【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。67 ~部屋をさらう~

 

 

 

 

  

 

「ガリっ! 向こうに行ったんじゃなかったのか」

「女だな……」

 ガリさんが、転がってる死体を眺めて、呟いた。

 そっか、『前回』私が失神してたあと、こんな会話があったんだ?

「お前は女と知って殺したわけじゃない!」

「分かってる」

 ガリさんが右手を少し上げて、掌を前方から下に押さえるように動かした。落ち着け、ってことだろう。

 キラ・シってなにげにハンドサインが多い。現代の軍隊モノの映画でもそうだから、『奇襲する人』ってそう言うのが必要なんだろう。

「あっちでも、戦士たちが女と知らずに女を殺してる。もう、誰も気にしていない」

 リョウさんが、すごく安心したように息を吐いた。

 いやいや、そこ、安心するところじゃないでしょ。女の人いっぱい殺してるって駄目じゃない!

 ああ、でも、羅季(らき)で女の人がいる、って知った後に貴信(きしん)にそれを知らせに行ったから、覇魔流(はまる)は間に合ったけど、貴信は間に合わなかったって言ってたな……ご冥福をお祈り申し上げます。

 ガリさんが、リョウさんの右側に馬を寄せて、リョウさんの首を左手で抱え込んだ。コツン、て音がするほど頭を寄せる。

「いつも助かってる、リョウ………………

 平気だ。

 俺は、こんなことで止まらない」

 ガリさんが、凄い綺麗な顔して、ほんのり微笑んでる。

 リョウさんにだけ見せる顔?

 同じ日に生まれた火と水の二人。

 前に、私が失神してる間もこうだったのかな?

 あー、写真撮りたい。

 ガリさんが、リョウさんの頭をぐりぐり撫でて、バシバシ胸を叩いて、私の頭もぐりぐり撫でた。

 ガリさんに頭撫でられた!

 今回は、この時点では嫌われてないらしい。良かった!!

 階段を駆け下りて行くガリさん。

 前は、私が失神した後もまだ居たけど、今は本当に出て行ったみたい。丘を駆け下りていく蹄の音が、あの窓から聞こえる。

 馬って、かなりうるさいよね。

「ガリはな、冷たい男では、ないぞ」

 リョウさんが、ぱたぱた私の肩を撫ぜてくれる。その言葉も、前と一緒。場所は違うけど。

「うん……わかってる…………リョウさんが好きな人だもんね」

 たしか、こう答えたよね、私。

 一瞬、肩を撫でてくれていた手が止まった。これも、前のまま。

「ネスティスガロウネスティスガロウッ! うるせぇっ!」

 奥でル・マちゃんが怒鳴った。ナニナニ?

 あ、死体を、もう窓から捨ててるっ!

「ネスティスガオウ……って、ナニ?」

「ネスティスガロウ、だ。キラ・シの、呪いの言葉だ」

 呪いっ!

「あんな、怒鳴ってていいわけ?」

「普通は怒鳴らん」

 まだ向こうでル・マちゃんがそれを怒鳴ってる何度も何度も。

「『お前は地の底で永遠に苦しめ』という、呪詛だ」

 ナニソレ怖い。

「人指し指で相手を四回突き刺して発すれば、相手に呪縛をかける。今のル・マのように、ただ口にするだけだと『近寄ってくるな』ということだな。

 ル・マは死者の声が聞こえるから、色々言われているのだろう」

 イヤーッ!!!

 ナニが聞こえてるのーっ!?

 大変だな、巫女さんって! そりゃ、ガリさんに一瞬で殺されたなら、恨み言はみんなあるよね。そんなもの聞きたくないから、聞けなくて良かった……

「軽々しく言ってはならんが、言わねばならん時が在る。だから、子供の頃に教わるんだ。

 ハルも、変なものを見つけたら唱えろ。放置すれば忍び寄られて、『その世』に連れて行かれる」

「わ……わかった……『その世』って、地獄?」

「ジゴク?」

「……えっと…………地面の下にある、罪を冒した人が永遠に苦しむところ」

「似てはいるな。

 前世で『この世』に産まれて、『この世』で死ねば『あの世』に行って、今世で『この世』に産まれる。

『この世』で変なことをすれば『その世』に落ちて、二度と『この世』には戻れない。永遠に魂が凍てつくところだ」

 宗教観が違うから『地獄』も違うんだね。でも、多分、扱いは地獄だよね。

「ネスティスガロウね……私が言っても効き目あるのかな?」

「ハルはキラ・シの女だ。もちろん、守られる」

 確かにそんなこと言ったけど、キラ・シの血は流れてないからなぁ……

 念仏みたいなものと思っていいのかな。

 階段を下りていくリョウさん。ル・マちゃんはなんかガツガツやってたけど、後から駆けてきて、踊り場で追い抜かして行った。怖い怖い怖い! なんでこんな狭いところでそんな無茶するの! 暴走族かっ!

 いや……暴走族なんだな。そうだ。

『若い子が無茶をする』って古今東西一緒なんだろうな。

 玄関に出たら、もうお料理ならんでるっ! あーっ! おなか空いたっ!

 相変わらず『からあげは飲み物です』やってるサル・シュくんとル・マちゃん。私は、マキメイさんに、羅季巻きを山ほど作ってもらって、そのお皿を抱え込んだ。他はどうぞ食べてください。

 ああ……北京ダック食べ放題とか……幸せ…………

 マキメイさんが私を見たから笑ったら、彼女もニコッと笑ってくれた。

 よかった。またあの関係ができそう。

 さぁ次は、お風呂ですよ!

「マキメイさん、お風呂あるよね? 入れる?」

「……ぁ……はいっ! もちろんですっ! いつでも入ってくださいっ!」

 拳を握ったマキメイさん。『是が非ともっ!』って色が見えてる。服と、部屋の用意を頼んだ。それと靴。

 さぁ、どうやって誘おうかな。

「リョウさん、奥に、体を温めて綺麗にする、お風呂っていうのがあるんだけど、ル・マちゃんと二人で入ってきていい?」

「オフロ?」

「ル・マちゃんも体あたたまるよ」

「別に寒かねーよ」

「女の人は温めた方がいいんでしょ? リョウさん、サル・シュくん見張りにしてくれていいから」

「なんで見張りだよっ! ル・マがするならするっ!」

「行ってこい」

「やだよっ! ここにいる!」

「リョウさん、私、床に降りるよ? いい?」

 靴を履かせてもらったので言ってみた。リョウさんイヤそうな顔したけど、別に腕が引き止める風じゃなかったら飛び下りようとしたら、慌てて抱き留められる。

「勝手に降りるなっ!」

「ごっ……ごめんなさい……」

 前の癖でつい……

 だって、乗るだけなら乗れるようにもなってたんだもん。でも今だと体ができてないから、確かにやばかったかも。

 リョウさんが降りて、私を抱き下ろしてくれた。その時に、その太い首に抱きついて、頬にチュッ、てして、地面に立つ。リョウさん、頬を押さえて不思議そうな顔。キス知らない? まぁ、キラ・シにそんな習慣なさそうだよね。

 ん……ちょっとあちこち筋肉痛残ってるけど、歩けるよね。サル・シュくんも馬を下りた。ル・マちゃんはまだ乗ってる。

「ル・マちゃんは、私のこと、守ってくれないんだ?」

 かわいこぶってみたら、ル・マちゃんがウッ、てなってた。なにその『うっ』って。

「俺が守ってやるぜ、ハル! 任せとけっ! ル・マは女守るほど力無いからっ! しょせんは五位だしな!」

「ふざけんなっ!」

 ル・マちゃんが降りて走ってきた。私の腰をがっつり抱き寄せる。

「ハルは俺と二人でってんだよっ! 引っ込んでろ!」

 ん? なんか、雲行きが怪しくない?

