ガリさんが『山ざらい』かけて、見事に辺りが血まみれ。
この血のニオイも慣れたよね。
キラ・シ本体で羅季(らき)城に突入する寸前に、頼んでみた。
「サル・シュくん、中に居る人達、外に出てもらおうよ」
すでにワクワクと突入を待ってるサル・シュ君、かわいい。
「なんで?」
振り返った私に、顔の角度を合わせて真正面から見てくれる。これも、サル・シュ君だけだよね。こういう所もフットワークいいんだよな。
ガリさんとかリョウさんは目だけで見てくるから、ジロリ感怖い。
しかもサル・シュ君って、私を見たときにニコッてしてくれるから、ホント、かわいい。
『かわいい』以外になんかもっといい言葉ないのかと思うけど、『かわいい』。
「洞窟の中で人殺したら、血を洗うのが大変だから。今日、あそこで寝るよね? どうせ殺すなら外で殺そうよ」
物騒なことを言ってる私。
「……そうだな、あそこで寝るなら、そのほうがいいか……」
サル・シュ君がリョウさんに掛け合ってくれた!
今までの騒動を、とりあえずエントランスでしてもらう。
「その人っ! その人が族長っ! 族長殺されたくなかったら全員出てこい、って言っていい?」
リョウさんがガリさんを見て、ガリさんが右手をあっちに振った。GOのハンドサイン。
「皇帝陛下はこちらにいるわっ! 全員出てきなさいっ! 私達が入って見つけたら、全員その場で殺すよ!」
出てきても殺すと思うけど……
私の声を、リョウさんが復唱した。
いやいや、女言葉ですってそれ……
出てきた出てきた。
1、2、3、4、5、……
「リョウさん、戦士が122人、生かしておいてほしい人が42人いるの」
皇帝陛下一群はガリさんに任せて、女官さんには玄関に戻ってもらった。
これでシャンデリア無事、と思ったのに……
女官さんが、向こうの壁際に張りつくみたいに並んだ。みんな上を気にしてる。
そっか、まだいるのか、そこに……
「天井の奴! 今なら殺さないから、降りて来いっ! いつつ数えるぞ?」
復唱されるなら、男言葉だよね。やっぱりリョウさんが復唱した。たしかに、私の声じゃ中まで届いてないかも。
でも、降りて来ない! 出てきなさいよっ!
「リョウ叔父、ハル頼む」
「サル・シュくん……上に二人居る」
「わかってるわかってる」
サル・シュ君、振り返りもせずに、左手上げて振っただけ。戦闘モードになると脇見しないのもいつもの彼ね。
シャンデリアの兵士、まだ、降りて、来ない。
サル・シュくんが矢を二本つがえて突入。
シャンデリアは、落ちた…………あああああああっっっ!
しかも、通路の奥にもまだいた!
ナニ! 戦士の人数もランダムなのっ? たしか、前に、死体が122体だったと思ったのに!
でも、サル・シュくん、そこで殺さずに出てきた。
「ショウ・キっ!」
サル・シュくんが手を上げて、自分の方に振りながら叫ぶ。
そっか、サル・シュくんのほうが上位だから、命令できるんだ? ショウ・キさん、『残党処理』好きなんだもんね。たしかに、適材適所。というか、サル・シュ君が面倒なだけだと思うけど。
ショウ・キさんに耳打ちして、二人でお城に戻った。
何するの?
あ、玄関入って、二人が左右に別れた。
そっか、このお城はあの奥の階段付近に三本の廊下がつながってるから。でもそれって、この時点でサル・シュ君が知ってる訳無いよね。単に、細い通路から潰そうとしてるのかな? …………あ、左右から追い出された兵士がメイン通路に追い出されてきた。
あなたたちだけ頑張っても仕方ないでしょう? そのまま外まで出てきなさい。皇帝陛下は、まだ生きてるわよ……って、男言葉でいうとどうなる?
一瞬考えた隙に、サル・シュくんが全員殺した。
凄い、不機嫌そう。
「めんどくせぇ」
イヤそうに吐き捨てた。
そうだね……
確かに、弱いのにただ固まって抵抗してるのを追い出すなんて、時間かかるのわかるもんね。こんなの殺したって『誉れ』にならないし。全然面白くないだろうし。
「サナッ! 早く外に出せっ! 中が汚れる」
だから……サル・シュくんが外に出してくれたら、汚れないんだよ……運ばなくても自分で歩いてもらえたのに…………
でも、玄関の汚染は最小限かな……
その間にガリさん、庭に追い出した人達、やっぱり全員殺した。
まぁ、皇帝陛下が先に嘘ついたって言うなら、もうこの時点ではどうしようもないものね。
というか、私がガリさんと一緒に、窓特攻しない限り変えられないから、これは今後もどうしようもないんだろうな。さすがにガリさんも、私を乗せてあれは飛べないだろうし、私もいやだ。
皇帝さんの方に向いて手を合わせる。殺さないから出てきなさいとか嘘ついてごめんね。
キラ・シがシャンデリアの残骸も死体も出してくれたから、玄関はとりあえず、クリーン。
「リョウさんたちは中に馬で入らないで。サル・シュくんも、馬を外に出して」
「やだ。上があるから見てくる」
……だよね…………キラ・シを馬から下ろすって無理だよね。
ああ……せっかく綺麗だったのに、お城中、泥と馬糞でどろどろ。
私は結局、ル・マちゃんの馬に乗せられてしまった。
ガリさんとレイ・カさんとショウ・キさんが当たりの平定のためにあちこち走っていく。サル・シュくんが階段を下りてきた。
相変わらず『真っ直ぐの崖気持ち悪い!』って叫んでる。
どうやら、ミアちゃんも女官さんが連れて出てるみたいで、サル・シュくんの成果にはなってないみたい。
「あ、マキメイさん」
女官さん達の前に彼女はいた。あ、後ろにミアちゃんを抱いた女官さんをかばってる。サル・シュくんは気づきそうにない。いい感じ。あの騒動、面倒臭いから、ないならそれが一番いい。
「お風呂と、食事の用意、お願い。あと、私の靴と。
それと、そこに大きな画板を用意してくれる?」
「…………は…………はい……」
「私、先見ができるから、あなたたちの名前、みんなわかってる」
「えっ!」
声に出さずに『ミアちゃんも』って言って、
「わかってるから。
この人達、キラ・シって言う、完全な蛮族で、容赦なんて無いから。言うこと聞いて。すぐ殺されるからね。
それと、羅季(らき)礼を絶対にしないで?
キラ・シ礼は、こう、両方の掌を広げて見せるの。武器を持ってない、ってことで。毒吹き矢とか、凄く警戒してるから。
あなたたちがそんなことしないと私は知ってるけど、彼らは知らないから。自分の部族以外は全員敵なの。この人たち殺し合いで生き残ってきた人達だから、容赦なんて、ホントにないから。
敵はすぐに殺すから。まず、敵だと思われないように、『武器を持ってない』ことを必ず相手に見せて。
キラ・シに会うたびに、必ず毎回やって。いい? そうしないと殺されるから。殺されるから。大事なことだから何度でも言うよ。殺されるから。
キラ・シとすれ違うとか、突然キラ・シが目の前に出てきたとかの時、必ずやって。物を持ってるなら、それを下に置いてでもやって。いいわね。しないと殺されるから。
お願いよ? あなたたちを殺されると困るの。言うこと聞いてね?」
もう一度私が両手を広げて振ったら、女官さん達も両手を広げて見せてくれた。
ル・マちゃんも、手を振り返す。それに、女官さん達、ホッとしたみたい。
まぁ、ル・マちゃんはこの戦闘集団の中で一番小さいしね。子どもたちはまだここにいないから。
「ね? これが、キラ・シの挨拶なの。『キラ・シ礼』なの。
ここはキラ・シに制圧されたんだから、キラ・シの流儀をまず学んで? それだけで殺されないから。お願いね。
彼らも、あなたたちを憎くて殺すんじゃないのよ? 敵だと思ったら自分が殺されるから、先に殺すの。基本的に、女性には手を上げないから、その点は安心して。私はあなたの味方の女です、ということを必ず表明して。手を広げて振るだけだから、必ずしてね」
女官さんたちコクコク。
「まず、私の靴をお願い。料理長に食事を作ってもらって、とりあえず、100人分。できたのから出してくれていいから。味付けは塩だけにして。甘ダレはナシ。同時に、ここに画板を用意して。墨と絵の具もね」
凄いみんな、ウンウンうなずきながら聞いてくれてる。
「はいっ! いますぐにっ!」
「上まで空っぽっ! 真っ直ぐの崖っ、気持ち悪ぃっ!」
叫びながら奥から戻って来たサル・シュくんが、玄関から出て行った。
子供がいた、って気づいてない? あ、ここの扉が全部開いてるから、戸の説明してない!
沙射くんをまだ見つけてないんだよね? これは、ガリさんに行ってもらったほうがいいんだろうけど……
あ、ガリさんが階段を馬で駆け上がってった。上で沙射君を見つけるのかな?
まだ気迫ダダ漏れだから、女官さんが悲鳴アゲルアゲル。
あれは仕方ないよねー。
そういえば、ガリさんは『戸』を理解してるのかな?
女官さんが丸テーブルを五つ出した。壁に画板をおいてくれる。よし、これを書いてしまってから、お風呂いこう。
ようやく入ってきたリョウさん。
「ル・マちゃん、あの白い壁に寄ってくれる?」
「なんで?」
「あそこに書きたいから。もう、誰もいないから安全でしょ?」
あ、マキメイさんが靴を持ってきてくれた。
「行ってくれないなら、馬を下りていい?」
馬の上から地図書いたの、初めてだわ……
料理も、塩で焼くだけだからすぐに並べてくれた。
地図を説明して、食事をして、お風呂っ!
これでもう、お風呂上がったらすぐに眠れる!
あ、一つ忘れてた。
あーもー、この筋肉痛、どうにかなんないのかな……眠いし……
「ハルー…………寝てろよー……」
「おしっこしてきて」
「……え?」
「朝したいなら、その前におしっこしてきて」
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