【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。95 ~留枝に攻められたあと~

 

 

 

 

  

 

  

 

 富士見台の家っ!

 また死んだっ!

 あれ、どういうこと?

 あのガリさん…………息してなかったっ?

「どうしたの春菜。どこか痛いの?」

 涙が……ぼたぼたダイニングテーブルに落ちていく。

 ガリさんが、助けに来てくれたんだ……

 あそこで、ガリさんが……死んだんだ………………

 キラ・シの族長が、死んだんだ…………

 なんで……、私のためなんかに…………

 留枝(るし)を、先に取らないと……

 ゼルブを先に味方にしないとっ!

 多分、『最初』に私を殺したの、サギさんだ……あの時も女官の中に紛れてたんだ……襲ってきたのは留枝だ。

 留枝を、先に、取らないと…………あの時、なんで留枝に行かなかった?

 拠点が羅季(らき)だったから、車李(しゃき)を崩した後、みんな羅季に帰って来たから?

 とにかく、留枝は、車李が崩れたらすぐに羅季に来るんだ……川が浅いことも知ってる。絶対に、ずっと調査してるはず。

「早く富士山噴火してよっ! 時間がないのよっ!」

「ナニ言ってるの、はる……な…………キャァッ!」

 また、富士山が噴火して、あの森の中。

 よかった…………

 私に、矢を向けて来てくれたの、ガリさんだった。

「ガリさん………………よかった……」

 生きてた……

 よかった…………あの、ガリさんじゃないけど…………

 会えて、よかった……

 一番先に会えて良かった……

「なぜ名を知っている」

「私が、あなたの女だから…………ガリさん……」

 もう、目が痛くて…………泣きすぎて………………

 抱きしめられたらフッと意識が無くなった。

 ガリさんの腕……あたたかい…………

  

 

  

 

  

 

 気がついたら、ガリさんがいた。

 よかった……

 抱きしめたら、抱きしめてくれる。嬉しい……

 あの時、最後まで私を抱きしめてくれていた……

 瓦礫に押しつぶされて、ガリさんの胸から下と私のおなかが一つになってた。そこに、炎の瓦礫が落ちてきて……

 あの綺麗な髪が燃え上がって……玉が、カラカラ落ちてった……

 ガリさんが……死ぬことがあるなんて………………

 あんな強い人が、あんなところで死ぬなんて……

 涙を拭ってくれた。でも、止まらない。

 抱きしめるしかできない。声が出ない。

「私、ちゃんと役に立つから。もっと役に立つから。

 絶対っ、キラ・シを滅ぼさせたりしないからっ!」

 私が足手まといになったり……しない、……からっ…………

 女の人に甘い、って、甘すぎる…………ガリさん……………あんなところに、族長が来ちゃ駄目だよ……

 あのあと、どうなったんだろう?

 サル・シュくんとガリさんが死んじゃって、キラ・シはどうなったんだろう? ル・マちゃんをつれて逃げたんだろうか?

 ゼルブはあれで引いてくれたんだろうか? サギさんやチヌさんに、ル・マちゃんは勝てただろうか?

「長生きしてね、ガリさん」

「名前は?」

「春菜」

「ハルナ」

 そっと頭を撫でてくれる。

「いっぱいいっぱいガリさんの子供産むから、長生きしてね……」

 くるみを口に入れられた。泣きながら食べるのって苦しい。

「その細い体では、そう産めんだろう」

「いっぱい食べてっ強くなるからっ! 大丈夫!」

 ガリさんが持ってたくるみを全部口の中に入れた。

 そうだ、食べなかったから体力なかったんだ。

 スタイルいいからとか、そんなことじゃなくて……

 食べて、運動して、強くならなきゃいけないんだ。

 だって『現代』の美容体重なんて、不健康以外の何者でもない。そんなものを目指したから、駄目だったんだ。

 リョウさんもガリさんも、私に太れ太れって言ってた。その通りに、したら良かったんだ。

 普通に歩けるレベルで、もうちょっと、太ろう。そんなことで、嫌われたり、しないんだから。

「無理をするな」

 噎せてたら水を飲ませてくれた。食べるのやめたら涙が出てくるから、食べ続ける。

「父上っ! なんか面白いの拾ったってーっ? どれ?」

 ドンッ、てガリさんが揺れたから私も一緒に揺れた。ル・マちゃんだっ!

「ル・マちゃんっ!」

「なんで名前っ!」

 多分無事だった、ル・マちゃんは無事だった。

 サル・シュくんが、救ってくれたから……あいかわらず細くて硬い体。ちょっと私より熱くて、……背中をトントンされた。

「俺の名前も知っていた」

「なんで?」

「さぁ……」

「ル・マっ! 見つけたっ!」

「サル・シュくんっ!」

「えっっ! ナニ! 俺、触ってないよっ!」

 サル・シュくんに抱きつこうとしたら、ガリさんに抱き留められた。

 サル・シュくんも3歩下がって後ろの人にけっつまずいたけど、ガリさんに掌を広げて見せる。

「族長の女になんか、俺触ってないからっ! 会ってもいないからっ! 知ってるだろっ! ずっとその女と一緒にいたよなっ、ガリメキアっ!」

「ねぇガリさん、一度だけ、一度だけサル・シュくん抱きしめさせてっお願いっ! 一度だけでいいからっ!」

 死んじゃった、きっとサル・シュくんもあの時死んじゃった! ル・マちゃん助けて死んじゃったんだもんっ!

「そんな怖いこと、族長にお願いしないでくれよ…………俺が殺される……」

 ガリさんの腕が緩まない。

「……ごめんなさい…………もう言わないから、ガリさん……ちょっと、腕緩めて下さい……苦しいです……ケホッ……」

 パッと腕が離れて、体重掛けてたから落ちそうになって、また抱きしめられて、両手で抱えられた。どこも痛くないけど動けない……

 ……そこまでしてもらわなくても…………

 でも、ようやく涙とまった。深呼吸。深呼吸。

 絶対、今度はみんな、守って見せる!

「私、ちょっとだけ、先見をするの。だから、名前とか、知ってたの。助けてくれる人だ、って知ってたから……」

 今回が前回とどれだけ違うかわからないけど、もう、面倒臭いからそうしよう。なら、聞いてないことを私が言っても、誰も不思議に思わない筈。

「へー、お前も先見するんだっ! 俺も俺もっ!」

 ル・マちゃんが手を握って振ったあと、私の手をすっっごい、凝視した。

「うわ……凄い気持ちいい手ぇ……」

 あ、しまった。そっちの扉は閉めたい。ル・マちゃんに口説かれるのは困る!

 いつもなら『お前も気持ちいいぞ』ってル・マちゃんを触って蹴り飛ばされそうなサル・シュくんが、ただ、ル・マちゃんの向こう側にあぐらくんだ。ガリさんの前では口説かないんだよね。今回も一緒だね。

 ガリさんから見えない、ル・マちゃんの背中の髪の毛を少し取っていじってる。かわいい……!

「あ、そうだ。栗っ! ほら、ル・マ。甘いぜっ!」

 サル・シュくんがル・マちゃんの口に直接栗を突っ込む。それはいいんだ?

「はい、ハルナさんも」

 えっ! サル・シュくんが私に敬称呼び!

 しかも、前は一個だったのに、三つぐらいくれようとしてる。

 私が手を出したら、その上にガリさんの手が乗った。

 大きな手。

 サル・シュくんが苦笑しながら一度手を引いて、その手に、もっと多くの栗を渡す。だよね。族長の手に三つだけとか、ないよね。その手が私の前に来た。相変わらず、渋皮付きなので剥く。

「何をしている?」

 リョウさんは聞かなかったのにな。

「渋皮を剥いてるの」

「シブカワ?」

「この、ヒラヒラ」

「なぜ」

「ない方がおいしいよ?」

 サル・シュくんが凄い、笑うの我慢して震えてる。

 ガリさんを見上げたら、少し目が丸くなってた。

 現代の栗は、この渋皮が剥けやすくなってるんだけど、この時代のはなかなか剥けないんだよね。

 やっと一個剥けた!

「甘いねー、この栗。ありがとうっ、サル・シュくんっ」

「うっ……、うんっ…………甘いだろっ……っ……っっ!」

 サル・シュくんが私とガリさんを交互に見て、耐えきれずに笑いだした。

 別にいーもん。笑われたって渋皮剥くもんっ!

 ガリさんは反対側の手で枝に指した肉を焼きながら食べてた。リョウさんみたいに、お肉はすすめて来ない。でも、お肉も食べた方がいいよね? タンパク質、栗からじゃ取れない。

「お肉も下さい」

「食えるのか?」

「食べられるよ。冷ましたら」

 目の前に持ってこられた、ジュージュー音を立ててるお肉をふーふーする。ル・マちゃんまで目茶苦茶笑いだした。

 もう大丈夫かな、と思ったけど、「アツアツアツッ!」まだだった。でも、吐けないのでどうにか呑み込む。喉がヒューヒュー鳴った……危なかった! 焼けるかと思った!

 サル・シュくんとル・マちゃんが、おなかを抱えて笑いながらあっちに行っちゃった。

「熱いか?」

 私が食べたところをガリさんがガッツリ食べる。

「猫舌なんです」

 猫舌は甘えとか、食べるの下手とか言われるけど、舌火傷したら一週間ぐらいずっと痛いんだからっ、やだよ!

 あ、ル・マちゃんとサル・シュくんが帰って来た。両手にいっぱい枝持ってる。

 お肉を細切れにして、焼いて冷ましてから、くれた。

「これなら食べられるっ!」

 ついに……なのか、ガリさんも笑いだした。

 左から笑い声がする。大きな熊さんっ!

「リョウさんっ! 居たのっ!」

「名前を知ってくれているのか。嬉しいな…………それと、ガリが後から来た」

 おなか押さえて笑ってる。

 夜のたき火は、暗いから。炎の影で見えない。特に今、まだ目がなれてないから夜なんて真っ暗。でも、隣にいたリョウさんに気付かないほどとは思わなかった。

 というか、背家側だったから、見えなくて当然、かな?

 でも、たき火囲んで凄い身内感あるー!

 ル・マちゃんが次のお肉をくれたのでむしゃむしゃ。

「これは何で味付けてるの?」

「塩」

 サル・シュくんが腰の袋の一つを見せてくれた。岩のクズ。岩塩かな? 個人で持ち歩いてるんだ?

「塩をつけただけのお肉がこんなにおいしいなんて! 幸せだねーっ」

 現代だと、別に何もおいしいと思わなかった。もちろん、ケーキとか、嫌いではなかったけど、キラ・シの食べてるものっておいしい。

 あ、ル・マちゃんたちが細切れ肉をいっぱい、枝につけて焼いてくれてる。そのために枝を取りにいってくれたんだ?

「ありがとうっ! おかげでたくさん食べられるよっ!」

 まだ笑ってる。

 前はお肉食べてなかったもんね。

 そうだっ! だから、筋肉痛来てたけど、タンパク質足りなかったから筋肉にならなかったんだ!

「いっぱい食え食え。太れ。そんな細い腹でガリの子は産めんぞ」

 太るのはやだけど、運動する体力はつけないとね!

 あっ……ちょっと食べすぎたかも……喉元までいっぱいだっ! 吐きそうになった。ごっくん。

「ハルナさん、吐き出せっ、がまんするなっ!」

「大丈夫大丈夫……でももういらない……おなかいっぱい……」

「ガリ、やはり肉が駄目だったんじゃないのか? 女は肉で良く吐くぞ」

「食べすぎただけ…………いつも、こんな食べないから……」

「ハル、幾らも食ってないぞっ! 父上、幾ら食べさせた?」

「くるみ7個と、栗8つと、今の肉だけだ」

「全然食ってねぇっ!」

「肉が悪かったかな、ハルナさん。ゴメン。面白かったから調子乗った!」

 そこでそれを暴露するのがキミだよね! ホントに!

