そしてまた、富士見台の家……
うあー……あそこで、日焼けのしすぎで、感染症かなんかなって高熱のまま死んじゃったんだ、私……
日焼け怖いっ!
そして、森。
もう、何回目だろう……こっちの世界に来るの。
というか、どうやったら私、死ねるんだろう?
こっちで死んだらあっちでも死ねると思ったのに、時間を巻き戻されるとは思わなかったな……
あ、クサイ…………リョウさんが……
両手を開いて振ったら、突きつけられたのは刀じゃなく、矢だった。
馬の上から……ガリさんが、弓で私を狙ってる。
………………っ! えっ! リョウさんじゃないこともあるのっ?
ナニ? ランダムなの? この最初って!
そしてまた、私失禁。
ガリさんが見た目通り怖くないと知ったとはいえ、今はまだ敵同士で、武器向けられてるの、めっっっちゃ怖い……心臓止まりそうっ! もう一度言うけど、めっっっっちゃくちゃ、怖い。
「女……」
「はい……そう、です……」
私が答えたから、ただ呟いただけのガリさんの目が少し丸くなった。
「キラ・シの女か」
「キラ・シじゃないですけど、女です」
「どうしたガリ」
リョウさんっ! 遅いっ!
後ろからリョウさん出てきたけど、遅いよね? これって、私、ガリさんのものだよね?
「はぐれモノがいる」
リョウさんは私をちらっと見てガリさんを見た。
「連れて行くのか?」
「先に行け」
「おう」
リョウさんが行っちゃったーっ! アアーッ!
ガリさんが馬を下りた。
はぁ………………これじゃぁリョウさんと赤の他人だよね…………うぁーっ……
とか、思ってたら、ガリさんが毛皮脱いだ。
あそこだけ。
「ひっ」
え? リョウさんには降りるまでするなって言ってたよね?
「初めてか?」
コクコク。
ガリさんが、笑った。よかった、笑えるんだ?
知ってるけど、そう思ってしまった。
「気を抜いていろ」
キス、されて…………意識飛んだ。
山を降りてる間、毎晩、抱かれた。
女の体って仕方ないな……それは、前も分かってたんだけど……
ガリさんを、好きになっちゃってた。
気がついたらガリさんに背負われてて、崖を降りてて、失禁して失神。抱かれて目覚めて、シテる最中に口に木の実を突っ込まれる。
ガリさんって凄い、指、長い。
背負われて起きてたときも、平地になるたびにナニか食べさせられた。飲み水はずっと口移し。
駄目だ……頭溶ける……
ガリさん……リョウさんより何もかも巧い…………さすが族長……こんなスキルまで高いの?
気がついたら、私はル・マちゃんの後ろに乗ってた。
腰をル・マちゃんと結ばれて、手も、ル・マちゃんのおなかで結ばれてる。崖で落ちないよう、安全のためだ、って聞いた気はした。だから、山を昇るときは前に座らされるし、降りるときは後ろ。それはリョウさんも一緒だった。
「ガリさんは……?」
「今やったら孕むから、そばにいられると困るってさ」
不機嫌そうなル・マちゃんの声が聞こえた。
子供作るためにやってたわけじゃなかったの?
一週間ぐらい、ル・マちゃんの馬で降りたのかな。相変わらず、凄い崖に失禁失神の繰り返し。
また、気がついたらガリさんの馬にいて、ずっと抱かれてた。
ずっと失神してたから、崖下り怖くなくて助かったけど……
あ、羅季城の尖塔が見えた。
また私、ル・マちゃんの後ろにいるし……そっか、ガリさんもう戦闘モードだから……なんかもう、新しいこともないし、…………眠い…………
起きたら、たき火があった。
え? 月が見えない……というか、ここ、羅季城の中っ? あの、最初の玄関の所っ!
うわっ…………みんな、洞窟だと思って、たき火して寝てる。玄関は誰か立ってるけど…………
あの時、私が何も言わなかったらこうなってたんだ?
私は……?
「寝てていいぞ」
あ、ル・マちゃんの馬の後ろに乗ってる? 手も腰も、結ばれたままだ。
そっか、『ガリさんの女』だから、サル・シュくんもリョウさんも触れないんだ?
じゃなくてっ!
戸が、全部、しまってる!
「待ち伏せがあるよっ! 起きてっ!」
がっつり大の字で寝てたサル・シュくんが立ち上がったのと、扉が開いて兵士が入ってきたのが同時だった。
やっばっ! 今のは明らかに私の声が掛け声になった気がする。
今は、ル・マちゃんが中央で、サル・シュくんとリョウさんが脇にいたから、ル・マちゃんは誰も殺さなかったけど、もちろん、羅季兵全滅。
これは、私が声を掛けなくても全滅しただろうな……
シャーッ! って、サル・シュくんが景気よく吠えてるけど、ル・マちゃんが凄く悔しそう。
「俺だって、女乗せてなかったら戦えたのにっ!」
「お前も女なんだから、守られてろよっ!」
ケラケラッ、と笑ったサル・シュくんを案の定、ル・マちゃんが刀の腹で叩き落とした。
「それより、女。なぜ待ち伏せがあると知っていた?」
リョウさんにメッチャ睨まれた!
ああ、私、まだ、名乗ってなかった!
何も聞かずに待ち伏せって言っちゃったけど、これは、やっぱり、ガリさんあの窓に飛び込んだんだよね? この歴史は変わってないよね?
「それよりリョウ叔父! これっ! 穴があいてるっ! この向こうは見てねーよっ! サナっ、さっさと死体を外に出せっ!」
サル・シュくんが奥を覗きながら、小さい子たちに指示をしてる。リョウさんは、ずっと私を睨んだまま。
「その女が叫んだから間に合ったんだし、そんな怒ることか? 敵と通じてたら、アソコで叫んでないだろ? なー? というか、喋れたんだ?
名前ある?」
「ハ……ハルナ、だよ」
「おー、本当に喋ってる!」
「本当にってなんだっ! 喋ってきた、って言っただろっ!」
ル・マちゃんがサル・シュくんに殴り掛かる。サル・シュくんが避ける。相変わらず。
「ハル、エライッ! 助かったぜ。リョウ叔父、どうする? あの洞窟、行く?」
『名前ある?』って聞かれるとは思わなかったな……
今、何時なんだろう? なんかもうすぐ、ガリさんが来そうな気がする。
「いや、朝まで待とう。それより、ハル、なぜ待ち伏せがわかった?」
「あ……? えっと………………ガリさんが、上から降りてきたでしょ?」
「お前寝てただろ」
ル・マちゃんに軽く肘鉄食らった。
「ガリさんがヤマ……一気にたくさんの人斬ったの、見たもんっ!」
ここで『山ざらい』って言ったらやばいよね。
「あー……あの時も起きてたのか?」
ル・マちゃんが馬の足で死体を外に蹴っ飛ばす。相変わらず起用だな、キラ・シの馬。
「あの時、ガリさん、この上から降りてきたのに、全部閉まってるっておかしいでしょ? だから、誰かが閉めたんだよ。ずっと起きてたら言えたけど、……ごめんなさい……」
「…………謝らなくてもいいが……なぜそんなことに気付いた?」
「私も以前、こんな家に住んでたから。ここでたき火してるってことは、ここを行き止まりの洞窟と間違えてるんだろうと思って……」
「その通りだよな、リョウ叔父。みんな洞窟だと思った」
そしてやっぱり、危険だと思ってるサル・シュくんは、リョウさんの指示があるまで奥にいかない。リョウさんは私が不審なので指示を出さない。
どうしよう……
私が役に立つところを見せないと、このままだよね? 別に、私が何もしなくてもいいような気もするけど……私が羅季のこと、教えなかったらどうなるんだろう?
でも、ずっとガリさんに抱かれてるわけじゃないし、ぼーっと奥に居るだけだと絶対ヒマだし。でも、女官さんみたいに働くのもいやだし…………なら、今から役に立っておく方がいいよね?『参謀』の役が欲しい。頭脳労働に特化したい。だって、力仕事なんてできないし……
「その、壁際に灯台があるから、火をつけてみて?」
「トウダイ?」
「ル・マちゃん、火を一枝取ってくれる?」
「なんで俺の名前知ってるんだ?」
ル・マちゃんが、ひそかに私の手をちゅるちゅる触ってた。私のマニキュアが好きなのは同じなんだね。
「さ……さっき、サル・シュくんが言ってたでしょ?」
「いや……?」
玄関フロアをを馬でガツガツ歩き回ってたサル・シュくんが、私に、真正面向いた。
ゆっくり腕を組んで、笑みを消す。
ヤバイ……、『静かなサル・シュくん』だ……うわ、なんか……逆鱗にふれたっ!
「あの待ち伏せのあとは、一度も呼ばれてないし、言って、ない」
そこ突っ込むかっ!
「お前、ナニもんだ?」
うあーっ……全然信用されてない! 当たり前か、全然喋ってないもんな。私はもう、凄い仲良い気分だったから、……まずい。これは気を引き締めないと、間諜として殺されちゃうぞ。
どうすれば……
「ガ……ガリさんの女だよ」
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