【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。69 ~そして、お前も、生き延びろ~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「ナニ、二人で赤くなってんのっ!」

 私まで伝染して、サル・シュくんにめっちゃ笑われた。

「とりあえず、寝ろ。ハル」

「う…………、うん。そうする」

 前とは違う部屋だけど、ル・マちゃんと二人、ベッドで寝た。

 翌日はまぁ、服を着る着ないの一悶着がまた勃発。

「俺だって着てるのにっ!」

「さっきまでサル・シュも裸だったろっ!」

「だから、着ただろっ! お前も着ろ! このまま押し倒すぞっ!」

「できるもんならやってみろっ!」

 ナニカ怒鳴りそうになったサル・シュくんが、そのまま息を静かに吐いて、腕組みしてル・マちゃんを睨み付ける。ル・マちゃんがビクッ、て引いて、私にぶつかった。

 前と同じ流れだよ。止めた方がいいのかな。

 相変わらず、静かなサル・シュくんって、怖い。

「あ」

 サル・シュくんが出て行った。

 昨日、あれだけ話したからかな?

「え?」

 ってル・マちゃんが首を伸ばして戸口を見つめる。ギュッと、私の手を抱いてる腕が強くなった。その拳で、自分のくちびるをぐりぐりいじる。

 これは……ル・マちゃん、したかったんだ?

 あの啖呵、誘ってたんだ?

「サル・シュくんが来なくて寂しくない? ル・マちゃん」

 ル・マちゃんがビクッとした。分かりやすい。

「……なんで……?」

 私の腕を抱いた腕はそのまま、自分のくちびるをぷにぷに押す、ル・マちゃん。それ、キスしたいんだよね? 前はここでしてくれてたもんね。

「仲良さそうだから」

 ル・マちゃん、青い顔。

 ル・マちゃんが泣く回数が減るのは嬉しい。本当にル・マちゃん、気にしてなかったのかもしれないけど。でも、やっぱり、サル・シュくんが好きなのは好きなんだよね……

 腰をゆっくり撫でてあげた。冷えてる冷えてる。温石当てても冷たかったもんなぁ……ル・マちゃん、いつも私より体温高いのに。これだけ体温変わると、本当に、動けないだろうな。

「それ…………気持ちイい………………」

「そう? よかった…………もっとしてあげる」

「うにゃ」

 猫みたいに、口を閉じたまま口端むにっと上げた顔、かわいい。

 マキメイさんが温石帯持ってきてくれた。それと一緒にル・マちゃんも服着せる。その間に、私も生理始まったから、下着も履く。

「熱いですね。お体の調子が悪いのではないですか?」

 相変わらず優しいマキメイさんに、ル・マちゃんの事情を伝えて、『ありがとう』ってまた、なった。また、ル・マちゃんは彼女に抱きしめられて、泣いた。

 何回でもなるよね。毎回なるよね。

 あんな、戦うことだけに集中した部族の『強い男』の中で、女の子一人、つらかったよね。

「リョウさんも、サル・シュくんも、冷えるとか、温かいとか、どうでもイイ人達でしょ? でも、ル・マちゃんはそうじゃない、って分かってるから、そう言ってたんだよ。ちゃんとね、ル・マちゃんのこと、大事なんだよ?」

 温石帯で痛みがなくなったのを気付いて、また泣くル・マちゃん。

「そっか…………俺を温めたり、守ったりしなきゃいけないから………………

 俺が戦場にいると……邪魔なんだ…………

 サル・シュだけなら、そんなこと、気にせず、戦えるんだもんな………………

 俺、サル・シュの邪魔してたんだ…………」

 抱きしめるしか、できなかった。

  

 

  

 

  

 

「ハルナさん、マキメイさん、副族長が呼んでるよ!」

 キラ・シの子供が、ノックもなしにドア開けて入ってきて叫んだ。

「わたくしもですかっ?」

 そうだ、車李(しゃき)の兵士が忍んできたんだっけ?