「本当に、食べすぎただけ。大丈夫大丈夫。食べられるようにするから。お肉も食べるから。食べられるから、大丈夫。今は、初めて馬に乗ったからおなか変なだけ」

 たしかに、ずっと馬に揺られてるから胃はおかしい。いつも全然食べられなかったし、この時期。まだ食べてる方だわ、今日。

 それより、サル・シュくんに『ハルナさん』って呼ばれるたびに、鳥肌が立つ……

 前回も『ハル』だったじゃない。なんで?

 呼び方までランダムなの?

 とりあえず、食べたからかな? 崖下りは失神しても、夜の食事はちゃんと摂れるようになった! 筋肉痛も前よりマシな気がする。

 やっぱり慣れるよね。

 毎晩にぎやかなたき火の夕食。楽しい!

 このたき火は、ガリさんとル・マちゃん。ショウ・キさんとかリョウさんとかサル・シュくんが入れ代わり立ち代わり。一カ月ぐらい見てたら、多分、キラ・シの全戦士が来てたと思う。

 キラ・シ以外というか、他の部族から来た人達は、ガリさんの前で土下座から始まってた。

 キラ・ガンのサガ・キさんもいた。ガリさんと、キラ・ガン12人がぐるっとたき火を囲んでる。ここに私いていいの? っていつも思うけど、もう慣れちゃった。

 ル・マちゃんたちが細切れ肉を焼いてくれたのを冷ましてくれてるから、冷めてそうなのから食べてく。栗やくるみや木の実もいっぱい。

 そう言えばリョウさんも、いろんな人がたき火に来てたね。族長さんと副族長さんは忙しいね。

 こうして、部族のみんなと仲よくしてるんだね。

 制圧の夜もこうなのかな? 一緒に動いている数人の戦士と、笑顔でたき火囲んでるんだろうね。

 ガリさんの馬の側で、ガリさんに抱きしめられて眠るの。気持ち、いーい。

  

 

  

 

  

 

 一つ目の大きな崖を降りたあと、夜に凄く熱くて、ガリさんの上から降りたことがあった。

 毛皮は敷いてるけど、地面の冷たさが気持ちよくて…………それが、駄目だったんだろうな、風邪引いた。

 朝起きたとき、私が地面にいたからガリさんが跳び上がって驚いて、慌てて抱き上げてくれたけど、もう、咳が出てた。

 筋肉痛が出てるってことはその部分が炎症を起こしてるから、体が弱くなってるんだよね。だから熱くなって、冷たいのを求めたんだけど、今度は冷えて抵抗力が下がって、風邪引いたんだ。

 山を舐めちゃいけない、って聞いたことある。ものすごく冷えるんだよね。だって、地面って、絶対に、人間より温度の質量大きいもんね。海と一緒、永遠に冷え続けるんだ。

 そりゃ、体育、十点評価の1だから……、運動はできないけど、風邪引くなんてこと、『今まで』なかったのに。

 そうか……ずっと抱いてて貰ってたからだ。

 ナニカと言えば、リョウさん、私を抱き上げてた。

 あれ、これがあったんだ。

 冷えるから。

 あのおかげで私、寒さ知らずだったんだ。

 羅季(らき)に入ったら、温石つけてたから……『冷える』ことがなかったんだ。それに、すぐ車李(しゃき)に行ってたから、暑い方が問題だった。多分、昨晩零下まで下がったんだろうな……凍死しなかっただけマシ?

 キラ・シって医学とかの理屈じゃなく経験で行動してるから、前も、冷やした女の人がこうして風邪引いたから、絶対下ろさないんだ?

 そっか……

 それでも走ってるから、馬で揺さぶられて、全然体が治らなくて、食べられなくなって、吐いてばかりで、水すら飲めなくなって……

  

 

  

 

  

 

 

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