マキメイさんに頼んでた短冊を、女官さんが持ってきてくれた。村の位置に後ろから釘を打ってもらう。
「で、ガリさん。ここらへんの村、何人女の人がいたか覚えてる?」
「なぜだ」
「この短冊をね、女の人の数だけここに刺していくの。
そして、ここに、子作りをした戦士の名前を書いていくの。
そしたら、白い短冊があるところだけ、新しい戦士が行けば、無駄なく子作りと見回りができるでしょ?」
リョウさんとガリさんが目をまんまるにした。
「ガリさんが子作りした村、ここでいい? 女の人何人いて、ガリさん、何人抱いたの?」
「女が12人、五人抱いた」
五人……相変わらず凄いな……
短冊に『ガリ・ア』ってカタカナで書く。
「これ、ガリさんの名前ね。五枚分。あと七枚分、白いのを刺す」
ブツブツブツッと、刺す、刺す、刺す! これ、案外指に来るな。
「その村は、あと、スク・ナとシン・ジ、マキ・セ、シロ・ク、ナキ・ナだ。ナキ・ナが二人だ」
その名前を書いて刺す。
「じゃあ、女の人、あと1人。手つかず。この村は?」
「ショウ・キだな」
「じゃあ、ショウ・キさんに聞くね。ガリさんが行ったのは他にどこ?」
全部聞き出した。
なぜ二日しか経ってないのに、20人とやってるのあなたは。絶倫すぎ。
たしかに、一日十人、ガリさんの子供が増えそう。
ガリさんが、バシバシバシバシ、リョウさんの背中を叩いた。
「ハル、お前、凄いな!」
そんな率直なほめ言葉をガリさんから貰えるとは!
「これだと、わかりやすい。全員が全員、覚えているわけではないからな。そうか……これが、俺の名か……」
ガリさんが、カタカナを自分の指でなぞる。
そうだ、自分の名前ってわからないと、あとから見てわからないんだ? マキメイさんに竹簡を用意してもらった。一人一本書いて渡して、名前の字を覚えてもらおう。
「俺は、ハル。俺の名は?」
リョウさんまで食いついた。
「リョウさんは村の制圧してないでしょ?」
「この家で、三人抱いた!」
三人! 昨日? いつのまにっ! あんなに忙しかったのに!
「え? このお城、女の人何人居るの?」
「35人だ。三人が俺、6人がサル・シュ。他のは他の奴に聞いてくれ」
サル・シュくん、六人って既にばれてるよ!
羅季(らき)城に35枚の短冊……
「女官さん全員来年妊娠って、その時期の仕事が凄く大変になるよ! 女官さんは一番あとにして! というか、手を出さないで!」
「だが、制圧した村の女は全部抱いておいた方が安全だ」
う…………そうだね……マキメイさんも、凄いサル・シュくんに入れ揚げてたもんね。一晩で。
キラ・シってもしかして、エッチ巧い?
とりあえず、竹簡が来たので、ガリさんとリョウさんの名前を書いて渡した。二人とも、指で凄い練習してる。この『すぐ練習する』って凄いよね。
「覚えたなら、地面に書いてみて?」
二人とも、嬉しそうに枝で書いた。
「あってる。凄いね! 一発で覚えたなんて!」
ガリさんが、凄い目をキラキラさせてる。そうだ、ガリさんこういうの好きなんだよね。
こっちだと、羅季字を覚えた方がいいと思うけど、私が教えられないもんね。よし、キラ・シはカタカナで行こう。
「ガリさん、字を覚えてみる?」
「俺も覚えるっ!」
リョウさんまでまた食いついた。
「必要な言葉、言って? 竹簡に書くから」
「困ってないか?」
ガリさんの口から、出た。
リョウさんの考えじゃなかったんだ?
「それは、私の言葉じゃ意味がないよ。マキメイさん! 一番ヒマな女官さん一人貸してくれる?」
ガリさんが、『制圧』に必要な言葉を彼女から聞いて復唱してる。
あ、この女官さん……、私達がこの城を出たときに殺されてた人だ。たしか、大きな家の娘さんって言ってた。アツケイさんだって。
「あなた、字を書けるんじゃない?」
「はい、難しいものはできませんが」
「じゃあ、『獣で困ってないか。狩ってきてやる』って竹簡に書いてくれる? とりあえず、300本」
コマッテナイカ、カッテキテヤル……、ガリさんとリョウさんが何度も復唱してる。
お風呂から上がってきた人がそれに加わって、なんか、大合唱になった。
前もこんなことしてたのかな? そういえば、私、結構長く寝てたな。とにかく毎日疲れてたから。実は今も眠い……まだ朝なんだけどな。生理始まってるからしかたないか……
みんなの名前を聞いて、竹簡に書いて渡す。地図に村の位置を足して、短冊を刺していく。
木工職人さんから、画板一枚分の車輪ができたって。速い!
枠をつけてもらって、車輪をつけたらゴロゴロ動かせる。それを見て、キラ・シが吠えた。おなかに来るハウリング。
その地図を見せて、大陸の講義。
結局、この日の羅季脱出はまったくなかった。入れ代わり立ち代わり戦士が帰って来て、お風呂に投げ込まれて、まとまったら大陸の講義。そこここで、竹簡を見て自分の名前をみんな覚えてる。
これで、帰って来たら勝手に短冊を追加してくれたら、私の仕事は凄く減る。しかし…………凄い数の女の人に、一晩で手をつけたな……戦ってたんじゃないの?
