「そのあと、留枝(るし)を陥とす。そのあと、この『密偵』がうろうろしてるから、それをとらえて脅せば、キラ・シの味方になる。
この、ゼルブの部族だけは、敵にしちゃいけないっ!」
叫びすぎて目眩がした。
リョウさんが抱えてくれるけど、涙があふれて、
「絶対に、キラ・シが勝つんだよっ! 下手したら、ここでガリさんとサル・シュくんが死ぬからっ! 絶対にっ、ここで留枝を、留枝王城を先に陥とすんだよっ!」
もうナニ言ってるのかわかんないほど泣き叫んでしまったけど、キラ・シのみんなは、オーッ! って、拳を振り上げてくれた。
「私が先見できるのはここまでなの…………だから、絶対に、勝って……っ! 勝って……下さい……!」
「はっ……!」
起きたら、寝室、だった。
マキメイさんに頼んでた温石も巻かれてる。隣にル・マちゃんとリョウさん。あっちにサル・シュくん。
うわ……目が痛い…………泣きすぎた?
「ナニ? ハル。俺が死ぬトコ、先見で見たの?」
ああ、それが聞きたかった?
つま先からの凄いセクシーショット。目の毒なので、服着てほしい。
「うん…………でも、サル・シュくんが先に、留枝を陥とせば、そんな未来は消えるよ…………
今のところ、その二つが見えてるんだ………………負けるか、勝つか……だから、勝って……」
「当たり前だ。あそこまで言われて、負けるように動くわけない。ルシだろ? 絶対に、陥としてやる」
「うん…………その時に、できたら、ゼルブの民は殺さないで。
密偵の部族なんだ。
ル・マちゃんより少し遅いぐらいだけど、それが100人以上いる」
ヒュウ……って、口笛吹くサル・シュくん。
いや、あのゼルブの戦士がみんなそんな速いかは知らないけど、とにかく、お頭のチヌさんがそのレベルだった。
「ルシの王様をサル・シュくんが殺したあと、隙を見せたら襲ってくる黒い人達がいるから、殺さずに縛って、気配消して監視してて。面白いことして縄を抜けるから。
そのあと、治ったら戦士として働ける程度にギッタギタにしていい」
「その時のル・マの未来は?」
「ルシを陥としたときは元気だよ。負けたときは……サル・シュくんが助けてくれたから、生きてた」
「族長は?」
「私を助けたから、私と一緒に死んだ……」
あ、駄目だ。何回思い出しても泣ける……
今は、私はリョウさんの女なんだから、ガリさんのことで泣いたらリョウさんが複雑になっちゃうよ……
「族長と俺が一緒に死んだなら、来世でも一緒に産まれられるなっ! リョウ叔父より近いかもっ!」
キャハッ、とサル・シュくんが笑ったから、私も笑えた。
こういうときのサル・シュくんは、天才的だ。泣かせてくれない。
「大丈夫。ルシを先に叩けば、そんな未来にはならないから……」
リョウさんが頭を撫でてくれた。
「それさぁ、今すぐ行っていいんじゃないのか?」
サル・シュくんがヨッ、とベッドから跳ねて、床にポンと立つ。
「今は、車李からの戦士を止めないと……」
「そんなの、族長がいたら簡単だろ」
「…………たしかに、そうだけど…………若戦士で間に合う感じ」
「弱い……なッ! 族長っ!」
ガリさんが、戸口に立ってた。
「続きを、今からできるか?」
ガリさんは、もう、黒づくめ。ズボンに長袖。袖の下に手っ甲替わりかな? 指無し長手袋みたいに布を巻き付けてる。
「もちろん、すぐできるよ! 3人とも、服を着てよ!」
まだ全裸のル・マちゃん、サル・シュくん、リョウさんに指さし確認。
「ル・マちゃん……本当にもう…………なんで、全裸でサル・シュくんと抱き合って眠れるのっ! それ、サル・シュくんがかわいそうだからねっ!」
「ハルは分かってくれるんだっ! すげぇっ! もっと言ってもっと言って、ル・マを説得して!」
「説得はしない。ル・マちゃんの意志に任せる。とにかく、ル・マちゃん、服を着てっ、そしてあっためてっ!
昨日、あちこち行った人も帰ってくるよね? 一緒に、話をしてしまおう! ちょっと、男の人は全員出て! ル・マちゃんと女の話があるから!」
サル・シュくんが真っ先に出て行った。
「ハルってすげーな、リョウ叔父」
って声が聞こえてる。
ル・マちゃんに生理パンツ履いてもらって、温石帯つけて、マキメイさんにも喜ばれて、さぁっ、出陣っ!
昨日の続きを玄関で演説して、帰って来た人から村情報を仕入れて拡大地図に書いていく。短冊をつけてその説明をしてハウリングに耳ふさいで、
「さぁ、車李(しゃき)5000がくるよっ! ガリさんっ!」
笑いながら、ガリさんが出て行った。みんな笑ってた。
笑って帰って来た。
やっぱり、何回やっても、車李軍はザルだ。
というか、この世界の戦士がキラ・シの相手にならない。
このチートは、『世代交代が間に合わない』っていうズレと重なってるんだ。
このチートがある間に地盤を固めてしまわないと、現役戦士が死んでいく世代交代でキラ・シが全滅する。多分……そのために、チートなんだ。
ゼルブが加われば、とりあえず大丈夫な気はするけど、その先は見たことないからなぁ……
羅季城と車李城も描いておいた。ガリさんに狙ってほしいところも指し示す。
「今年、女の人を抱いた数が、15年後のキラ・シの戦士を増やすんだよっ! 戦もいいけど、そっちも頑張って! これは私、どうにもできないからねっ! 元気で強い子を、たくさん産ませるんだよっ!」
キラ・シハウリングが羅季城を震わせた。
そろそろ車李一万のために出陣。
「リョウさんも行く?」
三日後に私の孕み日が来るってサル・シュくんが言ってた。今出陣するなら、来月になっちゃう。
「こいつは置いていく」
リョウさんに聞いたのに、ガリさんが私の肩を叩いた。
「良い子を孕め」
ひゃっ!
いつもはけっこう悲壮な出陣になるんだけど……なんか凄いヨユーこいてて大丈夫だろうか?
ガリさんを見送ったら、リョウさんも真っ赤だった。
「よ……よろしくお願いします……」
「……おう……」
「なんでリョウ・カが照れる?」
「うるさいなっ!」
ショウ・キさんにまじめな顔で突っ込まれて、リョウさんがめっちゃやつあたりしてる。
もちろん、二週間ぐらい筋肉痛に泣いた。
そろそろ、ガリさんが車李城についたかな?
今回は5000の援軍のあとに、先発隊で戦車3000がいたらしい。そのあと、歩兵一万、二万が続けてきたって。
『村の制圧』も、どんどん短冊が黒くなってる中、サル・シュくんがまったくお城にいない。
今回は私がリョウさんの女だから、ル・マちゃんといちゃこらしてる筈なのに。
サル・シュくんがいないから、まだ私も彼に頭突きしてなくて、『四位』を貰ってなかった。
羅季城の裏口に井戸掘ってお風呂に行きやすくした。
今度は裏口だから裸の男がうろうろしても玄関は無事! よし!
ひらりって、目の前にナニカが落ちてきた。
なんで?
人影が、天井の隅をよこぎった。
「侵入者っ! ル・マちゃんっ!」
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