やっぱり黄色い鎧。
「シャキ? どこの部族だ? 川のこちらか向こうか?」
「向こうだけど、今、こっちに5000人が向かってる!」
リョウさんが、外に出て指笛を吹いた。全員集まれ、だ。
マキメイさんに絵を書く用意をしてもらった。
「そこの橋……木でできた川を渡るところに、車李(しゃき)の戦士が5000人来るよっ!」
丁度玄関に入ってたガリさんが、私を見て、リョウさんと見つめ合って、クルッと踵を返した。
「ガリ・アっ!」
ガリさんが、右拳を掲げて自分の名前を叫ぶ。
ガリさんの馬と、ガリさんの部隊が馬に乗り上げた。ガリさんが走ってくとその人達が出ていく。
絵を描く道具が揃ったから、手早く、左下というか、羅季(らき)周辺だけ書いていく。元々が、そんな手の込んだものじゃないから、二分ぐらい。
「5000か……」
「リョウさんは出ないの?」
出なくても楽勝だけど、ここで焦ってないのはおかしい。
「ここの守りは必要だ。それに、コレが5000なら、ガリで圧勝だろう」
片手で、大きな黄色い兵士を玄関から投げ出す。だよね、子供でも簡単にこれぐらい殺すんだもんね。
「それより、ハル。これは、なんだ?」
「地図だよ」
「チズ?」
「ココが羅季の、このお城。南の貴信(きしん)、覇魔流(はまる)、そこの黄色い河がサイコウ。で、ここがサイコウを渡る橋」
「……ぁあ…………」
ものすごく納得した声を、リョウさんが出した。これ、何回聞いても気持ちいい!
「あとで、村の位置とか、みんなに教えてもらったら、描き込むからね。便利になるよ!」
そうだ、地図、ガリさんが帰って来るまでに、大陸全部完成させておこう。他の国も書き加えていく。
リョウさんがずっとそこで立って見てた。
そっか、リョウさんは、敵の迎撃よりこの地図の方が気になってるんだ? 頭脳派だから。体育会系軍師だもんな。
「こんなもんかな……」
覚えている限り、村の位置も書き込んでおいた。
もう二つ、画板を用意してもらって、車李(しゃき)の外観と、街と王城の見取り図書いた。もう、慣れたもんだ。
前回はうっかり日焼けして、体が腐って落ちて、感染症で死んだっぽい。
あれやばいっ! 本当にヤバイっ!
そうだよ、現代でもグアムでメッチャ焼いちゃったとき、水ぶくれ出ただけでも注射打たれたんだよ。注射ないと、日焼けで人って死ぬんだっ! 怖い!
どんどん自分の腕が腐っていくの、怖かったなぁ……
今考えたら、腕を切断した方が良かったんだわ。あの時は、ようやくその決断ついたときにはもう、高熱が出てて喋れなかった。
今度は、日の下に出ないようにしないといけない。
キラ・シにも注意しておかないと、それこそサル・シュくんとかシル・アさんとか、死にかけかねない。
「ハルー、何してるんだ?」
「胸揉まないの、ル・マちゃん」
後ろから抱きついてモミモミ。本当に『身内』だとベタベタするんだね。前でもずっと腕に抱きついてたのに。
「だって、ハルの体、気持ちいい……」
「お尻に抱きつかないでよっ!」
どうにか、おなかに抱きつくので我慢してもらった。
前は腕だったのに、今は後ろにぺっとり。地味に暑い……
「うわー……ハル、場所変わって?」
サル・シュくんが指を加えて甘えてきた。
「私もそうしてあげたいよ……」
ル・マちゃんが後ろでサル・シュくんにイーッてしてる。
「あっ……ちょっ……ル・マちゃんッ、動かないでっ! 絵が描けないよ!」
サル・シュくんとの殴り合いで私まで振動がっ!
