【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。155 ~おしっこしてきて~

 

 

 

 

  

 

  

 

 ガリさんが『山ざらい』かけて、見事に辺りが血まみれ。

 この血のニオイも慣れたよね。

 キラ・シ本体で羅季(らき)城に突入する寸前に、頼んでみた。

「サル・シュくん、中に居る人達、外に出てもらおうよ」

 すでにワクワクと突入を待ってるサル・シュ君、かわいい。

「なんで?」

 振り返った私に、顔の角度を合わせて真正面から見てくれる。これも、サル・シュ君だけだよね。こういう所もフットワークいいんだよな。

 ガリさんとかリョウさんは目だけで見てくるから、ジロリ感怖い。

 しかもサル・シュ君って、私を見たときにニコッてしてくれるから、ホント、かわいい。

『かわいい』以外になんかもっといい言葉ないのかと思うけど、『かわいい』。

「洞窟の中で人殺したら、血を洗うのが大変だから。今日、あそこで寝るよね? どうせ殺すなら外で殺そうよ」

 物騒なことを言ってる私。

「……そうだな、あそこで寝るなら、そのほうがいいか……」

 サル・シュ君がリョウさんに掛け合ってくれた!

 今までの騒動を、とりあえずエントランスでしてもらう。

「その人っ! その人が族長っ! 族長殺されたくなかったら全員出てこい、って言っていい?」

 リョウさんがガリさんを見て、ガリさんが右手をあっちに振った。GOのハンドサイン。

「皇帝陛下はこちらにいるわっ! 全員出てきなさいっ! 私達が入って見つけたら、全員その場で殺すよ!」

 出てきても殺すと思うけど……

 私の声を、リョウさんが復唱した。

 いやいや、女言葉ですってそれ……

 出てきた出てきた。

 1、2、3、4、5、……

「リョウさん、戦士が122人、生かしておいてほしい人が42人いるの」

 皇帝陛下一群はガリさんに任せて、女官さんには玄関に戻ってもらった。

 これでシャンデリア無事、と思ったのに……

 女官さんが、向こうの壁際に張りつくみたいに並んだ。みんな上を気にしてる。

 そっか、まだいるのか、そこに……

「天井の奴! 今なら殺さないから、降りて来いっ! いつつ数えるぞ?」

 復唱されるなら、男言葉だよね。やっぱりリョウさんが復唱した。たしかに、私の声じゃ中まで届いてないかも。

 でも、降りて来ない! 出てきなさいよっ!

「リョウ叔父、ハル頼む」

「サル・シュくん……上に二人居る」

「わかってるわかってる」

 サル・シュ君、振り返りもせずに、左手上げて振っただけ。戦闘モードになると脇見しないのもいつもの彼ね。

 シャンデリアの兵士、まだ、降りて、来ない。

 サル・シュくんが矢を二本つがえて突入。

 シャンデリアは、落ちた…………あああああああっっっ!

 しかも、通路の奥にもまだいた!

 ナニ! 戦士の人数もランダムなのっ? たしか、前に、死体が122体だったと思ったのに!

 でも、サル・シュくん、そこで殺さずに出てきた。

「ショウ・キっ!」

 サル・シュくんが手を上げて、自分の方に振りながら叫ぶ。

 そっか、サル・シュくんのほうが上位だから、命令できるんだ? ショウ・キさん、『残党処理』好きなんだもんね。たしかに、適材適所。というか、サル・シュ君が面倒なだけだと思うけど。

 ショウ・キさんに耳打ちして、二人でお城に戻った。

 何するの?

 あ、玄関入って、二人が左右に別れた。

 そっか、このお城はあの奥の階段付近に三本の廊下がつながってるから。でもそれって、この時点でサル・シュ君が知ってる訳無いよね。単に、細い通路から潰そうとしてるのかな? …………あ、左右から追い出された兵士がメイン通路に追い出されてきた。

 あなたたちだけ頑張っても仕方ないでしょう? そのまま外まで出てきなさい。皇帝陛下は、まだ生きてるわよ……って、男言葉でいうとどうなる?

 一瞬考えた隙に、サル・シュくんが全員殺した。

 凄い、不機嫌そう。

「めんどくせぇ」

 イヤそうに吐き捨てた。

 そうだね……

 確かに、弱いのにただ固まって抵抗してるのを追い出すなんて、時間かかるのわかるもんね。こんなの殺したって『誉れ』にならないし。全然面白くないだろうし。

「サナッ! 早く外に出せっ! 中が汚れる」

 だから……サル・シュくんが外に出してくれたら、汚れないんだよ……運ばなくても自分で歩いてもらえたのに…………

 でも、玄関の汚染は最小限かな……

 その間にガリさん、庭に追い出した人達、やっぱり全員殺した。

 まぁ、皇帝陛下が先に嘘ついたって言うなら、もうこの時点ではどうしようもないものね。

 というか、私がガリさんと一緒に、窓特攻しない限り変えられないから、これは今後もどうしようもないんだろうな。さすがにガリさんも、私を乗せてあれは飛べないだろうし、私もいやだ。

 皇帝さんの方に向いて手を合わせる。殺さないから出てきなさいとか嘘ついてごめんね。

 キラ・シがシャンデリアの残骸も死体も出してくれたから、玄関はとりあえず、クリーン。

「リョウさんたちは中に馬で入らないで。サル・シュくんも、馬を外に出して」

「やだ。上があるから見てくる」

 ……だよね…………キラ・シを馬から下ろすって無理だよね。

 ああ……せっかく綺麗だったのに、お城中、泥と馬糞でどろどろ。

 私は結局、ル・マちゃんの馬に乗せられてしまった。

 ガリさんとレイ・カさんとショウ・キさんが当たりの平定のためにあちこち走っていく。サル・シュくんが階段を下りてきた。

 相変わらず『真っ直ぐの崖気持ち悪い!』って叫んでる。

 どうやら、ミアちゃんも女官さんが連れて出てるみたいで、サル・シュくんの成果にはなってないみたい。

「あ、マキメイさん」

 女官さん達の前に彼女はいた。あ、後ろにミアちゃんを抱いた女官さんをかばってる。サル・シュくんは気づきそうにない。いい感じ。あの騒動、面倒臭いから、ないならそれが一番いい。

「お風呂と、食事の用意、お願い。あと、私の靴と。

 それと、そこに大きな画板を用意してくれる?」

「…………は…………はい……」

「私、先見ができるから、あなたたちの名前、みんなわかってる」

「えっ!」

 声に出さずに『ミアちゃんも』って言って、

 

「わかってるから。

 この人達、キラ・シって言う、完全な蛮族で、容赦なんて無いから。言うこと聞いて。すぐ殺されるからね。

 それと、羅季(らき)礼を絶対にしないで?

 キラ・シ礼は、こう、両方の掌を広げて見せるの。武器を持ってない、ってことで。毒吹き矢とか、凄く警戒してるから。

 あなたたちがそんなことしないと私は知ってるけど、彼らは知らないから。自分の部族以外は全員敵なの。この人たち殺し合いで生き残ってきた人達だから、容赦なんて、ホントにないから。

 敵はすぐに殺すから。まず、敵だと思われないように、『武器を持ってない』ことを必ず相手に見せて。

 キラ・シに会うたびに、必ず毎回やって。いい? そうしないと殺されるから。殺されるから。大事なことだから何度でも言うよ。殺されるから。

 キラ・シとすれ違うとか、突然キラ・シが目の前に出てきたとかの時、必ずやって。物を持ってるなら、それを下に置いてでもやって。いいわね。しないと殺されるから。

 お願いよ? あなたたちを殺されると困るの。言うこと聞いてね?」

 もう一度私が両手を広げて振ったら、女官さん達も両手を広げて見せてくれた。

 ル・マちゃんも、手を振り返す。それに、女官さん達、ホッとしたみたい。

 まぁ、ル・マちゃんはこの戦闘集団の中で一番小さいしね。子どもたちはまだここにいないから。

「ね? これが、キラ・シの挨拶なの。『キラ・シ礼』なの。

 ここはキラ・シに制圧されたんだから、キラ・シの流儀をまず学んで? それだけで殺されないから。お願いね。

 彼らも、あなたたちを憎くて殺すんじゃないのよ? 敵だと思ったら自分が殺されるから、先に殺すの。基本的に、女性には手を上げないから、その点は安心して。私はあなたの味方の女です、ということを必ず表明して。手を広げて振るだけだから、必ずしてね」

 女官さんたちコクコク。

「まず、私の靴をお願い。料理長に食事を作ってもらって、とりあえず、100人分。できたのから出してくれていいから。味付けは塩だけにして。甘ダレはナシ。同時に、ここに画板を用意して。墨と絵の具もね」

 凄いみんな、ウンウンうなずきながら聞いてくれてる。

「はいっ! いますぐにっ!」

「上まで空っぽっ! 真っ直ぐの崖っ、気持ち悪ぃっ!」

 叫びながら奥から戻って来たサル・シュくんが、玄関から出て行った。

 子供がいた、って気づいてない? あ、ここの扉が全部開いてるから、戸の説明してない!

 沙射くんをまだ見つけてないんだよね? これは、ガリさんに行ってもらったほうがいいんだろうけど……

 あ、ガリさんが階段を馬で駆け上がってった。上で沙射君を見つけるのかな?

 まだ気迫ダダ漏れだから、女官さんが悲鳴アゲルアゲル。

 あれは仕方ないよねー。

 そういえば、ガリさんは『戸』を理解してるのかな?

 女官さんが丸テーブルを五つ出した。壁に画板をおいてくれる。よし、これを書いてしまってから、お風呂いこう。

 ようやく入ってきたリョウさん。

「ル・マちゃん、あの白い壁に寄ってくれる?」

「なんで?」

「あそこに書きたいから。もう、誰もいないから安全でしょ?」

 あ、マキメイさんが靴を持ってきてくれた。

「行ってくれないなら、馬を下りていい?」

 馬の上から地図書いたの、初めてだわ……

  

 

  

 

 料理も、塩で焼くだけだからすぐに並べてくれた。

 地図を説明して、食事をして、お風呂っ!

 これでもう、お風呂上がったらすぐに眠れる!

 あ、一つ忘れてた。

  

 

  

 

  

 

  

 

 あーもー、この筋肉痛、どうにかなんないのかな……眠いし……

「ハルー…………寝てろよー……」

「おしっこしてきて」

「……え?」

「朝したいなら、その前におしっこしてきて」

  

 

  

 

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました