「ナニ、二人で赤くなってんのっ!」
私まで伝染して、サル・シュくんにめっちゃ笑われた。
「とりあえず、寝ろ。ハル」
「う…………、うん。そうする」
前とは違う部屋だけど、ル・マちゃんと二人、ベッドで寝た。
翌日はまぁ、服を着る着ないの一悶着がまた勃発。
「俺だって着てるのにっ!」
「さっきまでサル・シュも裸だったろっ!」
「だから、着ただろっ! お前も着ろ! このまま押し倒すぞっ!」
「できるもんならやってみろっ!」
ナニカ怒鳴りそうになったサル・シュくんが、そのまま息を静かに吐いて、腕組みしてル・マちゃんを睨み付ける。ル・マちゃんがビクッ、て引いて、私にぶつかった。
前と同じ流れだよ。止めた方がいいのかな。
相変わらず、静かなサル・シュくんって、怖い。
「あ」
サル・シュくんが出て行った。
昨日、あれだけ話したからかな?
「え?」
ってル・マちゃんが首を伸ばして戸口を見つめる。ギュッと、私の手を抱いてる腕が強くなった。その拳で、自分のくちびるをぐりぐりいじる。
これは……ル・マちゃん、したかったんだ?
あの啖呵、誘ってたんだ?
「サル・シュくんが来なくて寂しくない? ル・マちゃん」
ル・マちゃんがビクッとした。分かりやすい。
「……なんで……?」
私の腕を抱いた腕はそのまま、自分のくちびるをぷにぷに押す、ル・マちゃん。それ、キスしたいんだよね? 前はここでしてくれてたもんね。
「仲良さそうだから」
ル・マちゃん、青い顔。
ル・マちゃんが泣く回数が減るのは嬉しい。本当にル・マちゃん、気にしてなかったのかもしれないけど。でも、やっぱり、サル・シュくんが好きなのは好きなんだよね……
腰をゆっくり撫でてあげた。冷えてる冷えてる。温石当てても冷たかったもんなぁ……ル・マちゃん、いつも私より体温高いのに。これだけ体温変わると、本当に、動けないだろうな。
「それ…………気持ちイい………………」
「そう? よかった…………もっとしてあげる」
「うにゃ」
猫みたいに、口を閉じたまま口端むにっと上げた顔、かわいい。
マキメイさんが温石帯持ってきてくれた。それと一緒にル・マちゃんも服着せる。その間に、私も生理始まったから、下着も履く。
「熱いですね。お体の調子が悪いのではないですか?」
相変わらず優しいマキメイさんに、ル・マちゃんの事情を伝えて、『ありがとう』ってまた、なった。また、ル・マちゃんは彼女に抱きしめられて、泣いた。
何回でもなるよね。毎回なるよね。
あんな、戦うことだけに集中した部族の『強い男』の中で、女の子一人、つらかったよね。
「リョウさんも、サル・シュくんも、冷えるとか、温かいとか、どうでもイイ人達でしょ? でも、ル・マちゃんはそうじゃない、って分かってるから、そう言ってたんだよ。ちゃんとね、ル・マちゃんのこと、大事なんだよ?」
温石帯で痛みがなくなったのを気付いて、また泣くル・マちゃん。
「そっか…………俺を温めたり、守ったりしなきゃいけないから………………
俺が戦場にいると……邪魔なんだ…………
サル・シュだけなら、そんなこと、気にせず、戦えるんだもんな………………
俺、サル・シュの邪魔してたんだ…………」
抱きしめるしか、できなかった。
「ハルナさん、マキメイさん、副族長が呼んでるよ!」
キラ・シの子供が、ノックもなしにドア開けて入ってきて叫んだ。
「わたくしもですかっ?」
そうだ、車李(しゃき)の兵士が忍んできたんだっけ?
「ハル! ちょうどいい」
玄関まで降りたら、やっぱりリョウさんが死体持ってきた。
「……そのかた、車李の軍装ですっ! 車李の兵隊ですよっ!」
マキメイさんが服を確認して私に教えてくれた。
「リョウさん、川向こうの大きな部族の戦士だって、その人」
そして、リョウさんの指笛。
「どうするの?」
「ガリ・ア達全員をこちらに呼んだ。こちらは子供ばかりだからな」
マキメイさんに援軍のことも聞いたら、前と同じ。
「リョウさん、5000人の車李の戦士がこっちに来てるって」
そうだ、地面に地図書かないと。
「ココが『羅季(らき)』って部族。西がこの西鹿毛(さいかげ)山脈、そこの黄色い河が『詐為河(さいこう)。山と川の間に、北から、掾吏(えんり)(えんり)、羅季、貴信(きしん)、覇魔流(はまる)って大きな部族がある。この羅季の北の掾吏って部族のところで、詐為河(が渡れて、その東側に、車李って大きな部族がいて、この羅季を守ってるんだって。
さっき、リョウさんが連れてた死体が、この車李って部族の戦士。貴信は今回の覇魔流が攻めてきたのには同行しなかったけど、車李の属国…………友達だから、車李が来るなら、貴信も攻めてくるかもしれないって。挟み打ちだよ!」
「それはない。ガリ達が、昨晩、キシンをつぶした」
相変わらずだな。
「先につぶしたのがハマル、次がキシンだと、ガリが確認した。昨日ここにいたハマルの戦士たちに族長とかがいたらしくて、ハマルは全滅。キシンも、族長は残したが、戦士は全部殺した。残ってる男はこのシロと一緒。刀を持っていない奴だけだ」
「この羅季みたいに『王城を乗っ取った』ってこと? それなら、他の街にいた兵隊が来るよね?」
「おうじょう?」
「この、大きな家を『王城』って言うの。『城』。部族の長老とか族長が住んでるところ」
「ああ、それを……だから、ここより南で、14陥とした」
……あれ? 前は13じゃなかったっけ? あと一個、どこから出たの?
「ココのような大きな家は二つだけだった、とガリが言ってた。他は、キラ・シの戦士一人で制圧できたらしい。
南側は山と湖で、他に大きな部族はない。だから、この川の北から渡れる先しか、敵は来ない」
そういや詐為河(さいこう)って、歩いて渡れるんだよね。上の方は急流なんだけど、川幅が広いここらへんは、たしかに、動いてないように見えることもある。
「とにかく、あっちが上流。そっちは細いから橋が掛かってるらしいよ」
「ハシ?」
「えっと………………川を渡るために木を渡すの。だから、泳がなくても渡れるようになる」
「ああ……アレのことか…………ハシだな。ハシ」
「そう、橋」
リョウさんが、後ろにいた小さい子にナニカ言って走らせた。大人も子供も、リョウさんにナニカ言って、ナニカ言われて右往左往してる。
クサイ……伝令の中にクサイ人がいる。多分、昨日お城にいなかった人だ。ガリさんの部隊にいた人なんだろう。もう帰って来たんだ?
「これは……本当に、くさいな…………すぐにわかる、忍べんな」
リョウさんもまたくしゃみする。
「昨日戦っていたのはどれほどだ?」
「凄く弱い国だって。このお城の兵士、弱いみたい」
「そうか」
「どうするの?」
「戦うしかない」
「…………大丈夫なの?」
「駄目なら死ぬだけだ」
これも相変わらずだ。
なんか微妙に歴史は違うけど、大筋は一緒。
ル・マちゃんが私の腕にすがりついてくるのも一緒。ちょっと痛いけど、放置する。
「ハル、家の中にいろ」
ぞくぞくとみんな、リョウさんの元に指示を仰ぎに来る。
お城に入ったら、マキメイさんが私の腕をがっつりつかみ込んだ。
「ハルナさまのお命は、わたくしがお守りいたします!」
この流れも、前と一緒だ。良かった。
「あの、蛮族の頭のかたが、昨晩、ハルナ様に『良い服を着せろ』とおっしゃったのです」
何回聞いても泣ける……
このあと、橋のあっちに走るよね。
……と、思って、着替えをかき集めて待ってるのに、リョウさんが、来ない。
玄関から覗いたら、エントランスにリョウさんがポツンと立ってた。キラ・シの戦士たちが周りを刀抜いて馬で見回ってる。
「リョウさん……川向こうに行かないの?」
「ガリが間に合いそうだ」
え? 歴史が、違う。
「ガリが無理なら、誰も無理だ。その時は俺たちは南へ走る。ハルはここで、マキメイたちと隠れていろ。ゾクは南へ行ったと言え」
「えっ? リョウさんたちどうするのっ!」
「ル・マがいれば、キラ・シは滅びん」
そりゃ……そうだろう…………けど…………
「ル・マに血の道が来てるのは良かった。今は動けんからな。
ル・マを、守ってくれ、ハル。
そして、お前も、生き延びろ」
コメント