リョウさんが、ル・マちゃんを剥がして、サル・シュくんに投げつけた。
「ハルの邪魔をするなら、二度と抱きつくな」
「わ…………わかったよ……胸を揉むなーっ!」
リョウさんに殊勝に謝ったかと思ったら、がっつりもみ込んだサル・シュくんの顔に肘鉄! 相変わらずだなぁ、もう……
「ハル、それはなんだ?」
「車李の王城。この城壁の長さが……ガリさん6000人分。高さが四人分。厚さが一人半。この大陸で、二番目に大きい都だって」
リョウさんが、画板の裏を覗いた。
ないよ、そこに何もないよ。
鏡を見た熊みたい。何回見てもかわいい。
「リョウさん、ちょっと外に出ていいかな?」
「何をしに」
「この羅季のお城も描いておきたい。それで、あの車李の大きさがよく分かるでしょ?」
「…………どういうのかわからんが、どうしたらいい?」
「一緒に外に出てくれるだけでいいよ」
「馬には乗せんぞ。ガリに殺される」
「表に出るだけ。大丈夫、伝令が来たときの範囲からは出ないから」
羅季にも城壁があったのを覇魔流(はまる)が壊したって、『前回』マキメイさんが言ってた。
城壁を歩いて距離図る。
一歩40センチとして、150歩。60メートル。角が90度じゃないから、真四角の敷地じゃないみたいだけど、ほぼ60メートル角の敷地。車李(しゃき)が1200メートルだから、20倍だね。
車李は丘の上で四方に門があって、360度攻められるけど、羅季は正面しか攻められない。三方が崖って凄い。
これ、人間の手で削ってないよね? なんでこんな、『囲まれた岩盤の細い山』なんてものができるんだろう?
その『細い山』の内側を、何百年もかけて削ったんだよね。凄いなぁ……
車李城だって一枚岩って言ってた。どこまでで一枚岩なのか知らないけど、あの塔とか削りだしたんだもんね。
この世界は、積み上げるより削る方が好きなのかな?
って、前も思ったことがある……かな?
羅季城も画板に描いた。玄関から見上げた透視図。
実際には、凄く濃い焦げ茶の岩で、遠くから見ると真っ黒に見えるけど、薄墨で影だけつけた。
リョウさんもマキメイさんたちもあんぐりと口をあけてる。
「素晴らしいですっ! ハルナ様っ! この羅季城でございますねっ! まぁっ…………なんて素晴らしいっ!」
ありがとうありがとう。描き甲斐があるなぁ。嬉しい。
ただの丸写しで芸術性は全くないけど、『説明図』なら巧いからね、私。
車李城の絵の方に、羅季城のシルエットだけ追加。
「これが羅季城。車李はその200倍」
「ああっ!」
リョウさんも、声を出して驚いてくれた。
羅季城を絵にしたことで、車李城がようやく、リョウさんの頭の中で立体になったみたい。あの制圧の仕方だと、あんまり役に立たないけどね。ガリさんの『山ざらい』一発だから。
逆にサル・シュくんとル・マちゃんは、遠くでじっと見てるだけ。特にサル・シュくんは腕を組んで機嫌悪そう。ナニ? 一体……
そう言えば、『前回』も、地図には喜んでたけど、透視図の方は、遠くで見てた……よね?
どうせなので、地図の拡大図も全部描いて、覚えているだけ村も描いて、釘も打っておいた。短冊も用意。
よし。
当然のように、凱旋のガリさんたちをお風呂に突っ込んで、地図の説明をして、短冊を刺して、はぁ……有意義な一日だった!
お風呂に入ってバタンキュー……
ガリさんにキスされた衝撃で目覚めるとか、心臓に悪い。
ぼーっとする。
ガリさん出て行ったけど、体が動かない……
気持ちいいけど、面倒だな……これ……
「ハルー俺もー……」
「え?」
ル・マちゃんにも、キス、された。
なんでっ!
