「怒るなよ……う…………」
しぶしぶ、ショウ・キさんが肩に担いで連れて行った。
キラ・シの女官さんの中でも、マキメイさんとその娘さんのミアちゃんだけが、サル・シュくんの紋を頬に描かれたまま。上書きされてないから薄れて来てるけど、積極的に洗ってたらこんなに持たない筈。
キラ・シはあの頬の紅、出陣するときとか、たまに書き足すらしい。刺青ではないんだけど、消えないから、ずっと残ってるって感じ。
リョウさんが紅花の粉を持ってたから指につけてみたら真っ赤になってビビって、慌てて洗ってたら三日ぐらいで取れたのに、マキメイさんはずっと赤い。描き足してるんだろうな。
「そうだ、リョウさん。お風呂の話だけど。とりあえず、玄関前に井戸を掘って、そこで軽くみんな、流して貰わない?
それで、お風呂の壁を取っ払ってドアをつけて、外から出入りできるようにするとか、どう?
その代わり、外からの出入り口が一つ増えるから、見張りを増やさないと行けなくなるけど。その分、城壁の壁を復活させて囲ってしまってもいいし。城壁は、それでなくても復活させなきゃいけないし」
マキメイさんに城壁の修復を頼んでもらおうとしたけど、そんなのキラ・シにやってもらえばいいんだよね? お金を使う必要はないか。
「………イド?」
「平地に、水を汲み出す穴を掘るの」
手筈を全部マキメイさんに伝えておいた。
スコップと、井戸の煉瓦と、やぐらとか釣瓶。
また戦士が帰って来て地図を書き足してたら、……ガリさんが、短冊を貰う列に並んでた!
キラ・シって、ナニカあるとぐるっと周り囲んで手を出してくるから、一列に並べっ! って教えたんだ。
族長まで列に入ってるとか、おかしい。しかも、誰も先を譲らないし。確かに、みんな対等なんだな……でも、何度見てもおかしい……
「こことこことこことこことこことここと……52枚」
地図をとんとん指さしながら、とんでもない数字言う。笑ってしまいそう。ガリさんとかサル・シュくんのはもう100枚作っておいてあるから52枚数えて渡す。半分なくなるってどういうことなの?
「白いのが、ここに23枚、ここに12枚……」
その数を暗記してるのも凄いよね。戦士の半数は、一つの村行ったら帰ってくるよ。
ガリさんが、私の肩を抱いて、首筋にキス……えっキス? なんで?
「ル・マが世話になった。ありがたい」
ああ、温石帯のお礼? びっくりした!
あ、びっくりした分、思い付いた! 竹簡に数字を書くことを教えたら、毎回帰って来なくて良くなるかな? とすると、筆記用具が戦士の数だけいるんだよね。筆かぁ……筆の鍛練なぁ。
私でもけっこう時間かかったからなぁ……
目の前に、ガリさんの……睫毛? えっ!
真っ黒なガリさんの目に、私の顔が映ってる……
キス……される……?
どうして?
「カァッ!」
鼓膜痛い音。ナニ? なんか、ぶんぶん振り回されてるっ! 吐き気っ! ナニ? どうなってるのっ!
リョウさんのにおいだ。私、リョウさんに抱きしめられてた。後ろから。
「ガリっ! ナニしようとしてたっ!」
「味見だ」
「お前だけは、ハルの命が危ないとき以外、二度とハルに触るな!」
「来年は俺のだぞ」
「それでもだっ!」
「……了解」
ガリさんが、掌を肩の辺りでヒラヒラさせる。
私を、見る。
凄い、流し目っ!
男の人なのに流し目が、なんて色っぽい…………あ、真っ暗。
リョウさんに、目をふさがれた。
「ガリに近寄るなっ、ハル!」
「私は立ってただけだよー…………」
「ガリが目の前にいるのに、ぼうっとするな」
「あー……それは、考え事してたから……」
ナニ考えてたっけ……ふっとんだ。
「他の男の前で考え事をするなっ!」
「えーーーーーーー……」
「えーっじゃないっ!」
リョウさんのコレも対外だよね……って、ファッ! リョウさんが手を離してくれたからようやく目が開いたけど、まだガリさんそこにいたっ!
そういや、前もこうだったっけ?