 なにがおかしい? まぁいいか。二人の罵り合いはいつものことだから。ル・マちゃん、相変わらず、ナイトだよねぇ。

 サル・シュくんが超スパダリだから目立たないけど、ル・マちゃんもスパダリ素質バリバリなんだよ。生理の時は、『かわいい妹』なんだけどね。ああ、そうか、キラ・シ全員スパダリなのか。

 もう、恥ずかしさもないので、パッと服を脱いで、入念にかけ湯してお風呂に入った。

「あー…………気持ちいい……」

 家のお風呂で気持ちいいと思ったことなかったけど、これは何回入っても気持ちいい。

 温泉好きとかおばあさんの趣味、と思ってたけど、違うわ。疲れてると凄いわかるわ。現代だと肉体的に疲れるなんてこと、殆どなかったから気付かなかったんだな。それでいうと、キラ・シは体力あるから、あんまりわからないかもね。

 なんだっけ? お湯の成分とかもあるけど、液体に入って、浮力で体が浮くのが楽なんだって。その分、体重を支える力が減るから。

 今、身動きするとあちこち筋肉痛で痛いから、浮力助かる。

「これが気持ちいいのか? ハル」

「うん、ル・マちゃんも、早くおいでよ」

「ちょっと待て。裸になるの、大変なんだ……」

 あら? 何も言わずに毛皮脱いでくれるんだ?

 全部脱いだル・マちゃんに、かけ湯!

「マキメイさんっ! 掛けて掛けてっ!」

「はいっ!」

 女官さん全員で、ル・マちゃんが壁にあとずさりするほど掛けた。

「攻撃じゃないよっ! お風呂の作法っ!」

 ル・マちゃんが刀抜いたから、私はすいーっと奥に逃げる。

「そのまま入っちゃいけないんだよ。外でお湯を掛けて、体の汚れを落としてから入るの」

 それでも凄い垢浮くだろうけど、しないよりまし。

「あ、マキメイさん、その服、虫いるから! ベルト以外捨てちゃって! 着替え、あるよね?」

「はっ……はいっ! 着替えもございます!」

「ほーら、ル・マちゃん綺麗になったー、おいでーっ!」

 何度も足と手で温度確認してるル・マちゃん。その間に、マキメイさんに温石帯、と温石を作ってもらっておく。お風呂上がりに冷えちゃうからね。

 入ったル・マちゃんの体を洗ってあげる。

「なんかはがれてる……」

「うん、それが、汚れ。ル・マちゃんの体についてた汚れなんだよ」

 ホントに、ボロボロ落ちる。古い壁が落ちるみたいに。

「なんかっツルツルになったっ! ハルみたいっ! ……や……ハルのほうがツルツルだ…………ツルツルだ……」

 私の頬を撫でてうっとりしてるル・マちゃん。

「ル・マちゃんも、毎日入ってるとこうなるよ」

「俺もっ!」

 凄い嬉しそうなル・マちゃん。やっぱり女の子だなぁ。綺麗になるのは嬉しいよね。

「おーいっ、ル・マー、なにやってんのっ! 入れろよーっ!」

 女官さん三人が押さえているドアを、サル・シュくんが叩いてる。

 マキメイさんに彼を入れてもらった。

「なにこれっ! ル・マ、毛皮は?」

 サル・シュくんは前と一緒。ちゃんと毛皮脱いで飛び込もうとしたから、かけ湯合戦! 二人がお風呂で遊び回ってる。

 リョウさんは突き飛ばして、キラ・シも入れてもらった。

 一仕事終えた気分。すがすがしいっ!

 キラ・シが全裸で城中掃除してて、何回見ても笑える。

「そうだ、サル・シュくん。キラ・シって家の掃除どうしてるの?」

「ソウジ?」

「えっと……こんなふうに、綺麗することをキラ・シではなんて言うの?」

「部屋をさらう」

  

 

  

 

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました