「あそこだけじゃないよガリさん、塔が全部なくなってるもん。ほら、正門の上まで崩れて……」
うわ…、正門崩れてる。キラ・シが撤退してなかったら閉じ込められてたか、押しつぶされたかしたよね。
「とりあえず、今日明日はどうにもなりそうにないから、村で休憩しない?」
マキメイさんとか、もうへたり込んでる。
暑いし!
「あそこに、広い家があるから、乗っ取ろう」
ガリさんが全開で近づいたら、地響きで出てきてたお金持ちっぽい住民が、脱兎の勢いで王城に逃げた。
そりゃ、あの迫力のある馬に乗った迫力のあるガリさんだけでも怖いのに、後ろにこんな300人がいたらびびるよね。ダンプカーが家に突っ込んできたみたいなもん。
前、乗っ取った小宮殿。全員がまとめて休めるっていいよねー。あー疲れた。久々のベッドっ!
というか、プールっ!
私が入る前にキラ・シが飛び込んだから一瞬で泥水になった……クッ! でも、洗わないよりましなので入る。あー……髪とか、砂が入ってかゆいっ!
そしてベッドっ! ふわふわのクッションにダイブしたら、そのまま寝てしまった。
朝? 隣にル・マちゃん、リョウさん、ル・マちゃんの隣にサル・シュくん。安定の『カ』一族寝室。
私がリョウさんに抱きついてて、ル・マちゃんが私に抱きついてて、サル・シュくんがル・マちゃん抱いてる。
サル・シュくんと目があった、ニャハって手を振ってるから振り返したら、その手をリョウさんに握られた。そのまま上にのしっ……って……えっ?
サル・シュくんが、ル・マちゃん抱いて出て行った。
あんなところでいきなり処女を散らすとは思わなかった……
いっっったいっ!
ここは階段無いから羅季(らき)よりましだけど……
あ……なんか、大広間に凄いものが積み上がってる。
「マキメイさん、どうしたの?」
「車李の大臣さんが来て、貢ぎ物を置いて行ったようです。無条件降伏ということでした」
昨日の今日で? しかも大臣?
もしかして……車李の王族、あれで全部亡くなった?
「あっ、リョウさんっ! リョウさんっ! イタタタッッッ!」
「寝てろ、ハル。無茶をして済まなかった」
「それはいいけど……留枝(るし)っ! 留枝を陥としてっ! 羅季を取られる!」
「サール・シュっ!」
サル・シュくんが、リョウさんの肩を叩いて出て行った。
「レイ・カさんもっ、レイ・カさんもっ!」
「レイ、行け」
リョウさんが言う前に、レイ・カさんも号令上げて走ってた。サル・シュくんとニコイチなのかな?
「リョウさん、あれ、どうやって持ってきたの、貢ぎ物? 誰が来たの?」
「ミゲシというダイジンだ。オウゾクガゼンブミマカラレタと言っていた。シャキノオウトナリタミヲミチビイテクレと」
「えっ! それって、車李の王様になれってことだよ?」
「オウサマ?」
「族長っ!」
リョウさんの後ろから歩いてきてたガリさんにも聞こえたらしい。目を丸くしてた。小さく小首を傾げながらリョウさんの隣に立つ。
リョウさん大きいんだけど、ガリさんのほうが背が高いから、とたんにリョウさんが、ぶんぷく茶釜の狸みたいに見える。
ガリさんが少し首を前に倒して、顔ごと私を真正面に見た。説明してほしいときの癖だって、もう分かってる。めっちゃ怖いけど……
「昨日の『山ざらい』でシロを崩したときに、王族が全員死んだんだって。だから車李がキラ・シのものに、なったの。だから、ガリさんに、車李の族長になってくれって」
ガリさんが無言で、城を軽く指した。
あのでかい城の? という驚きが隠れてて笑いたくなる。
多分、王族の人達は他にもどこかにいるだろうけど、とにかく、目の前の敵に、これ以上城を壊されないように白旗上げたんだろう。街は無事だろうし。
「今は行かなくていいよね。お城崩れてて大変……周りを見張って、戦士が入らないようにすれば、盗られないし」
どのみち、キラ・シに政治はできないし。
傭兵になるつもりだったのに、王族全部死ぬとかっ!
これは、ゼルブの民を早くとってしまわないと立ち行かないっ!
「あ、サル・シュくんに、留枝の『ヘンナノ』を殺さないようにって伝令してっ!」
遅かった……
前と同じように、留枝は羅季に兵を出そうとしてたけど、まだ城内にいるときにサル・シュくんに殴り込みを受けて、即効全壊したらしい。
「すっごいっ、聞いて聞いてーっ!『刀折り』出したら、20人向こうまで切れた!」
サル・シュくんのかわいらしい宣言でキラ・シがわいた。
城内に密集してたから、カマイタチが届く範囲にたくさん人がいたみたい。
これでサル・シュくんも『特殊スキル 刀折り(威力20)』に繰り上げ。
今回は、留枝王の前にチヌさんが出てきたから、ソレを殺して留枝王殺したらしい……そのあと、サギさんが、サル・シュくんにひざまずいて、一緒にここまで連いてきた。
ゼルブが手に入ったのはいいけど、一番強いチヌさんいないのかぁ……
でも逆に、サギさん以下、ゼルブ全員がサル・シュくんに震え上がってた。
どうやら、本当に、ラクラク一撃でチヌさんを倒したらしい。そして、サル・シュくん以上のガリさんを見て、もう、平身低頭で、ゼルブの人、失禁しっぱなし。
「ゼルブの民はキラ・シに未来永劫従属いたしますっ!」
そんな宣言貰っちゃった。
まぁ、いいか。
もう随分、地図は書いてたんだけど、サギさんに追加してもらって、エンピツも貰ったし、子供の養育も万全になった。
問題は、というと……私がまだ、妊娠してないことだな。
前はここで子供生んで死んだんだもんね……
いや、今、毎晩種付けされてるけど……
ボーとするわ、筋肉痛酷いわ、散々だ……
このあとどうなるんだろうなぁ……
そうだ、体力つけないといけないんだった!
でも、リョウさんもキラ・シも歩かせてくれない!
「こんなに大事にされたら、子供生めないっ! 体力つけないといけないのっ! ゆっくり動くから、歩くの止めないでっ! このまま体力無くなったら、生む前に私が死んじゃうよっ!」
もう、あんなことはゴメンだ。
リョウさんの子供の顔ぐらい見たいっ!
そう、思ったのに……
うっかりした……
出陣を見送ったあと、思わずそこで思い付いたことがあって、枝で地面にメモしてたら、日焼けしすぎた。
背中とか、両腕とか、耳とか膝とか赤く晴れ上がっちゃって、プールで冷やしてたんだけど……
ブツブツブツッ……て水ぶくれが出て…………このあと治ると思ったら、赤黒く膿んで腐って熱が出た……
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