この『来年』って本当、どうなるんだろう……
リョウさんの子供すら、産む前に死んだからなぁ……前は。
今回、あのあとまで生き残れるのかな?
そう言えば、私、誰に殺されたんだろう?
あの状況で、後ろから殺されたってことは、城内に敵が居たんだよね。前にはル・マちゃんがいた。まさか、車李(しゃき)とか、他の戦士が入ってきたのをル・マちゃんが気付かなかった?
そうだ。羅季(らき)城には、スパイがいたんだ。車李に『キラ・シ』の名前を教えた人が、あの時もまだいた? なら、車李のスパイ? なんであのタイミングで私を殺したの? 外の敵と呼応してた?
私が、殺されたの? それとも、キラ・シなら誰でも良かった? あそこにいたのがル・マちゃんだったらル・マちゃんが殺されてた?
でも、今は早く、ご飯食べたい。
とりあえず、前回もこのご飯に毒は入ってなかった。肉弾戦で殺しに来たんだから、毒はないんだろう。『あの時』までは殺されないんだろう、と思っておかないと、生きていけない。
その前に、皇帝の赤ちゃんのことでまた大騒ぎ。
二回目だから、私もなんか、あんまり対応する気がなかったけど、通訳はしないといけないから、リョウさんとマキメイさんと、クロス翻訳する。もう慣れたもんだ!
崖下りとかは、精神的にはわかってても、体がついていかないから慣れようがないけど、頭だけでできることは、もう、次が分かってるから、楽だよね。
そしてやっぱり、お城の最上階に連れて行かれてしまう私。今回は、頑張って、リョウさんの顔だけ見てた。
「……なんで…………ガリさんはこの人達を殺したの?」
これは、知ってるけど、聞いておかないと話がつながらない。
「こいつらはガリに嘘をついた」
「嘘? どんな嘘?」
「自分たちがこの戦で無事なら、神の居所を教える、と言ったらしい」
前も思ったけど、どうやったらそんな会話になるんだろう?
「カミ? 神様? 神様の居場所をなんでこの人達が知ってるの?」
「知らん。ガリにこいつらがそう言ったんだ」
「ガリさん、羅季(らき)語喋れるの?」
「ガリは、俺よりは喋れる。だが、俺にも聞こえた。『神はお前かもしれない』といった、あの、一番奥に居た奴の言葉をな」
「どうして喋れるの?」
前は聞かなかったことだった。あの時は必死だったから。
「400年ほど前、キラ・シの東で倒れていた男を族長が救ったんだ。そいつは違う言葉を喋っていた。その男の言葉を、族長は覚えて、末まで覚えろ、と伝えた」
何ソレ凄い。
「それで400年間、覚えてたの? 全然、使い道なかったでしょ?」
「なかったな。それでも、賢い族長だったからな、みな、疑問に思わず、ずっとその男の言葉を伝えたんだ。
そいつはショカンを持っていた。その時はわからなかったが、今なら、わかる。薄い木を蔦でまとめたチクカンというのだ」
「竹簡がキラ・シにあったってこと?」
「そうだ。
絶対にキラ・シでは、いや、山では作れないものだった。
山では作れないものを持っていたその男を、400年前の族長は、信用したんだ。
その男も、崖から落ちて、前を覚えていないようで、前の話を聞けなかったと伝わっている。ただ、そのチクカン自体は、読んだそうだ」
「なんて書いてあったかわかる?」
「意味はわからんが、言っていたことは覚えさせられたからな」
リョウさんが、聞いたままを復唱したんだろう、羅季語を発声した。所々わからないけど、多分、こうだよね。
「この書簡をごらんになられたなら、ご招聘差し上げたい。山での暮らしを教えてほしい。こちらは、大陸での暮らしを教えて差し上げよう。共に手を取って生きていきましょう……って感じのこと」
「ゴランニナラレタ……?」
「見たら、ってこと」
「ショヘイサシアゲタイ?」
「…………多分、喜んでお迎えします、ってことだと思う」
招聘なんて、現実には聞いたことないけど、辞書上では『礼を尽くして招く』だよね? あってるよね?
「あのショカンにそんなことが書いてあったのか……」
「言葉を伝えたってことは、羅季語の意味も分かってたんでしょう?」
「山、とか、川とか、赤子、とかならわかるが、『ゴランニナラレタ』なんて、説明されてもわからんだろう」
まぁ……そうだよね。
「今は、ハルが、羅季語とキラ・シ語がわかるから、すぐに教えてもらえたが、あの当時は、その東の男もキラ・シ語がわからんのだから。指さし確認できることしか、言葉も残ってない」
そっか。山にあるアイテムの単語しかわからないんだ?
