘? どんな嘘?」

「自分たちがこの戦で無事なら、神の居所を教える、と言ったらしい」

 前も思ったけど、どうやったらそんな会話になるんだろう?

「カミ? 神様? 神様の居場所をなんでこの人達が知ってるの?」

「知らん。ガリにこいつらがそう言ったんだ」

「ガリさん、羅季(らき)語喋れるの?」

「ガリは、俺よりは喋れる。だが、俺にも聞こえた。『神はお前かもしれない』といった、あの、一番奥に居た奴の言葉をな」

「どうして喋れるの?」

 前は聞かなかったことだった。あの時は必死だったから。

「400年ほど前、キラ・シの東で倒れていた男を族長が救ったんだ。そいつは違う言葉を喋っていた。その男の言葉を、族長は覚えて、末まで覚えろ、と伝えた」

 何ソレ凄い。

「それで400年間、覚えてたの? 全然、使い道なかったでしょ?」

「なかったな。それでも、賢い族長だったからな、みな、疑問に思わず、ずっとその男の言葉を伝えたんだ。

 そいつはショカンを持っていた。その時はわからなかったが、今なら、わかる。薄い木を蔦でまとめたチクカンというのだ」

「竹簡がキラ・シにあったってこと?」

「そうだ。

 絶対にキラ・シでは、いや、山では作れないものだった。

 山では作れないものを持っていたその男を、400年前の族長は、信用したんだ。

 その男も、崖から落ちて、前を覚えていないようで、前の話を聞けなかったと伝わっている。ただ、そのチクカン自体は、読んだそうだ」

「なんて書いてあったかわかる?」

「意味はわからんが、言っていたことは覚えさせられたからな」

 リョウさんが、聞いたままを復唱したんだろう、羅季語を発声した。所々わからないけど、多分、こうだよね。

「この書簡をごらんになられたなら、ご招聘差し上げたい。山での暮らしを教えてほしい。こちらは、大陸での暮らしを教えて差し上げよう。共に手を取って生きていきましょう……って感じのこと」

「ゴランニナラレタ……?」

「見たら、ってこと」

「ショヘイサシアゲタイ?」

「…………多分、喜んでお迎えします、ってことだと思う」

 招聘なんて、現実には聞いたことないけど、辞書上では『礼を尽くして招く』だよね? あってるよね?

「あのショカンにそんなことが書いてあったのか……」

「言葉を伝えたってことは、羅季語の意味も分かってたんでしょう?」

「山、とか、川とか、赤子、とかならわかるが、『ゴランニナラレタ』なんて、説明されてもわからんだろう」

 まぁ……そうだよね。

「今は、ハルが、羅季語とキラ・シ語がわかるから、すぐに教えてもらえたが、あの当時は、その東の男もキラ・シ語がわからんのだから。指さし確認できることしか、言葉も残ってない」

 そっか。山にあるアイテムの単語しかわからないんだ?

「その時の族長が、先に男の言葉を覚えて、言うこと全部を丸覚えして、どうにか会話が伝わっただけだ」

「そうだよね。……片方の言葉だけしかわからないと、凄い大変だよね……」

 英語だけ聞いて英語を覚えましょうってことだもんな。そういう英語教材あるけど、やっぱり単語しかわかんないんだな。

「ガリがどこまで分かっているのかはわからんが、俺には、ハルとマキメイの会話は、9割わからん……というか、言葉が、一つ一つが聞き取れるだけだ」

「じゃあ、羅季語の勉強しないとだね」

「ベンキョウ?」

「言葉の鍛練」

「…………そうだな……………………知らないと話が進まないな。どうせ、他の奴らは覚えないだろうし……」

 ああ面倒臭い……と、リョウさんがため息をつく。

 まぁ、マキメイさんと喋っていれば、すぐうまくなるよ。結構、私無しで会話してたもん。

「ずっと族長さんだけが覚えてたのを、リョウさんはなんで覚えたの?」

「15の時にガリから、東へ行くから、言葉を覚えろ、と……村を離れてる間中、ラキ語で喋られた……」

 そら覚えるわ。ガリさん頭いい。

「ガリさんはなんで覚えたの?」

「あいつはそう言うのが好きなんだ。

 隣の部族もみんな言葉が違うが、あいつは12の部族の言葉を喋れる」

「12っ!」

 現代で言うと、12カ国語覚えてるってこと?

 というか、全部の部族が言葉違うの?

 そっか。アフリカも、小部族で全部言葉が違うんだよね。『ルーツ』だったか、アメリカドラマで、白人の奴隷船に集められたときに、言葉を通じさせるのが大変だった、ってくだりがあったな。

 言葉って、そんな距離でも変わるんだ?

 ……っても、どんな距離か知らないけど。

 とにかく、他の言葉覚えてるの、凄すぎない? まぁ、キラ・シ語でもかなり単語数は少なそうだから、覚える言葉はそんな多くなさそうだけど、12は凄い!

 ナニゲに、ガリさんも文系マッチョだった!

 ああ、そうか。リョウさんは同じ知能派でも、文系じゃないんだ? 数学の方が得意っぽい。理屈が先だよね、リョウさんは。

 文系なら説明はしてほしいけど、ガリさんは、言葉をたくさん記憶してるだけで、説明にはその脳味噌を使ってくれないからなぁ……

 できるはずなんだよ。わざとしないんだよね、あの人は。面倒くさいから。

 だって、全然説明できないなら、キラ・シの戦士を山から連れてくるなんてことが、そもそもできるはずがないんだ。

 するときはするんだよ、ガリさんは。

「俺も、隣の部族五つまでは覚えてたたから……その上にラキ語で……、まぁ…………一つ増えただけだ」

 ふかーいため息。大変だったんだね。

 ガリさんと喋りたいから覚えたんだろう。

 ガリさんが文系で、リョウさんが理数系で、共にマッチョってナニカ間違ってない? まぁ、文系だ理数系だ言うの日本だけらしいけど、今はいいでしょ。

『ガリさんが文系』…………このおかしさを共有できる人がいないのが悔しい……

 ガリさん、小説とか書かせたらうまいのかもしれない。

 小説家のガリさん……落ち込んだときはこれ思い出そう。100年笑えそうだわ。

 キーボード叩いてるのもおかしいけど、スマホに音声入力してるガリさんが一番絵面おかしい。ガリさんがスマホっ!! なんて似合わない! リョウさんの妖精の羽とどっちが笑えるだろう……

「で、どうするんだ? リョウ・カ」

 ル・マちゃんがあちこち駆け回って退屈そう。

 そうだ、この死体の、男女の見分けで呼ばれてたんだった。

 どうせナニを言ってもル・マちゃんがここから捨てるんだろうし、今度は目をつぶっていればいいよね。

 でもたしか、あの時はガリさんが来てたような気がする。私、それで悲鳴上げたんじゃなかったっけ? 今回も、来るかも。歯を食いしばる。

 ほら、居た。

 階段上がってきた、ガリさん。

 前はここで、私が失神したんだ。

 今回は大丈夫そう。よし! ちゃんと私、強くなってる!

 

 

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