「ハル! ちょうどいい」

 玄関まで降りたら、やっぱりリョウさんが死体持ってきた。

「……そのかた、車李の軍装ですっ! 車李の兵隊ですよっ!」

 マキメイさんが服を確認して私に教えてくれた。

「リョウさん、川向こうの大きな部族の戦士だって、その人」

 そして、リョウさんの指笛。

「どうするの?」

「ガリ・ア達全員をこちらに呼んだ。こちらは子供ばかりだからな」

 マキメイさんに援軍のことも聞いたら、前と同じ。

「リョウさん、5000人の車李の戦士がこっちに来てるって」

 そうだ、地面に地図書かないと。

「ココが『羅季(らき)』って部族。西がこの西鹿毛(さいかげ)山脈、そこの黄色い河が『詐為河(さいこう)。山と川の間に、北から、掾吏(えんり)(えんり)、羅季、貴信(きしん)、覇魔流(はまる)って大きな部族がある。この羅季の北の掾吏って部族のところで、詐為河(が渡れて、その東側に、車李って大きな部族がいて、この羅季を守ってるんだって。

 さっき、リョウさんが連れてた死体が、この車李って部族の戦士。貴信は今回の覇魔流が攻めてきたのには同行しなかったけど、車李の属国…………友達だから、車李が来るなら、貴信も攻めてくるかもしれないって。挟み打ちだよ!」

「それはない。ガリ達が、昨晩、キシンをつぶした」

 相変わらずだな。

「先につぶしたのがハマル、次がキシンだと、ガリが確認した。昨日ここにいたハマルの戦士たちに族長とかがいたらしくて、ハマルは全滅。キシンも、族長は残したが、戦士は全部殺した。残ってる男はこのシロと一緒。刀を持っていない奴だけだ」

「この羅季みたいに『王城を乗っ取った』ってこと? それなら、他の街にいた兵隊が来るよね?」

「おうじょう?」

「この、大きな家を『王城』って言うの。『城』。部族の長老とか族長が住んでるところ」

「ああ、それを……だから、ここより南で、14陥とした」

 ……あれ? 前は13じゃなかったっけ? あと一個、どこから出たの?

「ココのような大きな家は二つだけだった、とガリが言ってた。他は、キラ・シの戦士一人で制圧できたらしい。

 南側は山と湖で、他に大きな部族はない。だから、この川の北から渡れる先しか、敵は来ない」

 そういや詐為河(さいこう)って、歩いて渡れるんだよね。上の方は急流なんだけど、川幅が広いここらへんは、たしかに、動いてないように見えることもある。

「とにかく、あっちが上流。そっちは細いから橋が掛かってるらしいよ」

「ハシ?」

「えっと………………川を渡るために木を渡すの。だから、泳がなくても渡れるようになる」

「ああ……アレのことか…………ハシだな。ハシ」

「そう、橋」

 リョウさんが、後ろにいた小さい子にナニカ言って走らせた。大人も子供も、リョウさんにナニカ言って、ナニカ言われて右往左往してる。

 クサイ……伝令の中にクサイ人がいる。多分、昨日お城にいなかった人だ。ガリさんの部隊にいた人なんだろう。もう帰って来たんだ?

「これは……本当に、くさいな…………すぐにわかる、忍べんな」

 リョウさんもまたくしゃみする。

「昨日戦っていたのはどれほどだ?」

「凄く弱い国だって。このお城の兵士、弱いみたい」

「そうか」

「どうするの?」

「戦うしかない」

「…………大丈夫なの?」

「駄目なら死ぬだけだ」

 これも相変わらずだ。

 なんか微妙に歴史は違うけど、大筋は一緒。

 ル・マちゃんが私の腕にすがりついてくるのも一緒。ちょっと痛いけど、放置する。

「ハル、家の中にいろ」

 ぞくぞくとみんな、リョウさんの元に指示を仰ぎに来る。

 お城に入ったら、マキメイさんが私の腕をがっつりつかみ込んだ。

「ハルナさまのお命は、わたくしがお守りいたします!」

 この流れも、前と一緒だ。良かった。

「あの、蛮族の頭のかたが、昨晩、ハルナ様に『良い服を着せろ』とおっしゃったのです」

 何回聞いても泣ける……

 このあと、橋のあっちに走るよね。

 ……と、思って、着替えをかき集めて待ってるのに、リョウさんが、来ない。

 玄関から覗いたら、エントランスにリョウさんがポツンと立ってた。キラ・シの戦士たちが周りを刀抜いて馬で見回ってる。

「リョウさん……川向こうに行かないの?」

「ガリが間に合いそうだ」

 え? 歴史が、違う。

「ガリが無理なら、誰も無理だ。その時は俺たちは南へ走る。ハルはここで、マキメイたちと隠れていろ。ゾクは南へ行ったと言え」

「えっ? リョウさんたちどうするのっ!」

「ル・マがいれば、キラ・シは滅びん」

 そりゃ……そうだろう…………けど…………

「ル・マに血の道が来てるのは良かった。今は動けんからな。

 ル・マを、守ってくれ、ハル。

 そして、お前も、生き延びろ」

  

 

  

 

 

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