気配消してるガリさんって、本当、これはこれで、凄いよね。移動してるのとか、全然わからない。あのサル・シュくんが後ろ取られるとか、怖っ。そして、ガリさんも、わざと人の後ろに立つよね。
わしゃわしゃと髪を布巾で拭きながらずっと私を見てる。そうだよね、キラ・シって髪が長いから、頻繁にお風呂入ると乾かすの大変。他の人、洗いっぱなしで肩が濡れてても気にしてないけど、ガリさんはいつも布巾で頭拭いてるね。なにげに細かいよね、ガリさん。
「あっ! 思い出した!」
さっき考えてたの。
そうだ、数字を竹簡に書いてもらえばいいと思ったんだ。
「ハル、ナニを考えている?」
夜、リョウさんの部屋に行って、ベッドに腰掛けても考えてた。墨を持ち歩いて書いてもらえばいいか? どれぐらい摩擦で消えないだろう? まずは数字を覚えてもらえば、随分楽になるはず。9ぐらいまでなら簡単だから、大丈夫かな?
「ハル」
「はいっ!」
うっかり、リョウさんの部屋の床に、持ち歩いてた筆で『墨』ってメモしちゃった。
「お前を抱きたいのだが、いいのか?」
あー、そういう話でしたかー………………
ソウデスネ。
リョウさんおもたーいっ……キャハッ……
「イタタタタタ………………」
くっ……リョウさんとは頭の中では初めてじゃなかったから、何も考えてなかったけど、そういえば私、処女だった………………股間から体がピシッて割れそうっ!
「ハルナ様、はい、温石帯です。倍の石をつけておきました」
「ありがとう……」
でも、今回は冷やした方がいいと思うの……
「円匙(スコップ)を数本用意いたしました。
キラ・シのかたにお渡して、城門内側の木を抜いてくださいとお願いしました。リョウ様が伝えてくださって、あっというまに木を抜いてくださいましたよ! というか、素手で木を殴って折って、掘り返してらっしゃいました! 抱えるような大木ではなかったですが…………人間の手で殴って、木って折れるのですね……」
ああ……先に手配してて良かった……
たしか私ぐらいの太さの木だったよね。そりゃ、何回かやったら折れるんじゃないかな。
そういえば『前』子供に刀で木を伐らせるとか言ってたけど、大人だったら、殴って折ってるんじゃないだろうか? だから『斧』を思い付かなかったんじゃない?
土木作業は家を建てるときだけだから、村の外にある大木を伐ることなんて無いだろうし。村の中にそんな大木があっても、今さら伐らないだろうし。使い勝手の良い太さの木なら、たしかに、斧が無くても十分なんだろうな。
炉があったら、頻繁に刀を打ち直してるみたいだし。
なんというか……まず腕力でカタをつける。それでできなければ刀を使う。それでできなけれは諦める。って感じだよね。
女の人にだけじゃなく、すべてに対して『無理強い』をしない。基本は平和主義なんだよね、キラ・シって。
キラ・シが平和主義って変な感じだけど。
勝てる戦しかしない。無理したら勝てるようなことなら手を出さない。車李(しゃき)を制圧できる強さがあっても、あれを『運営』するのは大変だから手を出さない、とか。分を知ってる。
これは、トップがガリさんだからじゃないかとも思う。
サル・シュくんが族長なら、突っ込んでそう。
スコップ初めて見て驚いてたキラ・シもかわいかったな。それで簡単に木を掘り出す腕力はやっぱり凄い。
今度は全員がスコップ持ってるから、掘るの速い速い。
そして、リョウさんがずっと見てた。
そして、私はリョウさんに十日間抱かれ続けた。
筋肉痛が終わらないよ……
「ハル、凄い痛そうだな……」
ル・マちゃんがおろおろしてくれてる。
「大丈夫……死ぬような物じゃないから……筋肉痛」
「キンニクツウ?」
「普段使わない筋肉を使うと痛くなるの」
「キンイク?」
あれ? キラ・シって筋肉ってなかったっけ? 私の発音が聞き取れなかっただけ?
「こういう……力を入れると盛り上がる筋」
「ああ……それな。俺も、初めて馬に乗ったとき、体が割れるかと思った。ハルはずっと城の中にいたのに、ナニに乗ったんだ?」
リョウさんに……なんて、言えるわけない。
確かに乗せられた……
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