【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。73 ~四位貰いました!~

 

 

 

 

  

 

 連日帰ってくるキラ・シの戦士を出迎えながら、地図に名前を書いて、講義して、で日々が流れていく。地図をどんと書き足していく。

 制圧はガンガン進んで、まだ一週間も経ってないのに、川のコッチは全クリア。レイ・カさんとガリさんが川向こうに走ってる。

 ダブりがないと、こんなに速いんだなぁ……

 やっぱり『メモする』って大事だよね!

 でも、ガリさんはなんで、あの最初の日に走らなかったんだろう?

「ハル、今晩話がある、いいか?」

 リョウさんが珍しく、私の目の前に立って、肩に手を置いて、宣言した。

「う…………、うん…………大丈夫、だよ……? どうしたの」

 なんかうにゃうにゃいってどこかに行ってしまったリョウさん。なんなんだろう?

「ハルーっ! 名前を書いてくれーっ!」

「ショウ・キさんっ! 先にお風呂っ!」

「はーいっ!」

 飛び込んできた巨漢を廊下に受け流す。ショウ・キさんの短冊を幾つか作ってたら、隣にサル・シュくんが立ってた。

「サル・シュくんも名前書く?」

「ああ」

「何枚いる?」

「13枚」

「……13…………ちょっと待ってね」

 相変わらず凄い数。

 サル・シュくんは名前を教えても、自分で書いてくれる素振りはまっったく無い。こういうの嫌いっぽい。私も嫌いなんだけどなぁ…………

「そんなにしてて疲れない?」

 13枚の短冊を渡したら、サル・シュくんが真顔だった。ギョッ、として一歩下がったら地図にぶつかり掛けて、手を引っ張って抱き寄せられた。

「あぁ……危ない! ありがとう、サル・シュくん」

 こんなんにぶつかったら、軽く『鉄の処女』だよ……

「ル・マに、ナニか言ったか? ハル」

「え? ……サル・シュくんにしときなよ……とは、言ったよ」

 サル・シュくんの目が丸くなって、笑ってくれた。ホッ……とする。

「だって、君とル・マちゃんが一番お似合いじゃない。

 ガリさんとなんて、絶対駄目だよ!」

「だよなっ!」

 とたんにいつもの元気を取り戻したみたい。良かった!

「私が、サル・シュくんやめときなよ、って入れ知恵したとでも思ったんだ?」

 さすがのサル・シュくんも、胸を押さえてあっち向いた。

「ゴメン」

「凄い怒ってたよね、今」

「そうだとしたら、かなりむかついてたから」

 確かめもせずに怒鳴るようなことしなかっただけエライ?

「そっか……ル・マちゃんに振られ続けてるんだ……?」

 ギュッ、とサル・シュくんが目と口をつむった。梅干しを初めて食べた外国人みたいになってる。

 ル・マちゃん、あんなにサル・シュくんのこと好きなのになぁ……

「……まぁ、いつものことだからさー…………それはいいんだけど……」

 いいんだ?

「ル・マも、俺のこと好きだしさ……」

 パツパツパツ、って、地図の釘に短冊を刺しながらサル・シュくんがため息。ル・マちゃんが、サル・シュくんの子供産みたいって言ってたの、言っていいのかな?

 パツパツパツ……まだ刺してる。まぁ、13枚だもんな……この前、五枚いっぺんに刺そうとして、釘があっちに抜けちゃったから、一枚ずつ刺して、って言ったのは私だけど……

「五つの村で13人って凄いね。いつ寝てるの?」

「別に…………ル・マ以外とするのなんて、どうだっていい」

 とたんに、スッと冷たい顔になったサル・シュくん。

 なんかもう、サル・シュくんも情緒不安定になってるな…………元々、思春期だし……って、思春期って、この時代でもいいんだよね? 反抗期とかは贅沢病だって聞くけど、思春期はあるよね? もう子供を三人生ませてる男の子でも思春期があるんだろうか?

「ル・マがいないなら、走り続けてた方がラク」

「ル・マちゃんの側でも寝てないのに?」

 地図の上の方を見るサル・シュくん。そこは、車李(しゃき)の北の砂漠。まだ誰も行ってない。前も行ってない。だから何も情報がない空白地帯。

「寝ないと、ル・マちゃんをそのうち、無理やり抱いちゃうよ?」

「……なんで?」

 コッチ見た。本当に不思議そうな顔してる。

「このまま疲れて枯れたらル・マを抱きたいと思わなくならない?」

「ならない」

「なんでっ!」

「寝ないと頭がどんどん狂っていくから、本能に忠実になってくる。

 そのうち、ル・マちゃんを無理やり抱いちゃうよ? 嫌われちゃうよ?

 ……あ、ショウ・キさん。はい、短冊」

 今度はショウ・キさんがパツパツ刺していく。お風呂上がりのショウ・キさん゜ホカホカしててニコニコ。

 サル・シュくん、ぼんやり私の方見て立ってる。何日寝てないんだろう?

 よっし! やるか!

「ハル? どこいくんだ?」

 サル・シュくんからいっぱいいっぱいまで離れて……助走っ! おなかに、頭突き、した。

「げっ……」

 後ろはトゲの生えた地図。絶対サル・シュくんは避けない。でもやっぱり、私の体当たりじゃ、ちょっと咳込むだけ。

「ショウ・キさんっ! サル・シュくん、寝かせて!」

「ウォッシャーッ!」

「ちょっ……ハル、なにっ…………」

 ショウ・キさんはサル・シュくんの肩をがっつりつかんでおなかに一発入れた。ううん、三発入れた。肩掴まれてるのに咄嗟に逃げるサル・シュくん凄いわ。三発目で後ろを他のキラ・シの戦士が押さえたら、ショウ・キさんの膝からおなか蹴って跳び上がってその後ろに逃げた。凄いアクロバット。

「ちょこまかしやがってっ!」

 ショウ・キさんが怒鳴った時、そこにっ、ガリさんが、いた。いつのまに!

 サル・シュくんの首を肘で抱え込む。話、知らないよね? 知ってた? 何も聞かずに、サル・シュくん拘束してる?

「えっ? ……がりめ……きっ……っ」

 相手がガリさんだと分かっても、サル・シュくん、両足が浮くほど暴れてる。でも、ガリさんもぴくりともしない。

 首絞めてる……よね? それ、気道ふさいでる? それとも柔道とかの締め技? そのおなかに、ショウ・キさんの拳が埋まった。

 へたへたへた……と、サル・シュくんが倒れる。満場の歓声。

 やられるのを喜ばれるって、サル・シュくん、いたずらしすぎだよ、キミ!

 ショウ・キさんが私の手を持ち上げた。

「ハルの勝ちーっ!」

 玄関にいた人達がオーッ、てキラ・シハウリング。マキメイさんまで出てきて呆然としてた。

「いやいやいや、サル・シュくんを寝かせたのはガリさんとショウ・キさんっ!」

「最初に頭突きしたハルの勝ち! お、リョウ・カっ! 今日からハルがサル・シュの上で、四位な!」

 リョウさんが、無言でショウ・キさんから私を奪い取った。めっちゃショウ・キさん睨んでる。

「あ、わりぃわりぃっ! そういう意味でハルに触ったんじゃねぇから、抜くなよ……」

 ショウ・キさんがずずいっと、後ろ足引いた。

「ちょっとリョウさん…………離して……誰か、サル・シュくんを部屋に連れて行ってあげてよっ!」

 なんで放置なの。ガリさんも既にいないっ! 気配消すようになったら、もう、動きが全然見えなくなった。

「ここが一番涼しいぞ」

「寒いって言うのよこれは!」

「サル・シュ様っ!」

 マキメイさんが駆けてきてサル・シュくんの顔をはたはた叩く。

「ハルナ様……?」

「大丈夫大丈夫、寝てるだけ。ここ何日か、寝てなかったでしょ?」

「……そういえば…………そうでしょうか?」

 言ってから、彼女はカッと真っ赤になって奥に引っ込んだ。そして、毛布を持って来てサル・シュくんに掛ける。

 いやー……下が石畳だから、毛布掛けてもあんまり温まらないと思うな……

「どなたか……サル・シュ様を部屋へお連れくださいませんか?」

 言葉通じないのに、マキメイさん、キラ・シの戦士に頼む。そして、ショウ・キさんを見つけてニコッと笑った。

「えっ? 俺っ!」

 ショウ・キさんが子供みたいに駄々をこねる。

「ほら、マキメイさんからもお願いされてるよ、ショウ・キさん。サル・シュくんを連れてってあげて」

 ショウ・キさん、きっとマキメイさんみたいな人が好みなんじゃないのかな? サル・シュくんが先に手をつけてなければ絶対自分のものにしてたよね。マキメイさんもきっとそれが分かってて、ナニカというとショウ・キさんに用事を頼んでる。主に力仕事だから、大体はショウ・キさんも軽々受けてた。

「サル・シュくんなんて、ショウ・キさんには軽いでしょ。早く連れてってあげてよ」

「どんだけ綺麗な顔してたってっ、男なんざ担ぎたくねーよっ! サナッ! 持ってけ!」

 いやいやいやいや、サル・シュくんより小さい子たちで運ぼうとしたら、そんな……足引きずってるし……

「ショウ・キさんっ!」

 マキメイさんが怒った。

  

 

  

 

  

 

 

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