【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。71 ~「神様がそうしてるから」~

 

 

マキメイさんに頼んでた短冊を、女官さんが持ってきてくれた。村の位置に後ろから釘を打ってもらう。

「で、ガリさん。ここらへんの村、何人女の人がいたか覚えてる?」

「なぜだ」

「この短冊をね、女の人の数だけここに刺していくの。

 そして、ここに、子作りをした戦士の名前を書いていくの。

 そしたら、白い短冊があるところだけ、新しい戦士が行けば、無駄なく子作りと見回りができるでしょ?」

 リョウさんとガリさんが目をまんまるにした。

「ガリさんが子作りした村、ここでいい? 女の人何人いて、ガリさん、何人抱いたの?」

「女が12人、五人抱いた」

 五人……相変わらず凄いな……

 短冊に『ガリ・ア』ってカタカナで書く。

「これ、ガリさんの名前ね。五枚分。あと七枚分、白いのを刺す」

 ブツブツブツッと、刺す、刺す、刺す! これ、案外指に来るな。

「その村は、あと、スク・ナとシン・ジ、マキ・セ、シロ・ク、ナキ・ナだ。ナキ・ナが二人だ」

 その名前を書いて刺す。

「じゃあ、女の人、あと1人。手つかず。この村は?」

「ショウ・キだな」

「じゃあ、ショウ・キさんに聞くね。ガリさんが行ったのは他にどこ?」

 全部聞き出した。

 なぜ二日しか経ってないのに、20人とやってるのあなたは。絶倫すぎ。

 たしかに、一日十人、ガリさんの子供が増えそう。

 ガリさんが、バシバシバシバシ、リョウさんの背中を叩いた。

「ハル、お前、凄いな!」

 そんな率直なほめ言葉をガリさんから貰えるとは!

「これだと、わかりやすい。全員が全員、覚えているわけではないからな。そうか……これが、俺の名か……」

 ガリさんが、カタカナを自分の指でなぞる。

 そうだ、自分の名前ってわからないと、あとから見てわからないんだ? マキメイさんに竹簡を用意してもらった。一人一本書いて渡して、名前の字を覚えてもらおう。

「俺は、ハル。俺の名は?」

 リョウさんまで食いついた。

「リョウさんは村の制圧してないでしょ?」

「この家で、三人抱いた!」

 三人! 昨日? いつのまにっ! あんなに忙しかったのに!

「え? このお城、女の人何人居るの?」

「35人だ。三人が俺、6人がサル・シュ。他のは他の奴に聞いてくれ」

 サル・シュくん、六人って既にばれてるよ!

 羅季(らき)城に35枚の短冊……

「女官さん全員来年妊娠って、その時期の仕事が凄く大変になるよ! 女官さんは一番あとにして! というか、手を出さないで!」

「だが、制圧した村の女は全部抱いておいた方が安全だ」

 う…………そうだね……マキメイさんも、凄いサル・シュくんに入れ揚げてたもんね。一晩で。

 キラ・シってもしかして、エッチ巧い?

 とりあえず、竹簡が来たので、ガリさんとリョウさんの名前を書いて渡した。二人とも、指で凄い練習してる。この『すぐ練習する』って凄いよね。

「覚えたなら、地面に書いてみて?」

 二人とも、嬉しそうに枝で書いた。

「あってる。凄いね! 一発で覚えたなんて!」

 ガリさんが、凄い目をキラキラさせてる。そうだ、ガリさんこういうの好きなんだよね。

 こっちだと、羅季字を覚えた方がいいと思うけど、私が教えられないもんね。よし、キラ・シはカタカナで行こう。

「ガリさん、字を覚えてみる?」

「俺も覚えるっ!」

 リョウさんまでまた食いついた。

「必要な言葉、言って? 竹簡に書くから」

「困ってないか?」

 ガリさんの口から、出た。

 リョウさんの考えじゃなかったんだ?

「それは、私の言葉じゃ意味がないよ。マキメイさん! 一番ヒマな女官さん一人貸してくれる?」

 ガリさんが、『制圧』に必要な言葉を彼女から聞いて復唱してる。

 あ、この女官さん……、私達がこの城を出たときに殺されてた人だ。たしか、大きな家の娘さんって言ってた。アツケイさんだって。

「あなた、字を書けるんじゃない?」

「はい、難しいものはできませんが」

「じゃあ、『獣で困ってないか。狩ってきてやる』って竹簡に書いてくれる? とりあえず、300本」

 コマッテナイカ、カッテキテヤル……、ガリさんとリョウさんが何度も復唱してる。

 お風呂から上がってきた人がそれに加わって、なんか、大合唱になった。

 前もこんなことしてたのかな? そういえば、私、結構長く寝てたな。とにかく毎日疲れてたから。実は今も眠い……まだ朝なんだけどな。生理始まってるからしかたないか……

 みんなの名前を聞いて、竹簡に書いて渡す。地図に村の位置を足して、短冊を刺していく。

 木工職人さんから、画板一枚分の車輪ができたって。速い!

 枠をつけてもらって、車輪をつけたらゴロゴロ動かせる。それを見て、キラ・シが吠えた。おなかに来るハウリング。

 その地図を見せて、大陸の講義。

 結局、この日の羅季脱出はまったくなかった。入れ代わり立ち代わり戦士が帰って来て、お風呂に投げ込まれて、まとまったら大陸の講義。そこここで、竹簡を見て自分の名前をみんな覚えてる。

 これで、帰って来たら勝手に短冊を追加してくれたら、私の仕事は凄く減る。しかし…………凄い数の女の人に、一晩で手をつけたな……戦ってたんじゃないの?

「そうそう、ものを覚えるとき、がむしゃらにやるんじゃなくて、間を空けてやるといいんだよ」

 そうだ、その方法も教えておいた方がいいよね。なんかキラ・シって、集中しだすと動かなくなる。

「最初に見たときに覚えるまでやって、少しあとにもう一度やって、翌日にやって、三日後にやって、七日後、14日後、30日後でやると、忘れにくい」

「ガリがそんなこと言ってた」

 リョウさんがまた凄いこと言う。というか、ガリさん……忘却曲線なんて、知らないよね?

「忘れる前に思い出せば、忘れにくい」

「それ、それを忘却曲線って言うの。それを利用した記憶法なんだよ、これ。自分でそれを見つけて実行してるって、凄いよ!」

 ガリさんがフフン、ってドヤ顔になった。超カワイイッ!!!!

「ボウキャクキョクセン?」

 リョウさんがもう、食いついてガツガツ質問してくる。サル・シュくんは遠くで座って竹簡みながらたまにこっちを見る感じ。彼は以前から『言葉』には全然興味なかったもんね。

「そう、一度覚えても忘れちゃうでしょ? 完全に忘れたら、また覚えるのにもう一度同じ手間がかかるけど、忘れる寸前に覚え直すと、もっと長く覚えて居られるようになるの。30日を越えても覚えて居られるようになったら、それは一生覚えてる」

 他の人にもどうせ何回も教えるから、これも小さな画板にグラフを書いた。

「だから、今書いた名前も、今日も明日も明後日も、ずっと書き続けるんじゃなくて、今日やったら明日、明日やったら、三日後、三日後やったら七日後、七日の二週間……じゃなくて、14日後、30日後、に書く練習をすればいいから。

 覚え直すたびに、字を書く数は減るから。すぐに思い出せるからね。だから戦いの邪魔にはならないよ」

 オオーッて、またキラ・シのハウリング。

 これを、レイ・カさんとショウ・キさんの分ももう一度やるのね……

 ショウ・キさん大丈夫かな? というか、サル・シュくんがいない。さっきまでいたよね? えっ! どこに行ったの? ル・マちゃんもいないっ!

 そっと部屋に戻ってみたら、ベッドでゴロゴロしてた。

 そっと玄関に降りた。

 このころからル・マちゃん、サル・シュくんが好きなんじゃない。もう!

 とりあえず、地図作製を続ける。いっぱい釘が出て、ちょっと怖い。これ、釘になんか刺したいな。職人さんに、釘にかぶせるものを頼んだ。とりあえず角材でいいから。最終的には丸くしてくれたので、待ち針みたいになった。丸いのを外して、短冊を刺して、丸いのをつける。よし。

「そう言えば、川はどうなってるの、リョウさん」

「子供たちが遊んでいるふりをして調べてる」

 なーるほど。

「浅い部分はわかるが、チズに書くか?」

「翌日もそこが浅かったら書こうか? 毎日様子が変わるかもしれない」

「…………そうだな」

 砂漠の砂山みたいなもんだよね。

 というか、川のそばに村がないってことは、ここまであふれるんじゃないのかな?

「アツケイさん。あの川氾濫するよね? どこらへんまで来るの?」

 机で竹簡に羅季(らき)字を書いてる彼女に聞いてみる。邪魔くさがりもせず、にっこり答えてくれた。

「雪解けの時期と、黄龍(こうりゅう)の時です。その二つが重なれば、五日ほど。ずれれば、一月ほど水が引きません」

「コウリュウって、北の国名?」

「いえ……大潮のときに、流れが逆になるのです。酷いときは、身の丈を越す大波が来ます。黄色い川が荒れるので、黄色い龍と書いて黄龍です」

 アマゾン川のポロロッカみたいなものかな? 大潮なら半年に一度、一日前後の筈だよね。雪解けと重なる春だけが、大変なんだ?

「雪解けの氾濫が、凄いことになるってことね?」

「そうです。お隣の貴信(きしん)が、たまに城が浸かるそうです。羅季(らき)でも、四年前は、その、城壁……今は覇魔流(はまる)に壊されてありませんが、石畳のすぐ向こうまで水が来ました」

「この高台まで?」

「はい。その水が引く時期に黄龍が来ると、被害が拡大します」

 氾濫の水が来てるのに逆流されたら、そりゃ水が引かないよね。

「リョウさん、一年ほどいたんでしょ? 氾濫は見なかったの?」

「見なかった」

 奇跡的に見てない日取りで山に帰ったんだ?

 キラ・シっていろいろ奇跡的だけど、こんなのまで奇跡的に『見てない』んだ? なんか笑っちゃうわ。

 アツケイさんの羅季語をキラ・シ語に、リョウさんたちのキラ・シ語を羅季語に、クロス翻訳してるからガリさんたちも話聞いてるけど、『氾濫』がわからないみたい。

「いや、氾濫はわかる。雪解け水で川が太くなることだろう。それで、なぜそこまで水が来る?」

「神様がそうしてるから」

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 

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