【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。94 ~羅季が本拠~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 やっぱり黄色い鎧。

「シャキ? どこの部族だ? 川のこちらか向こうか?」

「向こうだけど、今、こっちに5000人が向かってる!」

 リョウさんが、外に出て指笛を吹いた。全員集まれ、だ。

 マキメイさんに絵を書く用意をしてもらった。

「そこの橋……木でできた川を渡るところに、車李(しゃき)の戦士が5000人来るよっ!」

 丁度玄関に入ってたガリさんが、私を見て、リョウさんと見つめ合って、クルッと踵を返した。

「ガリ・アっ!」

 ガリさんが、右拳を掲げて自分の名前を叫ぶ。

 ガリさんの馬と、ガリさんの部隊が馬に乗り上げた。ガリさんが走ってくとその人達が出ていく。

 絵を描く道具が揃ったから、手早く、左下というか、羅季(らき)周辺だけ書いていく。元々が、そんな手の込んだものじゃないから、二分ぐらい。

「5000か……」

「リョウさんは出ないの?」

 出なくても楽勝だけど、ここで焦ってないのはおかしい。

「ここの守りは必要だ。それに、コレが5000なら、ガリで圧勝だろう」

 片手で、大きな黄色い兵士を玄関から投げ出す。だよね、子供でも簡単にこれぐらい殺すんだもんね。

「それより、ハル。これは、なんだ?」

「地図だよ」

「チズ?」

「ココが羅季の、このお城。南の貴信(きしん)、覇魔流(はまる)、そこの黄色い河がサイコウ。で、ここがサイコウを渡る橋」

「……ぁあ…………」

 ものすごく納得した声を、リョウさんが出した。これ、何回聞いても気持ちいい!

「あとで、村の位置とか、みんなに教えてもらったら、描き込むからね。便利になるよ!」

 そうだ、地図、ガリさんが帰って来るまでに、大陸全部完成させておこう。他の国も書き加えていく。

 リョウさんがずっとそこで立って見てた。

 そっか、リョウさんは、敵の迎撃よりこの地図の方が気になってるんだ? 頭脳派だから。体育会系軍師だもんな。

「こんなもんかな……」

 覚えている限り、村の位置も書き込んでおいた。

 もう二つ、画板を用意してもらって、車李(しゃき)の外観と、街と王城の見取り図書いた。もう、慣れたもんだ。

 前回はうっかり日焼けして、体が腐って落ちて、感染症で死んだっぽい。

 あれやばいっ! 本当にヤバイっ!

 そうだよ、現代でもグアムでメッチャ焼いちゃったとき、水ぶくれ出ただけでも注射打たれたんだよ。注射ないと、日焼けで人って死ぬんだっ! 怖い!

 どんどん自分の腕が腐っていくの、怖かったなぁ……

 今考えたら、腕を切断した方が良かったんだわ。あの時は、ようやくその決断ついたときにはもう、高熱が出てて喋れなかった。

 今度は、日の下に出ないようにしないといけない。

 キラ・シにも注意しておかないと、それこそサル・シュくんとかシル・アさんとか、死にかけかねない。

「ハルー、何してるんだ?」

「胸揉まないの、ル・マちゃん」

 後ろから抱きついてモミモミ。本当に『身内』だとベタベタするんだね。前でもずっと腕に抱きついてたのに。

「だって、ハルの体、気持ちいい……」

「お尻に抱きつかないでよっ!」

 どうにか、おなかに抱きつくので我慢してもらった。

 前は腕だったのに、今は後ろにぺっとり。地味に暑い……

「うわー……ハル、場所変わって?」

 サル・シュくんが指を加えて甘えてきた。

「私もそうしてあげたいよ……」

 ル・マちゃんが後ろでサル・シュくんにイーッてしてる。

「あっ……ちょっ……ル・マちゃんッ、動かないでっ! 絵が描けないよ!」

 サル・シュくんとの殴り合いで私まで振動がっ!

 リョウさんが、ル・マちゃんを剥がして、サル・シュくんに投げつけた。

「ハルの邪魔をするなら、二度と抱きつくな」

「わ…………わかったよ……胸を揉むなーっ!」

 リョウさんに殊勝に謝ったかと思ったら、がっつりもみ込んだサル・シュくんの顔に肘鉄! 相変わらずだなぁ、もう……

「ハル、それはなんだ?」

「車李の王城。この城壁の長さが……ガリさん6000人分。高さが四人分。厚さが一人半。この大陸で、二番目に大きい都だって」

 リョウさんが、画板の裏を覗いた。

 ないよ、そこに何もないよ。

 鏡を見た熊みたい。何回見てもかわいい。

「リョウさん、ちょっと外に出ていいかな?」

「何をしに」

「この羅季のお城も描いておきたい。それで、あの車李の大きさがよく分かるでしょ?」

「…………どういうのかわからんが、どうしたらいい?」

「一緒に外に出てくれるだけでいいよ」

「馬には乗せんぞ。ガリに殺される」

「表に出るだけ。大丈夫、伝令が来たときの範囲からは出ないから」

 羅季にも城壁があったのを覇魔流(はまる)が壊したって、『前回』マキメイさんが言ってた。

 城壁を歩いて距離図る。

 一歩40センチとして、150歩。60メートル。角が90度じゃないから、真四角の敷地じゃないみたいだけど、ほぼ60メートル角の敷地。車李(しゃき)が1200メートルだから、20倍だね。

 車李は丘の上で四方に門があって、360度攻められるけど、羅季は正面しか攻められない。三方が崖って凄い。

 これ、人間の手で削ってないよね? なんでこんな、『囲まれた岩盤の細い山』なんてものができるんだろう?

 その『細い山』の内側を、何百年もかけて削ったんだよね。凄いなぁ……

 車李城だって一枚岩って言ってた。どこまでで一枚岩なのか知らないけど、あの塔とか削りだしたんだもんね。

 この世界は、積み上げるより削る方が好きなのかな?

 って、前も思ったことがある……かな?

 羅季城も画板に描いた。玄関から見上げた透視図。

 実際には、凄く濃い焦げ茶の岩で、遠くから見ると真っ黒に見えるけど、薄墨で影だけつけた。

 リョウさんもマキメイさんたちもあんぐりと口をあけてる。

「素晴らしいですっ! ハルナ様っ! この羅季城でございますねっ! まぁっ…………なんて素晴らしいっ!」

 ありがとうありがとう。描き甲斐があるなぁ。嬉しい。

 ただの丸写しで芸術性は全くないけど、『説明図』なら巧いからね、私。

 車李城の絵の方に、羅季城のシルエットだけ追加。

「これが羅季城。車李はその200倍」

「ああっ!」

 リョウさんも、声を出して驚いてくれた。

 羅季城を絵にしたことで、車李城がようやく、リョウさんの頭の中で立体になったみたい。あの制圧の仕方だと、あんまり役に立たないけどね。ガリさんの『山ざらい』一発だから。

 逆にサル・シュくんとル・マちゃんは、遠くでじっと見てるだけ。特にサル・シュくんは腕を組んで機嫌悪そう。ナニ? 一体……

 そう言えば、『前回』も、地図には喜んでたけど、透視図の方は、遠くで見てた……よね?

 どうせなので、地図の拡大図も全部描いて、覚えているだけ村も描いて、釘も打っておいた。短冊も用意。

 よし。

 当然のように、凱旋のガリさんたちをお風呂に突っ込んで、地図の説明をして、短冊を刺して、はぁ……有意義な一日だった!

 お風呂に入ってバタンキュー……

  

 

  

 

  

 

 ガリさんにキスされた衝撃で目覚めるとか、心臓に悪い。

 ぼーっとする。

 ガリさん出て行ったけど、体が動かない……

 気持ちいいけど、面倒だな……これ……

「ハルー俺もー……」

「え?」

 ル・マちゃんにも、キス、された。

 なんでっ!

「ナニしてんのル・マっ!」

「サル・シュくんいいとこきたっ! 助けてっ!」

「助けてってっ、俺、入れないっ!」

「えー……だって、父上と同じことしたーい。ハル気持ちいーっ! 父上に抱かれたのどうだった?」

 なんてこと聞いてくるのこの子……。

「俺だって男に生まれたかったんだっ! 父上のすることは真似してきたんだからっ!」

 って、私口説くのやめてっ!

 ル・マちゃんと絡まってるところにガリさん来た。

「俺のだ」

 ちょっと……娘と父親で女取り合うとか、なにそのエロ漫画展開!

 もう、ル・マちゃん私の腕に抱きついたまま、離れない。だから、サル・シュくんとキスすら絶対してない。だって、サル・シュくん、私には近づいて来ないもん。

 ああそうか。

 サル・シュくんがしてくれない分、私にするんだ? 私いじってるときのル・マちゃん、凄い楽しそうな顔してて……心は男なんだろうな、って思う。

 そりゃ、男に押し倒されるのいやだろう。

 でも、これだと、サル・シュくんがル・マちゃんを抱いちゃって、どうのこうのっていう展開は、絶対なさそう。

 あれからもう、サル・シュくん、お城に帰って来なくなっちゃった。ずっと最前線。

「サル・シュ、こぇーこぇー。なんでずっと怒ってんの、あいつ」

 ショウ・キさんが゜帰って来るたびに笑ってる。

 車李の一万と二万も下して、車李城も『山ざらい』で雅音帑(がねど)王死んだみたいだけど、キラ・シもまだ羅季城にいる。この先どうするのかな……あっちに移らないのかな?

 だから、留枝(るし)城もまだ制圧してないんだよね。だからゼルブもいない。

 川も警戒してるし、制圧もしてるし、でも羅季が本拠だし……もう移動距離が凄いことになってる。

 ガリさん毎日帰ってくる。四カ月目のおなか、なでなでされると嬉しい。凄い子煩悩だね。

 前回ならもう留枝がサル・シュくんに潰されてる時期を過ぎたけど……

 あ……

 女官の中にサギさんがいたっ……

「出陣っ!」

「留枝が来るよっ! お城の中に敵がいる! マキメイさんっ、知らない女官さんから離れて!」

 私が叫ぶより少し前にガリさんがお城の外に駆けだした。

 川向こうに留枝軍が来たみたい。どうやってわかったの? 笛が聞こえた? こんなうるさいお城の中で?

「サル・シュくんっ! こっちきてっ! 変な敵がいるのよっ! 速いのっ! キミじゃないと無理!」

 怖い怖い怖いっ! ガリさんいないなら、サル・シュくんいないと、絶対無理っ。だって、あのゼルブの人達、リョウさんじゃ……無理だ……

「陛下確保っ!」

 塔の上の方で誰かが叫んだっ!

 えっ? 皇帝を盗りに来たの? キラ・シじゃなく?

 なんか、掛けられたっ! これ、油っ?

 油! 油を掛けた人をサル・シュくんが切り上げてこっちに飛んで来る。

「燃やせっ!」

 松明が投げ込まれた。

 サル・シュくんが私とル・マちゃんを突き飛ばした。私よりル・マちゃんのほうが重いから、転がって玄関まで……でも、彼が火に包まれた!

 うそっ……燃え上がった髪を刀で切り落として、燃えてる服を床転がって消そうとしてるけど、黒い服の三人にたかられて……血がっ!

 女官さんの周りから火がっ……熱いっ煙いっ!

 なんで? お城が……崩れるっ……

「ハルっ!」

 後ろから首を引っ掴まれて……あっ……ガリさんっ!

 前戦にいたんじゃないのっ!

 玄関まで、走る、けど、狭いっ!

 あの玄関、わざと狭くなってるからっ……

 お城がっ……崩れたっ……!

  

 

  

 

  

 

 綺麗な……お月さま…………

 リョウさんが、駆けてくる……ル・マちゃんも……

 ガリさんが、抱きしめてくれて…………

  

 

  

 

  

 

 

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