「ナニしてんのル・マっ!」
「サル・シュくんいいとこきたっ! 助けてっ!」
「助けてってっ、俺、入れないっ!」
「えー……だって、父上と同じことしたーい。ハル気持ちいーっ! 父上に抱かれたのどうだった?」
なんてこと聞いてくるのこの子……。
「俺だって男に生まれたかったんだっ! 父上のすることは真似してきたんだからっ!」
って、私口説くのやめてっ!
ル・マちゃんと絡まってるところにガリさん来た。
「俺のだ」
ちょっと……娘と父親で女取り合うとか、なにそのエロ漫画展開!
もう、ル・マちゃん私の腕に抱きついたまま、離れない。だから、サル・シュくんとキスすら絶対してない。だって、サル・シュくん、私には近づいて来ないもん。
ああそうか。
サル・シュくんがしてくれない分、私にするんだ? 私いじってるときのル・マちゃん、凄い楽しそうな顔してて……心は男なんだろうな、って思う。
そりゃ、男に押し倒されるのいやだろう。
でも、これだと、サル・シュくんがル・マちゃんを抱いちゃって、どうのこうのっていう展開は、絶対なさそう。
あれからもう、サル・シュくん、お城に帰って来なくなっちゃった。ずっと最前線。
「サル・シュ、こぇーこぇー。なんでずっと怒ってんの、あいつ」
ショウ・キさんが゜帰って来るたびに笑ってる。
車李の一万と二万も下して、車李城も『山ざらい』で雅音帑(がねど)王死んだみたいだけど、キラ・シもまだ羅季城にいる。この先どうするのかな……あっちに移らないのかな?
だから、留枝(るし)城もまだ制圧してないんだよね。だからゼルブもいない。
川も警戒してるし、制圧もしてるし、でも羅季が本拠だし……もう移動距離が凄いことになってる。
ガリさん毎日帰ってくる。四カ月目のおなか、なでなでされると嬉しい。凄い子煩悩だね。
前回ならもう留枝がサル・シュくんに潰されてる時期を過ぎたけど……
あ……
女官の中にサギさんがいたっ……
「出陣っ!」
「留枝が来るよっ! お城の中に敵がいる! マキメイさんっ、知らない女官さんから離れて!」
私が叫ぶより少し前にガリさんがお城の外に駆けだした。
川向こうに留枝軍が来たみたい。どうやってわかったの? 笛が聞こえた? こんなうるさいお城の中で?
「サル・シュくんっ! こっちきてっ! 変な敵がいるのよっ! 速いのっ! キミじゃないと無理!」
怖い怖い怖いっ! ガリさんいないなら、サル・シュくんいないと、絶対無理っ。だって、あのゼルブの人達、リョウさんじゃ……無理だ……
「陛下確保っ!」
塔の上の方で誰かが叫んだっ!
えっ? 皇帝を盗りに来たの? キラ・シじゃなく?
なんか、掛けられたっ! これ、油っ?
油! 油を掛けた人をサル・シュくんが切り上げてこっちに飛んで来る。
「燃やせっ!」
松明が投げ込まれた。
サル・シュくんが私とル・マちゃんを突き飛ばした。私よりル・マちゃんのほうが重いから、転がって玄関まで……でも、彼が火に包まれた!
うそっ……燃え上がった髪を刀で切り落として、燃えてる服を床転がって消そうとしてるけど、黒い服の三人にたかられて……血がっ!
女官さんの周りから火がっ……熱いっ煙いっ!
なんで? お城が……崩れるっ……
「ハルっ!」
後ろから首を引っ掴まれて……あっ……ガリさんっ!
前戦にいたんじゃないのっ!
玄関まで、走る、けど、狭いっ!
あの玄関、わざと狭くなってるからっ……
お城がっ……崩れたっ……!
綺麗な……お月さま…………
リョウさんが、駆けてくる……ル・マちゃんも……
ガリさんが、抱きしめてくれて…………
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