「その時の族長が、先に男の言葉を覚えて、言うこと全部を丸覚えして、どうにか会話が伝わっただけだ」
「そうだよね。……片方の言葉だけしかわからないと、凄い大変だよね……」
英語だけ聞いて英語を覚えましょうってことだもんな。そういう英語教材あるけど、やっぱり単語しかわかんないんだな。
「ガリがどこまで分かっているのかはわからんが、俺には、ハルとマキメイの会話は、9割わからん……というか、言葉が、一つ一つが聞き取れるだけだ」
「じゃあ、羅季語の勉強しないとだね」
「ベンキョウ?」
「言葉の鍛練」
「…………そうだな……………………知らないと話が進まないな。どうせ、他の奴らは覚えないだろうし……」
ああ面倒臭い……と、リョウさんがため息をつく。
まぁ、マキメイさんと喋っていれば、すぐうまくなるよ。結構、私無しで会話してたもん。
「ずっと族長さんだけが覚えてたのを、リョウさんはなんで覚えたの?」
「15の時にガリから、東へ行くから、言葉を覚えろ、と……村を離れてる間中、ラキ語で喋られた……」
そら覚えるわ。ガリさん頭いい。
「ガリさんはなんで覚えたの?」
「あいつはそう言うのが好きなんだ。
隣の部族もみんな言葉が違うが、あいつは12の部族の言葉を喋れる」
「12っ!」
現代で言うと、12カ国語覚えてるってこと?
というか、全部の部族が言葉違うの?
そっか。アフリカも、小部族で全部言葉が違うんだよね。『ルーツ』だったか、アメリカドラマで、白人の奴隷船に集められたときに、言葉を通じさせるのが大変だった、ってくだりがあったな。
言葉って、そんな距離でも変わるんだ?
……っても、どんな距離か知らないけど。
とにかく、他の言葉覚えてるの、凄すぎない? まぁ、キラ・シ語でもかなり単語数は少なそうだから、覚える言葉はそんな多くなさそうだけど、12は凄い!
ナニゲに、ガリさんも文系マッチョだった!
ああ、そうか。リョウさんは同じ知能派でも、文系じゃないんだ? 数学の方が得意っぽい。理屈が先だよね、リョウさんは。
文系なら説明はしてほしいけど、ガリさんは、言葉をたくさん記憶してるだけで、説明にはその脳味噌を使ってくれないからなぁ……
できるはずなんだよ。わざとしないんだよね、あの人は。面倒くさいから。
だって、全然説明できないなら、キラ・シの戦士を山から連れてくるなんてことが、そもそもできるはずがないんだ。
するときはするんだよ、ガリさんは。
「俺も、隣の部族五つまでは覚えてたたから……その上にラキ語で……、まぁ…………一つ増えただけだ」
ふかーいため息。大変だったんだね。
ガリさんと喋りたいから覚えたんだろう。
ガリさんが文系で、リョウさんが理数系で、共にマッチョってナニカ間違ってない? まぁ、文系だ理数系だ言うの日本だけらしいけど、今はいいでしょ。
『ガリさんが文系』…………このおかしさを共有できる人がいないのが悔しい……
ガリさん、小説とか書かせたらうまいのかもしれない。
小説家のガリさん……落ち込んだときはこれ思い出そう。100年笑えそうだわ。
キーボード叩いてるのもおかしいけど、スマホに音声入力してるガリさんが一番絵面おかしい。ガリさんがスマホっ!! なんて似合わない! リョウさんの妖精の羽とどっちが笑えるだろう……
「で、どうするんだ? リョウ・カ」
ル・マちゃんがあちこち駆け回って退屈そう。
そうだ、この死体の、男女の見分けで呼ばれてたんだった。
どうせナニを言ってもル・マちゃんがここから捨てるんだろうし、今度は目をつぶっていればいいよね。
でもたしか、あの時はガリさんが来てたような気がする。私、それで悲鳴上げたんじゃなかったっけ? 今回も、来るかも。歯を食いしばる。
ほら、居た。
階段上がってきた、ガリさん。
前はここで、私が失神したんだ。
今回は大丈夫そう。よし! ちゃんと私、強くなってる!
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