「そうそう、ものを覚えるとき、がむしゃらにやるんじゃなくて、間を空けてやるといいんだよ」
そうだ、その方法も教えておいた方がいいよね。なんかキラ・シって、集中しだすと動かなくなる。
「最初に見たときに覚えるまでやって、少しあとにもう一度やって、翌日にやって、三日後にやって、七日後、14日後、30日後でやると、忘れにくい」
「ガリがそんなこと言ってた」
リョウさんがまた凄いこと言う。というか、ガリさん……忘却曲線なんて、知らないよね?
「忘れる前に思い出せば、忘れにくい」
「それ、それを忘却曲線って言うの。それを利用した記憶法なんだよ、これ。自分でそれを見つけて実行してるって、凄いよ!」
ガリさんがフフン、ってドヤ顔になった。超カワイイッ!!!!
「ボウキャクキョクセン?」
リョウさんがもう、食いついてガツガツ質問してくる。サル・シュくんは遠くで座って竹簡みながらたまにこっちを見る感じ。彼は以前から『言葉』には全然興味なかったもんね。
「そう、一度覚えても忘れちゃうでしょ? 完全に忘れたら、また覚えるのにもう一度同じ手間がかかるけど、忘れる寸前に覚え直すと、もっと長く覚えて居られるようになるの。30日を越えても覚えて居られるようになったら、それは一生覚えてる」
他の人にもどうせ何回も教えるから、これも小さな画板にグラフを書いた。
「だから、今書いた名前も、今日も明日も明後日も、ずっと書き続けるんじゃなくて、今日やったら明日、明日やったら、三日後、三日後やったら七日後、七日の二週間……じゃなくて、14日後、30日後、に書く練習をすればいいから。
覚え直すたびに、字を書く数は減るから。すぐに思い出せるからね。だから戦いの邪魔にはならないよ」
オオーッて、またキラ・シのハウリング。
これを、レイ・カさんとショウ・キさんの分ももう一度やるのね……
ショウ・キさん大丈夫かな? というか、サル・シュくんがいない。さっきまでいたよね? えっ! どこに行ったの? ル・マちゃんもいないっ!
そっと部屋に戻ってみたら、ベッドでゴロゴロしてた。
そっと玄関に降りた。
このころからル・マちゃん、サル・シュくんが好きなんじゃない。もう!
とりあえず、地図作製を続ける。いっぱい釘が出て、ちょっと怖い。これ、釘になんか刺したいな。職人さんに、釘にかぶせるものを頼んだ。とりあえず角材でいいから。最終的には丸くしてくれたので、待ち針みたいになった。丸いのを外して、短冊を刺して、丸いのをつける。よし。
「そう言えば、川はどうなってるの、リョウさん」
「子供たちが遊んでいるふりをして調べてる」
なーるほど。
「浅い部分はわかるが、チズに書くか?」
「翌日もそこが浅かったら書こうか? 毎日様子が変わるかもしれない」
「…………そうだな」
砂漠の砂山みたいなもんだよね。
というか、川のそばに村がないってことは、ここまであふれるんじゃないのかな?
「アツケイさん。あの川氾濫するよね? どこらへんまで来るの?」
机で竹簡に羅季(らき)字を書いてる彼女に聞いてみる。邪魔くさがりもせず、にっこり答えてくれた。
「雪解けの時期と、黄龍(こうりゅう)の時です。その二つが重なれば、五日ほど。ずれれば、一月ほど水が引きません」
「コウリュウって、北の国名?」
「いえ……大潮のときに、流れが逆になるのです。酷いときは、身の丈を越す大波が来ます。黄色い川が荒れるので、黄色い龍と書いて黄龍です」
アマゾン川のポロロッカみたいなものかな? 大潮なら半年に一度、一日前後の筈だよね。雪解けと重なる春だけが、大変なんだ?
「雪解けの氾濫が、凄いことになるってことね?」
「そうです。お隣の貴信(きしん)が、たまに城が浸かるそうです。羅季(らき)でも、四年前は、その、城壁……今は覇魔流(はまる)に壊されてありませんが、石畳のすぐ向こうまで水が来ました」
「この高台まで?」
「はい。その水が引く時期に黄龍が来ると、被害が拡大します」
氾濫の水が来てるのに逆流されたら、そりゃ水が引かないよね。
「リョウさん、一年ほどいたんでしょ? 氾濫は見なかったの?」
「見なかった」
奇跡的に見てない日取りで山に帰ったんだ?
キラ・シっていろいろ奇跡的だけど、こんなのまで奇跡的に『見てない』んだ? なんか笑っちゃうわ。
アツケイさんの羅季語をキラ・シ語に、リョウさんたちのキラ・シ語を羅季語に、クロス翻訳してるからガリさんたちも話聞いてるけど、『氾濫』がわからないみたい。
「いや、氾濫はわかる。雪解け水で川が太くなることだろう。それで、なぜそこまで水が来る?」
「神様がそうしてるから」
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